快楽の街、その260~剣の風④~
「くっ!」
カナートの反射神経あってこその業だったが、すれ違いざまにカナートはケイマンの首に致命傷を与えていた。骨を切る感触があり、皮一枚でようやくつながるほどの深い一撃。カナートが振り返りケイマンを見ると、その表情には驚きと焦燥が浮かんでいた。もはや声を出したくても血があふれ出るだけで、ケイマンは指一本も動かすことはできなかった。
数瞬後に死ぬことは明白な傷だったが、ケイマンはその数瞬であらゆることを考えていた。死んだ仲間たち、ドライアンの安否、ロザンナの姉に惚れたこと、そして物取りに襲われて死んだこと。そしてロザンナのこともまた憎からず思っていたが、ついに所帯を持つには至らなかったこと。
そして、ケイマンは目だけを動かしてロザンナの方を見た。ミレイユが生死を確認しているが、どうやら助からないようである。その結末に悲しいよりも、ケイマンが安心したような気分になったのはなぜだろうか。共に冥途に旅立つ者が増えたからか、はたまたロザンナが最後に見せた笑い方が、見たこともないほど歪んでいたからだろうか。
「(そういや、ミリウスの民の家に押し入ろうなんざどんな馬鹿だったのか。外からは侵入した形跡がなかったし・・・まてよ。外からじゃない・・・中に、いた?)」
中ではロザンナが倒れていた。外ではなく、中に犯人がいたのだとしたら。それにさっき左手が勝手に動く前、ロザンナが左腕に触れていた。ロザンナがもしあらゆることの犯人だとしたら? ケイマンの周囲の人間が次々消えていったことにも納得がいく。ケイマンは常にロザンナの店でそいつらと会っていたからだ。
考えれば単純なことだった。まさか色香に目が眩んでいたとでもいうのだろうか。だがそのロザンナも死んだ。いったいあの女はなんだったのだろうかと考えながら、ケイマンは事切れた。
そしてケイマンとロザンナが死んだあとで、ブラックホークの団員たちは納得のいかない顔で互いの顔を見合わせていた。
「・・・なあ、一体何だったんだと思う?」
「ワタシに聞かないでよ。わかったのは、多分もとグルーザルドの軍人の獣人ってことだけ。んでもってこんなところにいるってことは、グルーザルドの諜報部の類かもしれないってこと」
「それがいきなり出てきて、この死に方か? 死人を辱めるつもりはないが、あまりに間抜けだ」
「だからわかんないって」
ミレイユが困惑したところに、グロースフェルドが戻ってきた。
「どうしましたか、二人とも。命の灯が二つほど消えたように感じたので、心配して戻って来てみれば。やや、これは一体!?」
「驚くふりはいらないぞ、グロースフェルド。どうせ全部わかっていたんだろ?」
「そうそう、変態神父が私たちのことなんて気遣うはずがないじゃん?」
「ああ、ミレイユさん嘆かわしい! 私はこんなにも美しいあなたのことを案じているというのに!」
「キモッ!」
ミレイユが極寒の空気を感じたように肌をさすると、グロースフェルドがそれを抱きしめようと近づく。明らかな痴漢行為に、カナートが止めに入る。
「忙しいのに冗談はやめろ。お前がわざわざ戻ったってことは、おかしな点があったのか?
「いや・・・私の気のせいですかね。魔術の反応があった気がしたのですが、どうやら魔術戦をした様子もない」
「変態神父の勘違いでしょ?」
ミレイユが舌を出してグロースフェルドに抗議したが、カナートはそれを無視して話を進めた。
続く
次回投稿は、4/11(火)14:00です。連日投稿になります。