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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その263~剣の風⑦~

「この状況で断れるかよ。これも運命と思って諦めらぁ。ま、命があぶねぇのは元々だし。死ぬまで美人と同道できると思えば、それほど悪くもねぇ人生かもな」

「妙に聞き分けがいいわね。信用してもよいのかしら?」

「そっちから誘っておいてそりゃあねぇぜ。俺は長い物には巻かれる主義だ。でなけりゃヴァルサスになんか従うかよ」

「ふふ、妙に説得力があるわね。ならば一つ、私たちも秘密を見せましょうか。起きなさい、ロザンナ。死んでる場合じゃないわよ」


 ファンデーヌがロザンナの死体を小突くと、ロザンナの目に瞬間的に光が戻り、くるりと顔を向けた。大概のことに驚かないゲルゲダも、ロザンナの反応の良さに驚いて一歩後ずさった。確実に首を折られ死んでいたはずだ。現に今でも首はあらぬ方向に曲がったままではないか。

 それなのにロザンナの首は蛇のようにのたくっていた。だがそれ以上首以外は動かすことなく、ファンデーヌを睨んでいた。


「ちょっと。足蹴にしないでくれる? 今は体が動かないのよ」

「不満ぐらいは言わせてもらうわ。あなたが余計なことをしなければ、こんな面倒は起こさずに済んだ。あの獣人をさっさと始末しておけばよかったのに、どうしてこんな危ない状況で始末する羽目になったのかしら?」

「だって、あの獣人の悲哀が楽しかったのですもの。知り合うたびにその知己が片端から死んでいく。そのたびに酒に溺れ、女や賭け事に溺れ、姉役の人形に溺れ、ついには犯人である私に溺れた。私が作った義肢は、私の意志一つで自由に動かせる。そのせいでこんなことになったのに、わけも知らずに使い心地が最高だ、お前は最高の職人だなんてべた褒めしてたのよ? これが喜劇でなくて、なんというの? あなたならわかるでしょう?」

「あなたが勝手に愉しむのはいいわ。巻き込まないでほしいとだけ言っているの」

「それに関しては悪かったわ。でも予備スペアの体を用意してあげたのだから、それでチャラってことにしてくれない?」

「・・・それを言われると弱いわね。私たちは対等の関係のはずだけど?」

「もちろんだわ。だけど役割の都合上、私の言うことに逆らえるかしら?」


 寝ころんだままのロザンナに、ファンデーヌが渋い顔をした。ロザンナの言うことは事実なのだろう。ファンデーヌは小さくため息をついた。


「・・・わかったわ。で、どうすればいいのかしら」

「この体はもう駄目ね。動かすことはできるけど、燃やしてしまった方がいい。肉体的に、というよりは社会的に死んだことにしたかったから。どのみち交換の時期だったし」

「代わりの体は?」

「もう用意してあるから、この体が活動停止すれば動き始めるわ。連絡方法はいつもの通りに。でもこの街はもう駄目ね。バンドラスが死んだせいで、相当治安が改善されるでしょう。どさくさに紛れて動くことはしばらくできなくなるわ。どこかでこの街は離れることになる。

 あと一つ心配なのは、剣の風は調整後だから万全だけど、貴女の体はなじむまでにもう少し時間がかかるということ」

「と、なると、誰を動かすわけ? 型をとった相手を殺しておかないと面倒なことになるでしょうけど、剣の風はこの街にはもういられないわ。私は本調子じゃないからまだ誰相手によっては難しくなるわね。いったい誰の体から型をとったのかしら?」

「この街の自警団長、リリアムよ」


 思わぬ人物の名に、ファンデーヌの表情がにわかに曇った。


「それは愚策ではなくて? あなたは本来戦闘用ではないわ。別にもっと目立たない相手にすればよかったのに。リリアムを殺すのは私でも骨が折れるわよ?」

「精度の高い器を作るにはそれなりに時間がかかるわ。その点、幼少期からターラムにいるリリアムはいくらでも時間があったのよ。あそこまで強くなったのは結果論よ。

 そもそも、剣の風にやらせるつもりだったのよ。でもあいつ、私のところに予定通りに来なかった。こっちから出向いて修正しておいたけど、自我が強くなりすぎている。剣の風はただの始末屋でよかったのに、人間に興味を持ってしまっている。ただの始末人が他人に興味を持つなんて、どうしたことかしら」

「ああ、そういうこと。なら一つ心当たりがあるわ。確か仕留め損ねた人間がいるとか言っていたものね」


 ロザンナの顔が驚きに歪んだ。


「剣の風と渡り合える人間がいるとは思えないけど、心当たりはある?」

「私も詳しく知らないわ。でも、殺し損ねた人間がいるとは言っていた。剣の風の攻撃をしのいだ人間なんて、今までいたかしらね」

「それはもう人間とは呼べないかもしれないわ。いかなる魔獣、魔王すら殺してきた剣の風よ? 聞いておけばよかったわ、それは優先して殺すべき相手よ。ただでさえ一人減ったせいで手数が足りないのに」

「そうね。正直いなくてもいいと思っていたけど、あれがいないと手数が足りないわね。便利な能力だったのに」

「・・・すまん、話についていけんのだが」


 ゲルゲダが困惑顔で手をそろそろと上げて質問した。ロザンナとファンデーヌは顔を見合わせるようにきょとんとした。そういえばゲルゲダもいたな、といわんばかりの顔だった。



続く

次回投稿は、4/17(火)13:00です。

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