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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その243~ターラムの支配者④~

「まさか600年見破られなかったものが、こんなにあっさりとばれてしまうとはね。あのミリアザールさえ私には気づかなかったというのに。まさかネーナが突破口になるとは・・・いえ、予想できたことかもしれないわ。だから私は自画像を描くなと言ったのに、あの子は昔から悪戯が好きだった」

「ネーナは実の娘?」

「いいえ、他の多くの娼婦たちと同じく孤児です。でもあの子のことはとても印象に残っています。私が手掛けた女性の中でもいっとう優秀で、そしてとびきりやんちゃな女の子でしたから。娼婦としては性格が向いておらず、絵画と商法を学ばせたのですが、あそこまでものにするとは思わなかった。魔女でもないのに私のことをよく理解し、対等に話すことができた数少ない娘の一人でした」

「黄金の純潔館の娼婦たちは、全員が魔女というわけではなさそうね」

「半分にも満たない数です。多くの者は娼婦として育ち、私の正体など知らずに人生を終える。娼婦として性格が向かない者は自立して店を持てるように育てたこともあります。ただ私が手掛けるのは女性のみ。男性を育てようとしたこともありますが、男性にはやはり父親が必要なのでしょうね。魔女が多い環境のせいもあるのか、男子を育てても上手く行かないことが多かった。

ただ男の子はヴォルギウスのような代々のアルネリアの司教が協力してくれたり、街の商工会が非常に上手くやってくれましたので、孤児院からそちらへ丁稚奉公に出すということでおおよそ上手くいっています。またバンドラスもひと役買ってくれました。まぁ彼は歪んでいますので上手くいかないことの方が多かったようですが、それでも彼は彼のやり方でターラムを愛していた。その気持ちまでは否定するものではありませんし、まっとうに育つことのできない子どもをまとめる人間も必要です」

「・・・バンドラスはアルネリアの騎士が始末したわ。相当歪んだ性癖をもっていたとだけ聞かされて、その他詳細はわからないけど」

「私は聖人君子ではありませんよ、アルフィリース。私はただのターラムの守り手。およそターラムができる前から、この土地を見守ってきた者です。バンドラスは利害が一致するところがあったから利用していただけ。別段彼のことを信用していたわけでも、彼のことを惜しむわけでもありません」

「その言い方、確かに貴族的ね。もう一度聞くけど、魔女なの、よね?」

「然り。遅れましたが、自己紹介をいたしましょう。私は数秘術の魔女ルヴェール。このターラムにおける秩序の担い手であり、あらゆる外敵を退けるために存在する者。傭兵アルフィリース、以後お見知りおきを」


 ルヴェールが優雅に立ち上がって礼をした。その礼の仕方が今まで見たどんな人物より優雅で、そして少々仰々しすぎたため、アルフィリースは慌ててその手を取って立ち上がらせた。


「もう、そういうのは苦手だわ。もうちょっと普通に接してくれないものかしら」

「あら、宮廷なんて礼儀作法がまだない頃、いくつかの王朝は私達の所作を真似たのですよ? その最初の考案は私がほとんどなのだから、面目躍如というところかしら。礼儀作法の魔女とでも名乗りましょうか」

「だから私は堅苦しいのが苦手なんだって!」

「あら、着飾れば結構ものになると思うのに残念。傭兵が廃業になったらこちらにいらっしゃいな、雇って差し上げるわ」


 ルヴェールが悪戯っぽく、かつ優雅に笑って席についた。アルフィリースは会話の調子がルヴェールに持っていかれていることに気付き、気を取り直して改めて話しかける。


「数秘術の魔女って何? 一般的な魔女と違うの?」

「その前に魔女に対する認識を確認しましょうか。魔女の団欒に参加する魔女は、いわゆる五大元素、二属性に分類される分け方に属する魔女よ。だけど、世の中にはそういった属性ではない魔術を行使する者もいる。大昔、五大元素、二属性の研究が進んでいない頃はどれも対等だったけども、五大元素、二属性の研究が進み、それらに属する魔女がほとんどの漏れなく感知され、見出されるようになると数の論理で私のような魔女は少数派とされた。彼女たちは徒弟制を採用し、後継者を育て始めましたからね。

 黄金の純潔館に属する魔女は、いわゆる『その他』に分類される者たちよ。一般的な魔女と違い、その資質に気付く者が非常に少なく、また自らの師、弟子なる者も滅多に存在しない。私とて例外ではなく、600年以上生きながら、師なる者、また同様の才能を持った者には出会っていない。自らその才覚に気付き、大成した者だけが我々の仲間となることができる。

 だからこそ、我々は魔女の団欒の悲劇を回避することができた。これは私の能力にも起因しているのだけどもね。フェアトゥーセは私たちにも声をかけてきたかったみたいだけど、私たちとの連絡方法はわからなかったみたいね。悪いことをしたかもしれないけど、結果的に巻き込まれずに済んだわ」

「そんな魔女が、この黄金の純潔館にこれだけ集まると?」

「600年かけてようやく集めた仲間十数人よ。もっとも私の仮説では、どの人間でも魔女となる才能を持ちながら、もしかするとそういった能力を発揮する機会に恵まれず一生を終えるのではないか、と考えているわ」

「だとしたらルヴェールの場合はどうだったのかしら。何か力を発揮するきっかけがあったの?」

「私の場合はおそらく――そうね、私たちのことを少し話しましょうか」



続く

次回投稿は、3/8(水)16:00です。

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