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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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濁流に呑まれる光、その4~海竜の慟哭③~

「おいおい、沼地を吹っ飛ばす気か!? ってか、海竜なら水を吐けよ!」

「どうして海竜が水を吐かねばならんと決まっているのだ。それは偏見ではないのか?」


 不敵に笑うサーペントがドゥームに襲い掛かる。サーペントの体は普段沼地に横たえているが、久方ぶりにその体を攻撃するために持ち上げた。ドゥームたちは浄化し終わって清流となった部分の体しか見ていなかったが、サーペントは普段沼地の底に体を埋めているのだ。

 その体を持ち上げると大地が揺れ、火竜の数倍はあろうかという高さにまで頭の部分が上昇し、そして遥か彼方からサーペントの体が橋のようにいくつも持ち上がってきた。ドゥームたちがせいぜい馬十数頭分だと思っていたサーペントの長さは、完全に予想を裏切られた。これならば、砦すら一巻きにして締め潰せるのではないかと思うほどの体躯を誇るサーペントの巨体だった。


「・・・はぁ? 長居にもほどがあるだろ!」

「知らんのか? 海竜は長さだけなら竜の中では最大だ。草原竜イグナージのような規格外の竜はさておき、私よりも巨大な生き物はまずもって数えるほどしか存在しない。それでも海洋の生物の中では、蚯蚓程度の大きさでしかなかろうよ。そんなことも知らずに戦いを挑んできたのか?」

「う、うるさいよ!」


 動揺するドゥームを嘲笑うかのように、光線を連発するサーペント。今度は小さくした光の球を複数同時に撒き散らすように発射し、しかも連発してみせた。

 ドゥームは逃げ回りながら、防戦一方となる。


「ぬぐぅううう!」

「どうしたどうした。それ!」


 サーペントが胴体で水面を打ち付けると、津波が発生しドゥームを襲う。逃げ場のなさに悪霊の壁を作って防御するドゥームだが、その壁が一発で削られるのを見た。


「浄化した水は悪霊にとっては天敵だろうな、何発耐えられるかな? それ、それ!」


 水面を面白がるようにサーペントが叩きつけ何発もの津波が発生すると、ドゥームは悪霊の壁を横倒しにして複数発生させ、足場にして津波が届かない高さまで駆け上がった。

 サーペントが感心する。


「ほう、階段のように悪霊を使うか。これは器用な」

「現存する悪霊の中では最高位なものでね。悪霊たちの期待に応えられないと、こっちが憑り殺されちゃうよ」

「だが、その限定された足場では逃げ場があるまい?」


 サーペントの面前まで来た瞬間、周囲に水の塊が無数に浮いていることに気付くドゥーム。サーペントは攻撃態勢を整えて待っていたのだ。


「こ・・・の!」

水柱貫突ウンディーネストライク


 無数の水が槍のように変形し、回転して貫通力を揚げながらドゥームに襲い掛かった。さらに追い打ちをかけるように、サーペントは口から今度こそ水のブレスを吐いた。激流のようなブレスが、ドゥームのいた地点を貫き地面の木々を薙ぎ払っていた。


「ふむ、ちとやりすぎたか。あまりやると、せっかく沼地に育った自然が壊れかねんな」


 サーペントは浄化して育った森を壊さないように戦ったつもりだったが、周囲の被害はやはり甚大だった。

 そして吹き飛ばしたドゥームからは反撃の様子がない。まだ死んではいないと思うのだが、サーペントは静かになった周囲を訝しがっていた。


「なんだ、もう終わりか?」


 サーペントが様子を伺いながら起こした体をまた埋めようとしたところ、周囲に発生した異常に気が付いた。周りに水が異常に少ないのだ。

 そのことに気付いた時、ドゥームが再び戻ってきた。


「いやいや、さすがにこの程度じゃ終わらないよ。ってか戦うのは久しぶりなんじゃないの、海竜様よぅ」

「だったらどうした?」

「もうちょっと周囲に気を配りながら戦わないとね。こっちだって正面からの力押しだけで勝てると思うほど己惚れちゃいないよ、どうして周囲の水が少ないと思う?」

「・・・まさか」

「おい、ドゥーム。おおよそここに入る水路は凍らせてきた」


 テトラスティンが姿を現す。その体は白く輝き、足元は歩くたびに凍り付いていた。隣に控えるリシーも同様だった。その様子を見てサーペントは事情を察し、ドゥームは満足げに頷いた。


「うむ、ご苦労。じゃあこっちの戦いに参加してくれないかな?」

「私はお前の部下ではないのだがな。起きろ、ヴァジュヌ。出番だ」


 テトラスティンの体に二つ目の精霊の顔が浮き出る。氷を纏うその上に、雷が走り始めていた。その時、一つ目の顔の目に光が戻り、突然恨み骨髄まで響くような呻き声を上げた。


「おおお・・・テトラスティン! よくも、よくもぉおおお」

「お前たちは泣き言以外の何かを言えないのか。たまには役に立つ言葉でも吐け」

「言えるわけがない・・・あなたたちを助けようとした私たちにこの仕打ちをした貴様を、恨んでも恨み切れるわけがない!」

「フラウニー、ちょっと黙れ」


 テトラスティンが体に浮き出た氷の精霊の目に指をねじ込んだ。眼球が潰れ、悲鳴と血を流す氷の精霊フラウニー。


「きゃああああ!」

「静かにしていろ、相手は真竜だからな。私もリシーも、さすがに余裕がない」

「貴様・・・精霊を体に縫い付けて封印したのか? 外法だぞ!」


 サーペントが怒りに露わにする。それもそのはず、精霊や自然を保護すべきサーペントのみならず、精霊の捕縛はあらゆる生物にとって禁呪とされる。精霊なくしてあらゆる生物は存在できない。性欲や睡眠欲しか持たないとされるオークや低級のゴブリンでさえ、精霊が顕現した時には平伏して怯えるばかりと言われるのだ。

 それを捕縛するとは普通ではできないことだが、それ以上にこの世の生き物にとって最大の禁忌である。いかに守るべき人間と言えど、見逃すわけにはいかなかった。


「すぐに精霊を解放しろ! そうすればせめて苦しまずに殺してやろう!」

「いやだね、というかもう肉にまで食い込んで無理だ。外せば彼女たちは絶命するだけだな」

「ならば貴様ごと消滅させてやろう!」

「できるのならこちらからお願いしたいくらいだが」


 リシーとテトラスティンの姿がふいに消えた。その瞬間、面前にある二人の姿。


「せっかく得た力だ。真竜相手にも試してみるか」


 リシーの二刀が迸ると、サーペントの両目に命中した。咄嗟に目を塞いで眼球を守ったものの、一時的に視界を奪われるサーペント。



続く

次回投稿は、6/6(火)10:00です。

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