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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その225~ターラムの戦い④~

***


「こりゃあ、なんだぁ!?」

「光の先に進めねぇ!」


 ターラムにオーク達が殺到しようとしたまさにその時、ターラムの入り口からやや外に光の壁が出現した。ターラムをぐるりと囲むように出現したその壁は、オークの侵入を一歩たりとも許すことはなかった。オークはめいめい壁を殴ったり体当たりしたりするが、どうなるものでもない。

 だがそれはターラムにいる兵たちも同じだった。試しに矢を射てみたが、壁に弾き返されるだけ。結界は上空にまで伸びており、天馬騎士も同様だった。どうやら相互不可侵の防壁であるらしい。アルフィリースはこの結界を見て考えることがあったが、近くにクローゼスを呼び寄せる。


「どう見る? この結界」

「そうだな、何を魔力の供給源としているかにもよるが、数日程度はもつのではないだろか。外から必要以上の衝撃が加わらない限りはな」

「衝撃ね。オークが突破できると思う?」

「オークにも魔術を扱うものはいる。だがこの結界は私が命を懸けて魔術を行使しても、傷がつくかどうかという代物だ。オーク程度の魔力では、かすり傷すらつかんよ。まだ殴り続けた方が目はある。

 ただ、数万のオークが一晩中結界を殴り続けられるほど根気強いとも思わないが」

「同意見だわ。つまり朝日が昇るまでは安心と考えてもよいのかしら」

「炸薬があれば別さ。人間の開発した火薬は爆裂の魔術といわゆる同じ効果だ。あれが大量にあれば結界が破られる可能性がある。結界の種類にもよるが、物理遮断できるものなら衝撃の蓄積によって突破できるものがほとんどだ。炸薬があれば時間は短縮できるだろう」


 ミュスカデが会話に割って入ったことが、クローゼスは気に喰わなかったようだ。


「炸薬? そんなものを使う頭がオークにあるとでも?」

「王種がいれば可能かもしれん」

「そんな記録は書物にはないぞ?」

「お前の目にした書物にないだけだ。現実は妄想を凌駕するぞ?」

「ふん、知ったような口を!」

「あの~、炸薬を使うかどうかはさておき、あれは炸薬より威力が高そうですよね?」


 ウィクトリエが入ってきたことで、一端取っ組み合いを治める魔女二人。ウィクトリエが指し示す先には、アルフィリースが考えている最悪の可能性が現実になっていた。


「やっぱり、そう来るよね。いいえ、そうこないと何のために魔王を作っていたのかっていう話になるもの」


 アルフィリースたちがオークの変化に気付くころ、グンツも同じような質問をケルベロスにしていた。


「ケルベロスよぅ、あれは魔王でいいんだよな?」

「もちろんだべ。オラたちオークに、巨大化なんていう素敵な能力は備わってないっぺ」

「魔王化すりゃあ確かにデカくなることが多いが、ありゃあデカすぎじゃないのか? 市壁くらいあるぞ、あれ」

「そうだべなぁ。今さらながら、アノーマリーは天才だったと思うわけだべ。まさか攻城戦を意識した魔王作成をするなんてなぁ。仕上げたのはクベレーやセカンドだども、アノーマリーが死ぬ前にはほとんど完成していたべ。

 変形したら最後、寿命が尽きるまで周囲の全てを破壊し尽くすだけの存在になるべよ。ただデカさだけを優先して知性や寿命は二の次にしたから、目に入ったら仲間でも殺しちまうし、もって一日程度の寿命だけんども」

「使い捨ての兵士としちゃあ上出来だ。だがいつ仕込んだ? あの数、注射して回っている時間なんてなかったはずだぞ」

「昼飯にちょっとなぁ。突撃前の飯だと言われりゃ、多少味がおかしくても食っちまうよなぁ? オラたちオークだし」

「悪党め。大好きだぜ、そういうの」

「グンツならそう言ってくれると思ったべよ」


 へへへ、と笑い合うオークと人間。ターラムをぐるりと囲むのは、数百からの巨大化した魔王の軍勢。


「で、なんて名前なんだ?」

巨槌兵スクルミルとか、開発段階では呼んでいたべ」

「あの結界を破れると思うか?」

「それは知らないべ。だけども、オラ的にはどっちでもいいんだな。言われた仕事はきちんと果たしたし、あとは・・・」

「ほう?」


 ケルベロスの見つめた先を、グンツも面白そうに見つめていた。


***


「どうしようかしらね?」

「うーん、どうにもならないなぁ」


 リリアムとアルフィリースが市壁の上からオークの大軍を眺めていた。巨大な魔王となったオークたち――見た目は腐りかけたイノシシが手を伸ばしながら突撃しているように見えるが、その迫力を自警団の兵だけでなく、イェーガーも神殿騎士団もその迫力を眺めているしかできなかった。相当な重量感のある突撃だから、衝撃だけがターラムに響いてくる。市民ももう気づいている。戦争が始まっているのだと。このままでは不安に駆られて市内で暴動が起きてもおかしくない。

 それでも、戦いが本当に始まっていれば、今頃自警団は多くが討ち死にしていたはずである。リリアムが苦笑するようにアルフィリースに話しかけた。


「光の壁が守ってくれるのはよいのだけど、いつまで耐えれるのかしら? 数日でも大丈夫なのかしら。それとも、一刻ももたないの? 私は魔術の知識がないからよくわからないのだけど。このままでは対策も立てられないわ」

「私もそこまでわからないわよ。結界魔術、それもこれほどの大規模ともなると門外漢だわ」

「そしてこちらからは攻撃手段はないと。弓矢は結界に弾かれたし、魔術もだめ。そうなると外に魔獣の群れがいる状態で、武器もなく檻の中に閉じ込められたようなものね。状況は好転していないわ」

「時間の経過と、足掻くことで打開できることもあるわ」

「あら? 暑苦しいのは嫌いかとばかり」

「過大評価しすぎ、意外と泥臭く生きてきたのよ。しかし、待つだけってのは性に合わないわね」


 アルフィリースはちらりとリサの方を見たが、リサは首を横に振った。市内で起きた爆発に関しては何も報告がない。派手な爆発の割に人的被害はなく、一帯があまり使用されていない廃墟に近い建物群だったことと、人除けの結界を使っていたくらいしか報告がされていない。誰が死んだか、なぜ起きたのかなどの報告は一切なかった。

 大事の前の小事には違いないのだが、アルフィリースは気になっていた。今突き止めておかないと、永遠にわからなくなりそうな気がする。だがそんな懸念は、さらなる大事によって吹き飛ばされることになる。

 突然、リサが警報を発したのだ。



続く

次回投稿は、1/31(火)19:00です。

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