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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その284~静かな怒り⑫~

***


「よう、ヴォルギウスのじいさん。せめて安らかに眠ってるかよ」


 ガーランドはターラムのアルネリア支部で祈りを捧げていた。跪いて手を組み祈るアルネリアのそれとは違い、立ったまま胸に軽く手を当て瞑想もしていない。だが支部の裏手にある殉職者たちの墓の前で祈る彼の姿は、その粗暴な普段の振る舞いからはかけ離れて荘厳な空気さえ感じさせる。

 墓に花を添えるまではよかったが、ガーランドらしくその墓に酒をかけ始めた。その様子を見ていたブランディオが思わず口をはさんだ。


「ヴォルギウスのじいさんって、下戸やなかったっけ?」

「いいんだよ。実際に呑むわけじゃなし、こういうのは気分だ、気分。やる側の思いが大切なんだよ」

「死者の弔いじゃなくて、自己満足やないかい」


 ブランディオが呆れたところで、ガーランドは空になった酒瓶をぽいと投げ捨てた。その顔は妙に清々しくもある。


「これでここに用はねぇ。そろそろこの街も離れ時だな」

「恩人やろが。たまには墓に報告に来たらんかい」

「そりゃあ無理な相談だ。俺はこれから、ヴォルギウスのじいさんに顔向けできないような行為をする。なあ、過激派のブランディオさんよ」


 ガーランドの言葉に、ブランディオの視線が鋭くなる。ガーランドはその視線を正面から見ても、まったくたじろぎもしなかった。


「ワイとあんさんがつながっているってのは、基本内緒や。そのことは忘れんとき。特にラペンティの婆さんに気付かれると厄介なことになる」

「心配しなくても、表舞台に立つことはねぇよ。俺はアルネリアに登録されたわけじゃなし、本部だってアルネリアのことにある程度詳しいゴロツキ程度の認識だろうさ。そもそも俺の仲間が何人いるかなんてヴォルギウスのじいさんでも知らねぇことだ。俺たちがターラムから消えたって、誰も気に留めやしねぇ。ただ潜伏先くらいは用意してくれるんだろうな?」

「それは心配せんでもええ。あんさんたちにはこれから4つに分かれて潜伏してもらう。行動の時期は追って連絡するわ」

「次の獲物と時期くらい教えてもらってもいいだろう?」

「大陸平和会議の時期やろな。各国の君主、代表が集まって一見警備が厳しそうやけど、必ず穴が生じる。そこを突く。獲物は直前まで知らん方がええ」

「ふん、慎重なことだ。俺たちが裏切るとでも?」

「裏切っても誰もゴロツキなんぞ相手にせえへんよ。それに裏切るとも思ってへんけど、死体からでも情報は取れるからな」

「そうか・・・ならあんたの背後にいる相手のことも、当然教えてはくれないんだろうな?」


 ガーランドはにやりと意地悪く口を歪ませながら質問したが、ブランディオもまた同じように企み深く笑っていた。


「そらそうや。スポンサーのことを話しても、ええことなんて一つもないやろ? 知らん方がええことかてある」

「じゃあひとつだけだ。そのスポンサーとやらは俺達と同じく、アルネリア憎しってことか?」

「せやな。ワイのスポンサーは激しくアルネリアを憎んどる。その点はあんさんらと共通や。心配せんでも、きっちりやり遂げるつもりや」

「それならいいんだ、俺はあんたの指示に従うだけだからな。ヴォルギウスのじいさんも死んだ今、大して人生の目標もないしな。ただ一つだけ。あんたはアルネリアが憎いわけじゃないだろう? どうして俺たちと行動を共にする?」


 ガーランドの言葉にブランディオは一つ大きく息を吐いたが、今度は笑顔で返答した。


「それ、あんさんらに関係あるか?」

「あるな。目的が違う奴は容易に裏切る。信用できないさ」

「心配せんくても、仕事の分だけはきっちり働くわ。ワイもミリアザールはめっちゃ邪魔やねん。そろそろ消えてほしいと思っていることに関して、あんたらと目的は一緒や」

「なぜ消えてほしいと願う」

「その方が面白いやろ?」


 その言葉を発した時ブランディオの目を見て、ガーランドは久しぶりに恐怖という感情を覚えた。恐怖を覚えたのはいつ以来だろうか。たいていの修羅場をくぐったガーランドは、魔物の群れを前にしても、得体のしれない状況を前にしても思考力が鈍ることはない。恐れは判断を鈍らせるだけで、生きる上で邪魔だと思っている。なのにブランディオの目を見た瞬間、ガーランドは凍ったように動けなくなった。

 そんなガーランドを見て、ブランディオは懐から一通の封書を取り出してその手に握らせた。


「次の指示と必要な金がギルドで受け取れる。ちゃんと言うことを聞くんやで?」

「・・・ああ」


 ガーランドはなんとか返事をしたが、ブランディオが姿を消すまでその場に立ち尽くしていた。そしてその目の意味について、必死に頭を巡らせていた。


「(ギルドがグルとなると、相当根が深い問題だな。スポンサーとやら、相当な権力者じゃないのか。それに今の目は・・・諦観。全てを諦め、何にも期待していない目だった。どんな絶望を見て育てばあんな目になる? あいつはただの巡礼じゃないのか)」


 だがうかつに調べることも身を危うくすると感じていた。ただブランディオが嘘は言っていないと今は信じ、ガーランドは指示通りしばし姿を隠すことにしたのだった。



続く

次回投稿は5/29(月)10:00です。次回から新しい話になります。

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