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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その228~ターラムの戦い⑦~

「その様子だと事情はわかっているようですね。なぜアルフィリースに警告しないのですか? あの少女は危険です。今殺しておくべきだと」

「お前こそ忘れていないか? 私は別にアルフィリースの味方じゃない。オーランゼブルに命じられてアルフィリースの意識に同調しているが、元来アルフィリースの人格を破壊するように言われている。今はその必要がないから大人しくしているが、オーランゼブルの命令には逆らえないんだ。いずれ私はアルフィリースの敵になる存在だよ。

 だがお前も同じような存在なのだな? 私は今までお前はアルフィリースの保護者のようなものだと思っていたが、その口調を聞く限り、どうやら違うようだ。下手をすると、私よりもタチが悪いんじゃないのか?」

「あるいはそうかもしれません。ですが私たちに共通しているのは、今アルフィリースに死なれては困るということ。彼女を守るためなら、どんな手段でも講じるつもりです。しかし私には自由にならないことも多い。ですからあなたに――」


 三人目の言葉に影が毒づいた。


「私に頼んでいるのか? それこそ虫のいい話だ。あの少女の危険性は私もわかっているさ。あの少女、本来なら人の世では生きられないはずだ。それをあのドラグレオが無理矢理生かしている。あんな存在がいること自体が驚きだが、確かにアルフィリースのみならず、人間そのものにとって非常に危険な存在だ。殺せるなら今殺した方がよいだろうさ。

 だけどな、現状では体の主導権はアルフィリースだ。決めるのはアルフィリースってことだ。奪うにもかなりの労力を必要とするし、あの少女を始末することでアルフィリースが我々を明確に拒絶すれば、それはそれで厄介なことになる。

 アルフィリースがミコトという少女の危険性に気付かず、死ぬというならそれはそれで運命だろう」

「馬鹿な。そうすれば私も貴女も死ぬのですよ? それにあるべき運命はそんなことじゃない」

「その運命を曲げているのは他ならない私たちだ。それに死ぬのはお前だけだ。私は――いや、多分オーランゼブルに消されるだろうな。だけど、これからアルフィリースを待ち受ける残酷な運命を経験するぐらいなら、ここで死ぬのも一つの幸せかと思っているんだよ」

「それは――そうかもしれませんね。ただ、そうなれば私が表面に出るだけの事。死ぬのはアルフィリースだけ。私は決して死ぬわけにはいかないのだから」

「私はそういう考え方が嫌いなんだよ。大義だとか、運命なんてどうでもいい性分だからね。そんなものの味方をするくらなら、アルフィリースの味方をしてやりたいと思っているのさ」

「たかが人間に、随分と肩入れをする」

「情が移ったわけじゃないが、たかが人間と言ったか? お前はアルフィリースが本当にただの人間だと思っているのか?」

「・・・さあ、私には判断がつきかねます。面白い人間だとは思いますが、自分の役目を捨ておいてまで肩入れをするほどではありませんね。

 どうやら議論は平行線のようです。今のところ私は自主的に動くことはできませんし、好きにすればいいでしょう。ですが一つ忠告しておきます。アルフィリースがどう振る舞い、そして貴女がどうかばおうが、結局私が出るのが早いか遅いかの違いだけ。それが運命というものです」

「私も言ったぞ? 運命なんて大嫌いだとな。抗ってみせるさ、きっとアルフィリースもな。矛盾しているようだが、私はそう思うのさ」

「・・・その言葉、最後まで忘れないでおけるとよいですね」


 それきり三人目は黙り、また意識の奥底へと引き返していった。影は自分の口をついてでた思わぬ言葉を思い出して天を見上げたが、境界のない白い空では心をからにすることもできなかった。


***


「な、なんでドラグレオがここで来るんだよ」

「・・・あっちゃー、やっぱりこういうことが起きるんだべなぁ。具体的には聞いていなかったけども、予想通りってことだべな」

「予想通り、だと? ドラグレオの出現が?」

「違うべ。この作戦、元より成功しないって言われていたべ。本当の意味でターラムは制圧が不可能な土地だってのは言われてた。意味はわがんねぇけどな。

 知りたいのは、ターラムが救援を求めたらどのくらいの速度で、どのくせいの戦力の増援が出てくるかを知りたいと言われていたべ。それが観察できただけで、オラの仕事は本当に終わりだべ」

「おいおい、この大侵攻が捨て石か?」

「これは『威力偵察』なんだと。大侵攻は、これから始まるんじぇねぇのけ?」

「この規模が偵察・・・」


 そう聞いて、愉しくて背筋がぞくぞくするのをグンツは感じていた。この規模が前哨戦なら、本格的な侵攻ではどのくらいの死者が出るのだろうか。苦しむ人間は? 泣きわめく者は? それを想像しただけでも、グンツの男は屹立を禁じ得ない。

 その思考を中断するのは馬蹄の響きである。同時にケルベロスも気付いていた。地面に耳を当てると、その音を聞き分ける。


「おい、馬だよな?」

「・・・馬だべな。日が暮れるこの時に、騎馬隊って動かすものだべか?」

「いや、兵法通りじゃねぇな。そんなことができるとなれば、余程熟練の騎馬隊だ。暗くてよく見えねぇが・・・」


 グンツは目を見開いて遠くに見える敵影を確認しようとした。かろうじて見えるその騎馬隊は、オークをなぎ倒しながら迫ってくる。特に先頭の騎馬隊が身にまとう青い鎧を見て、グンツはわが目を疑った。



続く

次回投稿は、2/6(月)18:00です。

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