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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その223~ターラムの戦い②~

***


 夕暮れ時、それは突然に起こった。ターラム中に響き渡るほどの爆音と、町中のどこからでも確認できるほど高く燃え上がる炎。ターラムの住人全てが気づくほどの爆発は、当然ターラムの外壁でオーク達の行動を見守る自警団にも聞こえていた。


「なんだ? 襲撃か!?」

「いや、違う。ターラムの中だ」

「馬鹿な、中に入り込まれたというのか!」

「落ち着きな!」


 一喝するのはカサンドラ。バンドラスが消えてから、リリアムに言われて外周の警備を見てくるように言われた。自警団の動揺が一瞬で吹き飛ばされる。


「わからないことは口に出すな、不安が広がるだけだ。まずは事実の確認をする。被害状況と共に合わせて調査だ、五人組で三組を現地に向かわせろ。それ以外は巡回と監視を強化。相手がぼんくらじゃなきゃあ、ここで仕掛けてくるだろう」

「オークにそんな頭がありますかね?」

「イェーガーの調査じゃあ、王種がいるだろうってことだ。しかも目端のききそうな奴が。もし臨機応変に仕掛けてくるとして、後は統率力にもよる。だが厄介なのは、統率力が中途半端な場合だ」

「中途半端?」

「そうだ。統率が中途半端な相手は、正攻法が通じない。向うも自分で軍を操作できないからだ。中途半端な軍隊だとしたら、状況は混沌としていくだろう。そうなると物量で押し切られる可能性が高い。

 天災といっしょさ。害虫が群がるように、ターラムは侵略され尽くされる。エサはアタイたちだがね」

「・・・なんとかならないんですか?」

「指揮官でもないアタイに聞くな。戦略を練るのはリリアムやギルド長たちだ。いや、もしかしたら」


 アルフィリースかもしれないな、と言いかけてやめた。ターラムのことはターラムで解決するのが原則。そこでイェーガーが指揮したとなれば、ターラムの立場が弱くなるだろう。自主自律を重んじるターラムとしては、外部の傭兵団を利用することはあっても、あてにすることは考えたくない。

 だがそこでアルフィリースの名前を思い浮かべてしまうあたり、もう既に頼っているかもしれないが。カサンドラはそんな考えを振り払うように外を見た。常人よりも遥かに目の良いカサンドラは遠眼鏡を遣わずともオークの軍団の動き位は見えるが、その肌色の山が動いたような気がした。


「なんだ・・・?」


 その直後、ターラムの外から聞こえる鬨の声。カサンドラの表情からも余裕が消えた。


「おい、リリアムに誰か知らせて来い! 外の連中が動き出しやがった! 他の通用門の連中にもだ!」

「狼煙を上げますか?」

「ああ、そうしろ。戦争になるぞ!」


 カサンドラは素早く指示を飛ばしながら、傍にいる隊長格数名を密かに呼び寄せた。


「お前たちにだけは言っておく。他の門は捨てていい、最悪ここだけはオーク共に占拠されるな」

「は? それはどういった意味で」

「自警団、あるいは闘技場の剣闘士や今ターラムに駐留している傭兵たちやその他の面々をすべて集めても、ターラム全域を防衛するのは無理だ。最悪、この街区――ターラムの経済の中心を担っている連中がいる地域の門だけ守る。そうすれば脱出はできるかもしれん」

「気に喰わない指示ですね。裕福な連中だけ守るってことですか?」

「アタイだってこんなクソみてぇな指示は願い下げだ。だが現実を考えりゃ、商業、経済の中心人物たちさえ生きてりゃ、この街は再建できる。一番最悪なのは、ターラムという街が滅びることじゃない。滅んだあと、周辺の国がこの土地を巡って争うことの方がよほど最悪だ。また戦争が起きるぞ。下手すりゃあ、ローマンズランドに占拠されてみろ。奴らが南方進出の足掛かりになっちまう」

「副隊長、よくそんなことまで考えられますね」

「アタイの考えじゃねぇぞ、偉いさんたちの考えだ」


 その考えを述べたのが、まさか一介の傭兵のものだとまでは言わなかったが。オークの包囲網を見てアルフィリースが自警団に出向いてきたとき、アルフィリースは明確にそのことをリリアムとカサンドラに告げた。緊急時、ギルド長たちはそれぞれの安全と利権を守ることを優先するだろうから、自警団は独自の考えをもって迅速に動くようにと。

 そして『最悪』の選択を間違えないようにと告げて去っていった。住民は見捨てる、いや、囮に使う。戦力はこの街区に集中させ、オーク共が侵略に躍起になっている間に助けられる人間だけでも助けて脱出すると。冷酷なまでの考え方だったが、最も現実的でもあった。

 ただ当のアルフィリース本人だけは、


「一発逆転の方法を探ってくる」


 とだけ告げて、いなくなった。その方法は見つかったのかどうかは知らないが、もう頼っている暇はない。

 カサンドラは出来ることをすべく、動き出した。


***


「おいおい、いいのかよ。勝手に動き出したぞ、他のオーク共」

「いいんだべよ。元々そこまで指示が行き渡るとも思ってねぇべ。連中には三日後の夕暮れまでじっとしとけ、できねぇ奴らはおしおきだとしか言ってねぇ。エサを前におあずけくらわせた状態でずっと待ってたんだぁ。夕暮れの定義なんざ適当だし、何か刺激がありゃ動き出すべ。まあちと早いが、もともとそこまで厳密にどうしろとは言われてねぇべ」

「ふーん。で、手元の連中だけは言うことを聞かせたってわけか」

「3日で言うことを聞かせられた連中はこれだけだったってことだべな。まあそんなもんじゃねぇか?」


 グンツとケルベロスが語る前には、3000匹ほどのオークが整列していた。他のオークたちとは違い、ケルベロスの命令を静かに待つ精兵だ。この統率力、間違いなくケルベロスは魔王として格上げされているとグンツは感じた。

 そして命令に忠実に従う3000体なら、十分にターラムを陥落させられるとも。


「こいつらは突撃させねぇのか?」

「もらうならおいしいところだけだべ。まだあの街からはいやーな感じがあるんだべなぁ。ちょっと様子を見るのが吉だと、オラの本能が告げているべ」

「さっき突撃しようとした連中に食べさせた飯に何か混ぜたよな? それも何かの布石か?」

「あれはドゥームに頼まれたんだべな、突撃の日の昼飯に混ぜてくれって。何なのかは知らねぇが、想像はつくなぁ」

「どうせろくでもねぇものなんだろうな」


 グンツはため息をついたが、ケルベロスは楽しそうだった。



続く

次回投稿は、1/27(金)19:00です。


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