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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その220~調教師③~

「鞭が・・・重い?」


 明らかに鈍るファンデーヌの鞭。決して振るい疲れたわけではなく、魔力がいきわたらない倦怠感を感じる。魔力にはまだ余裕がある。ならばなぜか?

 ファンデーヌは自分が振るう鞭の合間に見える、煌めきに気付いた。それがぱん、と弾けて発光して、正体に気付いたのだ。


「まさか・・・金貨の欠片?」

「そうだ。金貨は確かに爆発するが、それは私が魔力を込めているからではない。正確には、『当たった相手の魔力を吸収して爆発する』だ。だが相手が人間なら、大なり小なり魔力は保有しているから結局爆発するのだが。もちろん相手が強い魔力を有するほどに効果は大きい。

 その鞭は魔力を使って操っているのだろう? 欠片でもそれなりに能力は発揮するし、魔力を吸われればお前の鞭の動きが鈍くなるのは道理。私の特性はまるでお前を討つために生まれたようなものだな。欠片でも集まれば、それなりの殺傷力を持つぞ?」

「・・・この爺!」


 ファンデーヌが初めて罵声を発した。ファンデーヌは防御を最低限にし、いち早くヴォルギウスを仕留めるため突撃した。今程度の攻撃なら、仕留める方が早いと思ったのだ。迫るファンデーヌにも冷静なヴォルギウス。この展開まで予測済みである。


「所詮は投擲術! いかに数が多かろうと、飛んでくる弾道は読めているわ!」

「ほう、そうか?」


 ヴォルギウスの発射姿勢が変わったことにファンデーヌも気付いたが、今更どうなるものでもない。覚悟を決めて突撃したのだが、ヴォルギウスが放った金貨は通常よりも少ない数だった。これならば捌ける。そう確信したファンデーヌが鞭を振るったが、金貨は空中でファンデーヌを嘲笑うかのように変化し、その体に全て命中した。

 ファンデーヌの表情が苦悶と驚きに満ちる。


「球体なら変化を付けるのも楽なのだがな。硬貨の投擲軌道を変化させる技術は大変だったぞ。お前が投擲術について素人で助かった」

「この!」


 ヴォルギウスはファンデーヌの魔力を金貨が吸い上げて爆発するのを待てばよかった。金貨の容量から考えて、3秒もない。その間こそがヴォルギウスの戦い方の欠点でもあったのだが、今まで問題となったことはなかった。大抵は不意打ち、あるいは距離をとっての一方的な攻撃で片がつくからだ。三秒の間、逃げ切れぬヴォルギウスではない。

 だが予定の時間を過ぎてもファンデーヌに命中した金貨が爆発する気配を見せない。まさか、ファンデーヌの魔力が尽きたのか。そんなことを考える隙にも、捨て身のファンデーヌが突撃してきた。


「油断したわね!?」

「ちっ!」


 ヴォルギウスが再度金貨を投擲するが、ファンデーヌは気にも留めない。最低限の個数だけを打ち払い、数発が命中しようが構わず突進する。そして確実にヴォルギウスを殺せる射程に入り、鞭を振るったところで背後から貫かれるのを感じたのだ。


「・・・アルマスの、三番?」

「お前こそ、油断したな」


 打ち払った一つの金貨が、アルマスの三番に変化した。いや、アルマスの三番が金貨に変化していたのだ。大きさの違うものに変化することもできるのか。ファンデーヌが感心したと同時に、剣に変化した三番の左手がファンデーヌの首を刎ねた。

 ファンデーヌの首が無慈悲にころころと地面を転がって止まると、ヴォルギウスが大きくため息をついた。


「万一を考えて金貨に変化してもらっていてよかった。切り札になったな」

「大きさの違うものに変化するのは凄く体力を使うのですけどね。互いに能力をばらしたのだから、おあいこというところかしらね。優先されるのは、この女の討伐だわ。

 しかし、さすがにこれで死んだでしょうね。ファンデーヌなる女の正体はわからないままか」

「そうだな、だがこの女が素直に話すとも思えん。お前の言う通り、倒すことが優先だ」

「そうね。それにしてもあなたは大したものね、その老体でそこまで動けるとは。まだまだ現役の巡礼でも、相当の番手で活躍できるのではないかしら?」

「この戦いのためだけに練り上げられた体だ、もう一回となると御免蒙る。それより金貨が発動しなかったのが疑問だな。先ほどまでファンデーヌは大量の魔力を有していたはずなのだが」

「気にするな、と言いたいところだけどたしかに妙ね。一応死体を調べておきますか」


 三番は慎重な性格をしている。ヴォルギウスの疑問も尤もだったが、得体のしれないファンデーヌの正体が気になりもした。三番の手が泣き別れになったファンデーヌの胴体に伸びる。仰向けにしたファンデーヌの胴体からは、魔力の残滓すら感じられない。死んだとしても、しばらく魔力は残るものだが。

 金貨は確かに命中していた。ならばなぜ。三番がファンデーヌを探ると、背中から貫いた傷から血があまり流れていないことに気付く。心臓を貫いたなら、まだ血が流れ出るはずだ。それに切断した首からも、もっと流れるはずだが。それにこの血のねばりつく感触。これは血だけではないのか――?



続く

次回投稿は、1/21(土)19:00です。

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