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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その226~ターラムの戦い⑤~

「アルフィ、市壁の反対側から光の壁を突破してきた者がいます!」

「この壁を突破? どうやって?」

「知りませんよ。一応センサーは外まで通りますが、外から猛然と迫ってきて一度止まると、そのままするりと入ってきたのです。それより問題は、この相手は私達が良く知っている馬鹿だってことですよ!」

「私達のよく知っている馬鹿?」

「そんなの、一人しかいないじゃないですか! ほら、馬鹿と言えば――」

「誰が馬鹿だ、コラァアアアア!」


 ターラムの反対から走ってきたはずなのに、あっという間に到達した人物。上空から盛大な衝撃音と共に着地したその男は、確かに全員が良く知る男だった。


「ド、ドラグレオ!? 確かに馬鹿だ!」

「そりゃあねぇぜ御子さんよぉ! せっかくこの俺が・・・おい、ミコト。俺は何しに来たんだ?」

「知らないよぉ! おじさん、眠りながらでも走っている時だってあるんだもん! さっきは、『祭りだぁ!』とか言ってなかった?」

「やっぱり馬鹿じゃないですか」

「違う、俺はアホ・・・」

「じゃあ阿保馬鹿ってことで」

「まとめんなぁあああ!」


 突然天から降ってきた騒々しい巨漢と、彼の首にひっついている少女にほとんどの者は面喰ったが、ドラグレオのことを知っている者にとっては、これは脅威が増すだけの邂逅だった。下手をすれば外の万のオークよりも、この男一人の方がよほど恐ろしい。

 一方で知らない者にとっては、只者ではないことはわかるがただの騒々しい男にしか過ぎない。ただリリアムですら呆気にとられたのは、ドラグレオの受け答えだけではなく、彼の圧倒的巨躯と、彼の発する大地にも等しい膨大な気によるものだろう。こんな存在とまともな会話が成立すること自体が、もはやアルフィリースの胆力やただごとならぬひととなりを証明するものだった。

 しばしの内容の乏しい会話の後、本題を切り出したのは意外にもドラグレオ本人であった。


「あー、うっとうしい! とにかく! ここに俺が来たからには、何か御子殿の困ったことを解決してやろう! 『袖振り合うも他生の縁』とか言うからなぁ! 御子殿の懸念事項を解決するのが俺の仕事だぁ!」

「なんで東方のそんな難しい言葉を知ってるのよ!」

「俺は賢者だって言っただろうが!」

「神様って言いませんでしたっけ?」

「どっちでもいいんだよ、んなこたぁ!」

「じゃあ言わなきゃいいのに・・・」

「るせぇ! 俺に願い事をするのか、しねぇのか!? お前が決めねぇと俺の立つ瀬がないだろうがぁ!」

「強気なのか弱気なのか。こんなのが賢者とか、語尾に草が生えますよ」


 リサがやれやれといったポーズをとったが、アルフィリースはいいことを思いついたとばかりに手を打った。


「じゃあ、外のオークを全滅させてくれない? 百獣王のあなたなら簡単でしょ?」

「無茶言うな! 何万いると思ってんだ!? 俺がやるより早く結界の方が先に壊れらぁ!」

「ちょっと待ちなさい。結界が壊れる時間がわかるのですか?」

「テメェ魔女のくせに馬鹿か? この衝撃が続けばきっかり六刻後に崩壊だ。日の出まではもたねぇ。そんな計算も出来ねぇのか!」

「そんな計算ができるわけ――」


 ない、と言おうとしてクローゼスはためらった。決めつけは魔術には禁忌。現実を超えるための手法こそ魔術。事実、この男はできているかもしれないのだから。だがこの広範な結界が全て見えているわけではなし、目の前にある範囲から呪式を読み解き、なおかつ衝撃を数値化して換算する。ドラグレオが言うほどに簡単なことではない。

 だがアルフィリースは調子を崩さない。


「じゃあ9割倒して!」

「ざけんな、5割だ!」

「8割くらい頑張ってよ!」

「アルフィ、野菜を値切っているんじゃないんですから・・・」


 リサが呆れたが、アルフィリースもドラグレオも、表情は真剣だった。


「時間がねぇんだよ! どんなに頑張っても6割だ!」

「じゃああのデカブツだけ倒すとかは?」

「そんなの楽勝だろがぁ! よっしゃあ!」


 交渉がまとまったと思ったのかドラグレオが勇んで飛び出そうとするのを、背中につけていた荷物紐を掴んで引き止めたアルフィリース。


「ちょっと待った! その小さい女の子を連れて行く気!?」

「あたりめぇよ! 俺が守らねぇで、誰が守るんだ!?」

「格好良さげに言っているけど、そこは私たちでしょ?」

「よしとけ! お前らじゃあ、面倒が見切れねぇ!」

「あなたよりはマシ――ちょっと待ちなさいよ!」


 アルフィリースの制止も聞かず、ドラグレオは市壁を飛び降りた。相変わらずでたらめな身体能力だが、ミコトという少女もその背にしがみついて落ちていない。慣れているのか、それともドラグレオが気遣っているのか。その関係が気になるところだが、ミコトと呼ばれた少女がアルフィリースに向けて笑顔だったところから、存外良好な関係なのかもしれなかった。

 そして、唇の動きから読み取れた一言も気になった。



続く

次回投稿は、2/2(木)19:00です。

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