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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その222~ターラムの戦い①~

「なあ、ばあさんよ」

「私のことをばあさん呼ばわりするのはあんたくらいだよ、ブランディオ。目上に対する敬意はないのかい?」

「敬意がなかったらそもそも言うこと聞いてないわ。それよりか聞きたいんやけど、なんなん、これ?」


 ブランディオがちょいちょいと足元を指さす。そこには山のように折り重なったオークの死骸の山。優に500は超えるであろうか。そのほとんどが内部から破壊されており、辺り一面は血の河となっていた。

 その山から少々離れたところに、ラペンティが血に濡れないように石の上に座っていた。見れば、白い法衣には一滴も血がついていない。ブランディオはその姿を見て、冗談ではなく畏敬の念を覚えるのだ。


「(なーにが『華やぐラペンティ』や、こんな血なまぐさい巡礼が他におるか。噂によると植物の種を戦いに使うとか聞いたが、こんなんとまかり間違えても戦いたくないわ。どう花の種を使ったらこんな死に方になるんやろな)」

「ただのオークの死体じゃないか。見ればわかるだろうに」


 ラペンティの言葉にぶるぶると頭を振るブランディオ。


「いやいや、ワイが聞きたいのはそうやのうてな? こんな血なまぐさいことするなら部下を連れてくるべきやろうし、あんたそもそもワイらの指導者や。立場っちゅうもんがあるやろ」

「そのとおりね。だけど、こればかりは譲れないのさ。私の戦友がそこにいるから。最後だけは見届けたくてね」

「戦友?」

「もう生きている仲間も少なくなった。昔は仲間が死んでも口頭や紙の上でしか知ることがなかったし、なんとも感じない時も多かったけど」

「感傷ちゃいますの?」

「そうね。私も年なのかもしれないね」


 ふっと笑うラペンティに、ブランディオは初めて人間らしい表情を見た気がした。若い時は大層美しかったと聞くが、今知るラペンティは実務至上主義鉄面皮で、まさに『鋼鉄の女』といった形容が相応しい。その外側に初めてひびが入り、その下に隠れた表情が見えた気がした。

 オークの集団はぐるりとターラムを包囲しているが、大軍とはいえ包囲網自体は非常に稚拙であり、事実ラペンティが崩したのは一番薄い一画だ。ある程度の集団で分割されており、横の連携もない。一瞬で静かにオークの群れを片付けたため、他の集団には気づかれる気配もない。ターラムと連携が取れれば、ここを突破することは可能だろう。

 本来、ラペンティはターラムに対する援軍としてきたはずだ。本当なら軍団を連れてくるべきだが、ターラムからの連絡の様子を聞くにつけ、それでは間に合わない可能性があると考えた。そのため個人で動いたのだが、それなら他にもやり様がある。わざわざ本人が出向いたのは、その戦友とやらの死にざまを見るためか。ならば外で待機するのは何ゆえか。


「中には入らへんの?」

「必要ないわ。昔の通りのあの男なら、私にわかる方法で知らせてくるはず」

「よく理解してまんなぁ。夫婦みたいや」

「命を預け合うという点では、夫婦以上でしょうね。いがみ合ってばかりいて仲が悪いと思っていたけど、存外相性が良かったかもしれないわ。もう少し歳がいってから出会っていれば、そんな風に考えられたかしら。覚えておくといいわ、伴侶には喧嘩できる相手がちょうどいいのよ」

「そんなもんかいな?」

「そんなものよ。あなた、結婚する気はないの?」

「結婚ねぇ・・・」


 ブランディオにその気はさらさらない。もちろん女がいなかったわけではない。だがどんな女を傍においても、対して彼は気が乗らなかった。それがなぜかはわかっている。ブランディオは、自分自身が嫌いなのだ。自分を嫌いな人間が、どうして他人を愛することができるだろうか。

 だから、これから先どんな良い女が目の前に現れても、心を動かさないと決めている。間違いくらいは犯すかもしれないが、本気になることは決してないだろうと。ブランディオがそんなことをぼんやりと考えていると、ターラムの町に光が出現した。少し遅れて、爆音と煙が見える。


「なんやぁ!?」

「・・・そう、そこまでしたの。それだけの相手がターラムにいたのね。見事な散り際よ、ヴォルギウス」


 驚くブランディオと、全てを理解したラペンティ。少し目を閉じ一瞬だけ瞑想をすると。ラペンティはブランディオに命令した。


「ターラムに行きなさい、ブランディオ。中で何が起きたのか、仔細もらさず調べてくること。特に、ターラムの司祭が最後に相手をした相手のことをね」

「はぁ? 今からですか?」

「そう、今からよ。あなたなら何らかの手段で行き来できるでしょう? たとえ戦場の真ん中でもね」

「そんな無茶な。だってこれって・・・」


 その瞬間、地響きと鬨の声が起こった。爆発を合図に、オークたちが突撃を開始したのだ。



続く

次回投稿は、1/25(水)19:00です。

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