快楽の街、その249~ターラムの支配者⑩~
「フフフ・・・アハハハ! あなた、人が悪いにもほどがあるわ! まさかそんな人物を呼ぶなんて。ウィスパーが知ったら、どんな顔をするかしらね!」
「さぞかし傑作だろうな。直接見れないのは残念だが、悔しがる場面を想像するだけでも溜飲は下がるさ。さて、俺はもう行く。上手くやれよ?」
「言われなくても」
「ふん。お前も私も、少しずつ劣化するのは避けられん。所詮は我々も消耗品なのだからな。ああ、あと一つだけ。イェーガーのアルフィリースには気を付けろ」
「アルフィリース? 私たちの三番隊に手も足も出なかったような、弱小が率いる傭兵団よ? 配慮する必要があるかしら?」
「それはいつの話だ? 奴は化けるぞ。なにせ、私の攻撃の方向を見切ったんだからな。あれは世の常識に中にいる人間ではないのかもしれぬ。時にそういうのが生まれることは知っているだろう」
「ふぅん。ならあなたに殺されるだけだわ。そういう個体を始末するのがあなたの役目でしょう?」
「それはそうだがな。アルフィリースがいた方が、我々には都合がよいと思わんか?」
剣の風の提案に、難しい表情をしながらファンデーヌが答えた。
「・・・まあ、そうかもしれないわね。彼女がいた方が争いは広がるわ」
「少なくとも、ローマンズランドの結末を見届けるまでは待つべきだろう。我々が動くのはそれからでもいい」
「それまでは手を出すなってこと? 傭兵として敵として対面しても?」
「もちろんだ」
「ちっ、面倒くさいわね」
「言いつけたぞ? 忘れるな」
ファンデーヌが舌打ちをして少し考え事をする間に、剣の風はさっさと出て行ってしまった。考えることは少々あったが、一番の関心ごとは自分の正体が知られたかどうかである。調べれば、ヴォルギウスが何と戦いどうなったかはわかるだろう。自分の痕跡は確実に消しておきたいところだが、完全に消してしまえばまだ生きているとばれてしまう。ここは一度姿を隠すのが良策かもしれない。
「外界と連絡が取れないほどの秘境は困るけども、誰にも見られない場所か。ちょっと選定に困るわね・・・そうだ、ゲルゲダを使えばいいのだわ」
ファンデーヌは思いつきを実行すべく、さっそくゲルゲダの元に向かった。
***
そのゲルゲダはただぼうっとして酒場に座っていた。途中からこのターラムで起きたことが信じられなくなり、どのように考える行動すべきかまるで結論が出なかったのだ。
注文を取りにくる酒場に娘に粉をかけようともしない自分は、まるで精気の枯れた爺のようだと自嘲するも、とてもそんな気分にはならなかった。自分で見たものがいまだ信じられないからだ。
ファンデーヌのことは入団より目をつけていた。あの見目麗しさ、男を誘うような肢体。隙あらば犯してやろうと考えたことは一度や二度ではない。それがどうだ。まるで自分が犯されたのではないかと錯覚するほどの、ファンデーヌとの情事。今まで女を犯したことはあっても、犯されたことはない。屈辱的な経験ではあったが、素晴らしいひと時でなかったのかと言われるとまんざらではない。ゲルゲダは地の底に沈むような喪失感と、天に昇る様な充実感を一遍に味わい、感情を持て余していた。
自他共に認める外道のゲルゲダだが、グンツと違うところは彼は常に仲間に囲まれている。外道同士つながるものがあるのか、ゲルゲダの仲間は不思議とゲルゲダのために働く労を惜しまない。ゲルゲダもまた、彼らの面倒を見ることを嫌だとは思わなかった。だが今回ばかりは部下の誰かを呼びつける気にもならず、さりとて静かなところで物思いに耽る気にもならず、朝から開いている酒場に来てちびちびとやっていた。普段なら一杯目は一気に開ける火酒も、気が抜けてぬるくなってもまだ半分も減っていない。
そんなていたらくだからか、背後から肩を掴まれるまでゲルゲダは他人の接近にすら気が付かなかった。肩を掴まれてびくりとしたゲルゲダは、思わず懐の短剣を抜いて振り回していた。その短剣を柄ごとゲルゲダの手を掴んで止める相手は、三番隊隊長ゼルヴァーだった。
続く
次回投稿は、3/20(月)15:00です。