濁流に呑まれる光、その3~海竜の慟哭②~
――その数時間前――
ドゥームたちは沼地の前に集合していた。面子はドゥーム、オシリア、マンイーター、ティタニア、テトラスティン、リシー。
ドゥームは今回の集合の目的を説明しようと、枯れ木の上に立ってそれぞれを見下ろした。
「よく集まってくれたね、皆。これも僕の人望のおかげかな?」
「馬鹿なことを言ってないで早く説明しなさい。誰が貴様に貸しがなければ来るものか」
「私はなんでもいい。だが目的くらいは聞いておこうか」
「ノリが悪いなぁ、もう!」
ドゥームは冷めた全員の反応を見て、つまらなさそうに説明を始めることにした。こういうときケルベロス、グンツがいれば多少違うのだろうが、リディルも含めて竜の巣の制圧を手伝っている最中である。その方が彼らの経験にもなるだろうし、さすがにこちらの任務は荷が勝ちすぎると考えられた。
「じゃあ手短に。真竜サーペントを今から狩るからついてきて」
「・・・また唐突に、とんでもないことを」
「そういう要件なら、もう少し説明が欲しいところだな」
さすがに今度は全員の顔つきが変わっていた。実はオシリアですら今回の目的は知らされていない。なんとなく想像はしていたが、ここで来たか、とは思うくらいには可能性を知っていたが。
ドゥームはそんな彼らの反応を見ると、今度こそ満足そうに説明を始めた。
「僕の仕事は大地の汚染だ。その方が僕という存在には都合がよいし、僕らの計画にとってもそうだろう。そのためには、サーペントの浄化は非常に厄介でね」
「待て、今更黒の魔術士のために動くだと? そんな必要があるのか?」
「あるさ。裏切ったティタニアはともかく、僕はまだ黒の魔術士の一員だからね。オーランゼブルに睨まれたくはないし、ここいらで少し点数を稼いでおきたいのさ。オーランゼブルに睨まれて、ブラディマリアやライフレスを仕向けられるのは御免かな」
「だが真竜は殺すなとのお達しではなかったのか?」
「それは真竜を始末するまでの方便さ。オーランゼブルが恐れたのは、真竜たちが一致団結して抵抗すること。グウェンドルフ一体でもてこずるのに、百はまだ現存するといわれる真竜が群れで襲ってきたらさすがに黒の魔術士も危ういだろうと考えたのさ。
だけどもう真竜の群れはいない。一時休戦という言葉だけの平和ももう意味がないし、サーペントが邪魔になりこそすれ、生かしておく必要なんて全くないと思わないか」
「だからといって、危険を冒してわざわざ殺す意味があるのか。それはオーランゼブルの考えではないだろう?」
「そのとおりだ。だから点数稼ぎと、世の不浄が増えることは僕にとっても利点がある。それ以外に理由はないさ」
「・・・」
ティタニアはドゥームの言葉を信じたわけではないが、真竜と一度戦ってみたいというのは彼女の剣士としての願望でもあり、これ以上の詮索は無用と考えた。それにドゥームに借りがあるのも事実だった。
テトラスティンはサーペントを狩るだけの意味も意義もなかったが、真竜の一撃ならあるいは自分たちを殺してくれるかもしれない。リシーと目配せをしてその意志を確認すると、黙って付いていくことにした。
そのある意味では盲目的な面子の中で、オシリアが冷静にドゥームに質問した。
「とはいえ、オーランゼブルにばれると後々面倒である可能性もあるわ。大丈夫なのかしら」
「今、オーランゼブルは手が離せない。計画が詰めに入って、彼にはやることが沢山だ。工房からはしばらく出られないだろう。本来、この時のための黒の魔術士なんだからね」
「誰が教えてくれたの?」
「ピートフロート経由で、親切な友達が教えてくれるのさ」
ドゥームがにやりとし、オシリアは『友達』の意味を察していた。
「勝算は?」
「必勝の策がある。じゃなきゃ来ない」
「ああ、あれのことね。でも逆効果なのではないかしら?」
「まあ駄目なら出直すだけさ。それでも最低限の目的は果たせそうだけどね。さて、行くか」
ドゥームはこれから向かいの店で買い物をする、くらいの軽い足取りでサーペントの元に向かったのだ。
そして今に至る。途中で遭遇した沼人や魔獣など、彼らにとっては肩慣らしにもならなかった。それなりに回収できた悪霊や澱みがせめてものドゥームの糧となるが、汚染地帯に入るとここは非常に居心地がよいとドゥームは感じていた。
「絶好調だね。これで勝てなかったら、悪霊引退かな」
「ごちゃごちゃほざく暇があったら、かかってこんか!」
サーペントが口から光線を放つ。ドゥームは間髪で躱し身を翻すと、光線が着弾した遥か背後では、ちょっとした山ほどもある水柱が上がっていた。
続く
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