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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その1~報酬①~


***


「一本、それまで」


 ロゼッタの判定に、イェーガーの傭兵の間にどっと歓声が起きた。もはや恒例となった、朝練の最後のレイヤーとラインの手合せ。最近ではその様子を見守る傭兵たちが賭けをするようになっていた。ラインは片手を封じたり、片足を封じたり、何かしらの制限を付ける。対してレイヤーは誰にも言っているわけではないが、ラインの教えた範囲内の剣技しか使わない。その状態でラインから一本取れるかどうかを賭けているのだ。

 ちなみにターラムに行く前は、ラインの両足を縛った状態かつ片手封じでさすがにレイヤーが一本取った。だがそれ以外では、まるでラインに歯が立たないのが現状だった。だがレイヤーもターラムでの激闘を経て、多少なりとも自信をつけていた。その内面の変化を敏感に感じとった傭兵たちはレイヤーにやや多く賭けたのだが、結果は両足を地面につけたまま、かつ片手のラインにあしらわれていた。

 レイヤーは空を呆然と見上げたまま呟いていた。


「・・・なんで?」

「動きが硬直化してるぞ? ターラムに行く前よりも固いな。自信ありげに見えたが、ターラムでの経験が逆効果になっているんじゃないのか。まぁ新兵を卒業したばかりの兵士にありがちな病気だな」

「そんなことがあるのか・・・ですか?」

「今が生死を賭けた場面じゃなく稽古ってのものあるだろうが、騎士剣を使った戦いの経験を積んだわけじゃないだろう? それどころじゃあなかったのかもしれないが、教わったものを使わないと伸びるわけがない。だからそれは、別物の戦闘経験ってことだな」

「うーん、難しい」


 レイヤーが難しい顔をして悩んだので、ラインはその頭を乱暴にわしゃわしゃと撫でた。


「まあそんなもんだ。強さの道ってのは修練を積んでも一直線に伸びるわけじゃない。時に戻ったり、回り道をしたりだ。まぁたまには悩むといいさ、誰でもそんなもんだ。

 むしろ一直線の方が怖い時がある。登るのは早いが、落ちる時も一気だ」

「ちなみに副長は今の剣と、本来の剣ならどちらが得意ですか?」


 見抜いてやがる、こいつ、とラインは一瞬険しい顔になった。ラインは本来の騎士剣を傭兵たちの前でほとんど見せたことがない。最近使ったのは、カラミティとやりあった時くらいか。だが連日剣を合わせるレイヤーには、感じるところがあったのだろう。

 ラインは正直に答えた。


「個人的に振るうのが得意なのは傭兵としての今の剣だ。だが評価が高かったのは騎士剣の方だった。実際、強敵との戦いでは騎士剣が自然に出ちまう」

「じゃあまだ僕は、副長に本気を出させる領域にないということですね」

「そういうわけじゃないさ。俺が騎士剣を使うのは生死を賭けた場面だけだ。元騎士だなんて恥ずべきことで、大っぴらにするものでもないからな。あまり他人にゃ言うなよ?」

「副長の命令なら」


 レイヤーは一礼すると、むずがゆそうにラインは去った。その直後にエルシアが話しかけてくる。


「また派手に負けたわね」

「足を払われて脳天に突きを軽く入れられただけだよ。でも想像以上にあっさりやられた」

「そう? 私は紙一重だと思ったんだけど。なんだかレイヤーが動きにくそうだったから」


 レイヤーははっとしてエルシアの方を見た。どうしてそのことに気付いたのか。不安そうにエルシアを見るレイヤーに気付き、エルシアは慌てて取り繕っていた。


「そ、そんなにいつも見ているわけじゃないのよ? でもなんだか体が重そうだったから、ひょっとしてターラムでこき使われていた疲れがあるのかと思って」

「・・・ああ、なんだ。そんなことか」


 ひょっとして自分の本来の仕事と力量に気付かれたのかと思ったが、別段そういったわけではないようだ。レイヤーは内心で胸をなでおろした。


「それで? 何か用があるのかと思ったんだけど」

「え、ええ。そういえばレイヤーってさ、剣を研ぐ仕事もしているのよね?」

「時々ね。実利と剣のことを知る練習も兼ねて受けたりするよ。どうして?」

「私の剣を研いでもらえないかと思って」


 エルシアが妙にもじもじしながら頼んできたので、レイヤーは訝しがった。


「どうして? 僕の研ぎなんて手習いもいいところだし、街の研ぎ師の方が早くて腕もいいよ? 僕なんかの研いだ剣で練習したら、逆に悪い方向に出るかもしれないのに」

「いいの! 私がそう決めたんだからいいの!! それにお給金だってそれほどもらっているわけじゃないし、節約したいの!」

「ターラムでの活躍で、臨時報酬が出たでしょ? もう使っちゃったの?」

「そうじゃなくて、私はね!」


 あなたに研いで欲しいのよ、といいかけてエルシアは口をぱくぱくさせて思いとどまった。それはエルシアも思いもよらぬ欲求だったが、まるで恋の告白みたいではないかと思ったのだ。剣が欠けていることをロゼッタに指摘され、レイヤーの報酬次第では任せてしまおうと思ったくらいなのに、どうしてこんな展開になるのか。

 エルシアがしどろもどろになっていると、さらにルナティカがレイヤーの元にやってきた。

 

続く

次回投稿は、6/26(月)8:00です。

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