快楽の街、その261~剣の風⑤~
「魔術? いや、そんな様子はなかったが」
「そうですか・・・まあ私もあまり感じたことのない魔術でしたし、しかし気になりますね。よければ調べてもよろしいですか?」
「そりゃあ構わんが、死体に失礼なことはするなよ?」
「ひどい信頼のなさだ」
グロースフェルドが心外だという顔をわざとらしくしながらケイマンとロザンナの死体に近づこうとしたが、そこにゲルゲダがふらりと現れた。
「何してんだ、お前ら」
「ゲルゲダですか。突然襲い掛かってきた連中がいたものでね。反射的にやってしまったのはいいですが、気になる点があるので現場検証というところですよ」
「この街じゃあ珍しいことでもなんでもねぇだろ。そんなことよりさっさと合流を急げや。街の北で合流して、ちょいと演習をかました後にヴァルサスと合流すんだろ? もうヴァルサスは合流地点にいるらしいぜ? あんまり待たせるとあの旦那は一人で突っ込みかねんからな。ここは俺がやっといてやる」
「随分と気前がいいですね。明日は嵐ですか?」
「はっ、こういう汚れ仕事が俺の役目だろうが。誰がテメェらの尻拭いをしていると思ってる?」
ゲルゲダの偉そうな言い方に、カナートが睨み返した。
「そりゃあこっちのセリフだ。まぁいいや、後始末つけてくれるんなら願ったりだ。任せてもいいがその女を粗末に扱ってみろ、ただじゃすまさないからな」
「けっ、ミリウスの民は被害者意識が強くていけねぇ。逆差別ってんじゃねぇのか、それ」
ゲルゲダの不平不満にカナートがぎろりと睨んだが、ゲルゲダは無視して部下を指笛で呼び寄せた。彼らはケイマンの死体をてきぱきと布に包むと、どかしていく。その手際を見てグロースフェルドはため息をつきながら他の者を伴ってその場を後にした。彼らを見送ると、ゲルゲダはロザンナの死体をあらためて見下ろしていた。
彼には似つかわしくなく神妙な顔をするゲルゲダに、部下が話しかける。
「隊長、知り合いで?」
「見たことはあるがな。ターラムでもミリウスの娼婦は比較的珍しいからな」
「好みですかい?」
「機嫌を損ねたら素手でくびり殺されるような女なんざ御免だね。お前ら、グレイスを抱きたいと思うか?」
「そりゃあ御免ですぜ。ただ巨人のグレイスじゃあサイズが違うってもんでしょう。この女は美人だ。まさか隊長・・・死体でもイケるくちですかい?」
「阿保か、お前。下衆な勘繰りはやめて、用事が終わったらさっさと消えろ。こっちは俺がやっとく」
「へいへい。隊長にだけは、下衆だとか言われたくねぇんですけどね」
部下は白けたように離れていったが、彼らがいなくなった後でファンデーヌが現れた。微笑むファンデーヌにうすら寒いものを覚えながら、ゲルゲダは顎でロザンナの死体を促した。
続く
次回投稿は4/13(木)14:00です。