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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
1422/2685

快楽の街、その257~残りモノ⑦~

***


「ミリアザール、少しよいか?」

「シュテルヴェーゼ様、そちらから出向かれるとは珍しいですね」


 執務中のミリアザールの部屋にシュテルヴェーゼがふらりと現れるのは非常に珍しい。通常ならば深緑宮の地下深く、多重に張り巡らされた結界の中で静かに瞑想をしているだけなのだが、わざわざ出向いてきたのは片手で数えるほどしかない。

 真竜の中でも特に年長者であり、食事すらほとんど必要としないシュテルヴェーゼは気が向けば茶を啜るくらいで、深緑宮に来てからもほとんど食事をしていなかった。興味を示したのはアルフィリースとリサとジェイク、それにミランダとアルベルトくらいか。あとは梔子に何事か声をかけたようだったが、二人共に内容は教えてもらえなかった。

 千里眼を持つシュテルヴェーゼの言葉は下手をすれば大陸の命運に直接関わるだけの影響力を持つし、本人自体が人間の歴史には原則不干渉と決め込んでいるため、千里眼で何事か観察したとしても滅多には人間には内容を教えることはなく、ミリアザールもまた聞かないことにしている。本来であればどのような代償を用意しても力を借りることのできない相手なのだ。深緑宮に留まって、黒の魔術士を牽制してくれるだけでもありがたいというもの。

 その配下の幻獣であるロックルーフ、レイキ、ジャバウォックの力を借りることもあるが、まさに切り札としか言いようのないほど強力な存在だ。彼らの力を無闇に使用することで対策を立てられるのもまずいし、そもそもミリアザールに惚れた弱みのあるジャバウォックならともかく、ロックルーフやレイキはミリアザールが命令できる立場にない。その気になればアルネリアを焦土と変えるのに半日もかからないであろう幻獣たちが深緑宮内に4体もいるだけでも、どこか落ち着かない気分になっていたのだ。正直、その時が来るまでは互いに不干渉でいたいというのがミリアザールの本音である。

 いや、あるいはその時が来ても力を借りることができないかもしれないとすら考えていた。まずないと思うが、ハイエルフであるオーランゼブルの呼びかけに応えた別の幻獣や魔獣たち、他にもノースシールの戦いで報告されたバイクゼルのようなさらに古い者たちが現れた時のためにこそ、彼らは控えていてほしかった。大戦期を経験し、人間の世界が一定の安全圏にあると考えていたが、それらは古竜たちなどの上位種の庇護の元や、あるいは無関心があって初めて成り立つ世であることを、改めて確認したミリアザール。そして、古竜や古い時代の者たちが眠りについた今、人間の歴史は人間で作り護るべきだと、強く思うのだ。

 ブラディマリアが敵にいなければ、シュテルヴェーゼもここに来ることはなかっただろう。だからできるだけその力を借りたくもないし、当然彼らもそのことはわかっている。なのに、一体何の用であるというのだろうか。ミリアザールは考えを幾通りにも巡らせながら質問した。


「どのようなご用件で? 他愛ない話ならば、今は忙しいので遠慮していただけると助かります」

「活動している中で最も古い真竜たる妾の来訪を突っぱねるとは、恐れ入る。わが弟子も偉そうになったものよ」

「一応師である自覚はおありなのですね? ならもうちょっとマシな指導をいただきたいものですが」

「甘えるでない、と言いたいが、そちが弟子であることを考えて一つ助言をくれてやろう」

「・・・嫌な予感しかしませんね。貴女が口を開くと言うことは、そうせざるをえない相手が出てきたということでしょう? 厄介ごとしかないのではありませんか」

「そのような道を選んだのは主自身じゃろうが。妾は導いておらんぞ?」

「力には責任が付き纏うのですよ、とそんなことは置いといて、さっさと本題を言ってください。誰がどう厄介なのです?」

「剣の風が表に出てきよった」


 剣の風――その言葉にミリアザールの手が止まった。随分と懐かしい名前を聞いた気がする。


「剣の風のことをご存知でしたか」

「知らいでか。妾の千里眼とて万能ではないのよ。ある程度観察したい対象に的を絞ることはできるが、観察対象を増やすごとに精度は下がるし、魔術での妨害も可能じゃ。妾の魔眼は真竜であることで別段強化されるわけではなく、かつて人間にも同様の魔眼の持ち主はいたからの。長く生きている分だけ、使い方を熟知しているだけじゃ。

 その妾をもってしても、わからぬことはいくつかある。銀の一族の里やウィスパーの本体、ユグドラシルと名乗る者の行動、そして剣の風と呼ばれる者の正体よ。その最後の一つがわかったかもしれん」

「なるほど。ですがそれを私に告げるということは、その者は人智の及ばぬ相手ということですか?」

「人智は及ぶ。だが活動している古き者の管理は行わんとな」

「古い――剣の風が?」

「そうじゃ。知らんのか? 妾の記憶では、2000年前にはアレはもうおった。いや、もっと前からかもしれんな。正確な年数は定かではない」

「なんと」


 ミリアザールはギルドからの報告でその存在を知ったし、戦場ではそれ以前からまことしやかに囁かれていた噂であったから、せいぜい数百年だと思っていた。シュテルヴェーゼの言葉は予想外であった。


「2000年間、シュテルヴェーゼ様にも正体がわからなかったと?」

「そういうことになる。妾も自然現象か何かだと思っていたのだが、それに意志を感じたのは数百年前か。丁度大戦期が始まるか始まらんかのあたりじゃな。人間の側で主力であった部隊、中心人物があいついで消えた。心当たりはあるか?」

「・・・確かに行方不明となった英傑は多かったやもしれません。連絡網の不備、進軍中に魔物にやられたとばかり思っていましたが」

「真実は妾も知らぬ。だがもしかすると、剣の風の仕業だったのかもしれんな」

「・・・それが事実だとするなら、剣の風は人間の仇敵ということになります。何のためにそんなことを?」

「それはわからんよ。何なら聞いてみたらどうだ?」

「顔がわかるのですか?」

「ちらりとだが、千里眼で見たからな。アルフィリースを観察しておったら、たまたまだ」

「どういうことです?」


 シュテルヴェーゼは事情を説明した。アルフィリースがターラムの支配者であるルヴェールを見つけたことは伏せたが、剣の風の襲撃に出くわしたことは説明した。ミリアザールは真顔でその報告を聞いていた。



続く

次回投稿は、4/5(水)14:00です。

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