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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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濁流に呑まれる光、その6~海竜の慟哭⑤~

「発想はよい。だがその程度では届かんよ」


 サーペントは右手でドゥームを叩き潰していた。収束しかけた悪霊ごと叩き潰す衝撃に、ドゥームの意識は一瞬で刈り取られた。サーペントはドゥームが意識を失ったのを確認すると、凍らされていた水路を再度復活させ、浄化された水を喚び寄せた。現在あるだけの水ではこの悪霊たちを浄化するには足りないように思えた。戦闘経験と実力こそ未熟だが、その精神的な危険性を考え、確実に浄化すべきだと判断した。

 サーペントは慎重にドゥームとオシリアを水で取り囲むと、退路を断ってから詰問する。


「さて、これからお前たちを浄化する。さすがに瞬間的には無理だろうが、なまじ力が強い分だけ消滅するのに時間がかかるだろう。苦しむことになるかもしれないが、言い残すことはあるか?」

「ないわ。むしろあなたの方こそどうなの?」

「なぜ私が? 何を言い残す?」

「このドゥームはね、確かに戦いのセンスもないし、頭が良い方とは言えないわね。正直黒の魔術士の中では侮られているわ。だけど、人間が混じっている悪霊というのは学習するのよ。そして悪知恵だけは誰よりも働くのだわ。

 あなた、何の勝算もなくこんな弱くて臆病なこの人が、真竜の前に出てくると思う?」


 擁護したわけではなく、むしろ辛辣なオシリアの意見の意図をサーペントが推測した瞬間にはもう遅かった。ドゥームの影から、ぬるりと人間の影が出現した。見覚えのある女の姿に、サーペントは時が止まったかのように凍り付いていた。


「フ、フェアトゥーセ・・・?」

「サーペント」


 フェアトゥーセが優しく甘い声で囁きかける。フェアトゥーセがなぜその影から現れたのか、サーペントには気にする余裕もなかった。ただフェアトゥーセは沼地で別れた時と変わらぬ美しさで、いや、妖しいともいえるまでの美貌と艶めかしさを伴い、サーペントの前に現れたのだ。その美しさが以前とは違うものだとサーペントが理解できてればもう少し違う反応もできたかもしれないが、サーペントは愛情という感情について、知らなさ過ぎた。

 ふわりと浮遊したフェアトゥーセがサーペントの顔の前に来ると、フェアトゥーセはそっとのその頬に抱きついた。今が戦いであることなど忘れたように、二人はただそっと互いの体温を感じていた。


「――フェア、なぜここに?」

「全てが片付いたら会いに来ると言ったでしょう? だから来たのよ」

「そうか・・・久しぶりに見るそなたはやはり美しい」

「私は・・・そうね」


 フェアトゥーセはサーペントの鼻の頭に乗り、そっと瞼を撫でた。近すぎてフェアトゥーセの顔を見るにも一苦労の距離だが、幻身するわけにもいかずサーペントは撫でられるに任せる。その時、フェアトゥーセの表情をもっとよく見ていればサーペントも異常に気付けただろう。

 フェアトゥーセの表情は、我慢できないほどの好物を目の前にした時の肉食獣にも似ていたのだ。


「サーペント、あなた・・・」

「うん?」

「とっても――うん、とてもおいしそうだわ」


 突然サーペントの視界が真っ赤に染まり、直後暗転した。サーペントが何が起きたのかを理解したのは、両目に迸る激痛と、眼球の中に侵入してくるフェアトゥーセの腕の感触によってである。

 サーペントが咆哮を上げたが、彼はフェアトゥーセを払いのけることは決してしなかった。その目の前にいる女がフェアトゥーセではないと最初からわかっていたとしても、サーペントはフェアトゥーセの姿をしたものを傷つけることはできなかったのだ。

 フェアトゥーセの姿をしたマンイーターの姿が歪んでいく。下半身を蛇のように変化させ、背中に翼、腕を6本に変化させた魔王となったマンイーターは、左腕を眼球事ひきぬくと、さもうまそうにサーペントを賞味していた。


「ああ~おいしいわ。これまで食べたどんな美味な食材よりも極上ね。やはり竜種というものは力が漲るのかしら」

「フェ、フェアトゥー・・・」

「馬鹿ね、白魔女なんてとうにこの世にいないわよ。私が食べちゃったもの。ああ、一つだけ教えてあげる。あまりに強情で絶望に耐える様が滑稽だったから、生きたまま少しずつ食べたのね? それでも両足右手がなくなったあたりで、べそをかきながらあなたの名前を呼んでたわ。どうしてもあなたに会いたいって言うから、魔女の秘密や知識、力を散々聞き出してから願いをかなえてあげたわ。だから、ほら」


 マンイーターの腹のあたりに、肉塊が盛り上がる。その肉塊がフェアトゥーセの顔に変化したのだが、当然サーペントには見えようはずもない。だからマンイーターは肉塊を叩いて、声を出すように促した。そして震える声で、ようやく口を動かしたのだ。


「サーペント・・・ごめんなさい」

「・・・ォォォォオオオオオオオオ!」


 フェアトゥーセが絞り出した謝罪の声を聞いて、サーペントの慟哭が沼地の灰色の空に響き渡った。



続く

次回投稿は、6/10(土)10:00です。

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