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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その227~ターラムの戦い⑥~

「ま、た、あ、え、る、ですって? どういう意味――」

「・・・どうしてだ? ドラグレオとあの少女、結界を通り抜けたぞ?」

「正確には、結界を魔術的要素なしに一瞬壊して通り抜けましたね。結界は自然修復していますが、どういう方法でしょうか?」


 ミュスカデとウィクトリエは疑問に感じて互いを見つめ合ったが、そんな心境とは関係なく、外に出たドラグレオは拳を鳴らして、やる気満々だった。


「さてミコト、ちょっと降りてろ。さすがに動き回るからな」

「おじさん、いたいけな少女を一人で放っておく気?」

「冗談言うな、俺より怖い人間のくせに」

「ふっふっふ、冗談だよ。でも露払いくらいはしてくれるよね?」

「ああ、まかせろ――ぬぅん!」


 ドラグレオの出現に驚くオークに向けて、ドラグレオは容赦なく無警告で強烈な一撃を見舞った。彼なりの魔術の使い方――他人から見ればただ腕を振り回すだけの行為が、地面を走る強烈な衝撃波を生み出す。

 両腕を振り回すころには、周囲にいた数百のオークはなぎ倒されてよいところで瀕死となった。そして生き残った巨槌兵スクルミルに対しては。


「お、らぁーー!」


 力を貯めて地面を蹴った勢いそのままに右拳を繰り出すドラグレオ。その一撃で、巨槌兵スクルミルの右半身が吹き飛ぶ。ぐらりとよろめいた巨槌兵スクルミルだが、痛痒も感じぬとばかりに残った左腕を振り上げ、ドラグレオを叩き潰さんとする。


「舐めんなぁ!」


 その腕を蹴りでもって吹き飛ばすドラグレオ。体勢を崩した巨槌兵の顔がドラグレオの目前で止まるが、それでも威嚇せんと吠えた巨槌兵スクルミルに対し、ドラグレオの怒りが炸裂した。


「う、る、せぇえええええー!」


 どちらが真に騒々しいかは比較するまでもなかったが、ドラグレオが吐き出した豪炎で巨槌兵スクルミルが骨の一部を残して消滅した。その豪炎は、遥か背後のオークの群れ数百を焼死させるに十分に火力だった。

 あまりといえばあまりの暴れぶりに、そしてアルフィリースたちが期待した通りの暴れぶりにも関わらず、驚く者がほとんどだった。


「なんだあれは? あれは人間なのか、アルフィリース? それよりお前の仲間なのか?」

「うーん、本人も人間かどうかは自信はないそうよ? 話せばややこしい関係だし、確かに暴風みたいな男だけど私には危害を加えないみたい。それにあの少女も懐いているみたいだし、今のところ敵ではないわ・・・ないかな? うん、多分大丈夫」

「なんだその曖昧な関係は」


 アルフィリースが指さしてリリアムに教えた先には、無人の野を行くがごとくオークを引きちぎりながら敵陣を駆け抜け、巨槌兵スクルミルを一つずつ潰して回るドラグレオと、その後を小走りにちょこちょこついて行くミコトがいた。


「おじさーん! ちょっと、速いってばぁ!」

「急がねぇと時間がねぇんだばらぼぇあああ」

「炎吐きながらしゃべんないでよ!」

「・・・なんと緊張感のない」


 リサが深くため息をついたが、たった一人の男の出現により戦端に光明が見えたのは事実であった。そして、ドラグレオの進行方向と反対から、彼を追いかけるように現れた馬蹄の響きが、更なる光明をもたらすのである。


***


 ドラグレオの出現に驚いたのはアルフィリースだけではない。アルフィリースの意識に中にあるポルスカヤもまた、ドラグレオの出現には肝を冷やしていた。


「ここで百獣王が来るとはな。あれだけは私も油断ならない相手だが、敵でなくてよかった。お前もそう思うだろ?」


 ポルスカヤは背後の存在に声をかけた。透明な壁の向こうで険しい表情をしている女性。姿こそアルフィリースそのものだが、明らかに別人だとわかる。アルフィリースは目の前の人間が仇だとしても、あそこまで険しい表情はできないだろう。

 影は知っていた。アルフィリースの中には元々自分以外にも別の存在がいるのだと。そしてその存在は徐々に表層に出てこようとしている。事実、以前は認識すらできなかったものが、今ではその表情すら読み取れる。影はここでその存在の動向を見守っているのだ。まだアルフィリースが認識するには至らないが、それもこの存在――仮に『三人目』と呼ぶとしたら、彼女の考え方次第だと理解するようになっていた。

 その三人目は普段とても静かで影が呼びかけても応えることすらろくにないが、今回は自ら意識の境界線まで出てきていた。表情を見る限り、自らの意志で境界を越えかねない気配すら感じる。

 影は三人目の反応を待ったが、何も三人目が言葉を発しないためたまらず話しかけた。


「おい、何て顔をしてるんだ? お前はもっと慈愛に満ちた存在じゃあなかったっけ?」

「・・・私はそんな良い者ではありませんよ。気になることがあったので、出てきただけです」

「ドラグレオか?」

「あの賢者もそうですが、傍にいた少女のことです。気になりませんでしたか?」

「いや?」


 影は三人目の言わんとしたことに気付いていたが、わざと素知らぬふりをした。その態度を三人目は非難する。



続く

次回投稿は、2/4(土)18:00です。

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