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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その209~果てなき欲望⑯~

「真面目に相手をしてやる。来い」

「言われずとも!」


 レイヤーが正面から斬りかかるのを、片腕となったバンドラスは正面から打ち合った。手甲についた刃はそれほど長くないので間合いの上ではバンドラスが不利だが、打ち合い自体は互角だった。


「(こいつ、盗賊の剣技じゃない。剣の心得がある、しかも正規の剣・・・見たことのある剣だ。随分と昔の剣技じゃないか?)」


 シェンペェスの感想を他所に、レイヤーとバンドラスの打ち合いの均衡は徐々に崩れた。技術と速度はややバンドラスが上だったが、腕力でレイヤーが勝る。体格は子どものそれとはいえ、バンドラスの膂力は並の人間を引き裂く程度にはある。それが不利になるのである。


「(なんという腕力じゃ! 片腕ということを差し引いても、大した腕力よ。しかも)」


 徐々に腕の痺れが強くなる。腕力が徐々に上がっていることは間違いなく、まるでアナーセスのようだな、とバンドラスは苦笑する。案外、アナーセスの亡霊でも憑りついているのではないだろうかと考えた。

 レイヤーの一撃にバンドラスが体勢を崩した直後、背後から殺気を感じた。反射的に蹴りを後ろに繰り出すと、ジェイクの剣と足甲が交差する音がした。


「ちっ」

「騎士のくせに背後から攻撃しよるとは。正々堂々と戦わんかぃ!」

「相手がまっとうな生き物なら考えるけどな!」


 ジェイクが押し込む力に合わせ、バンドラスが空中で体を回転させる。ジェイクが体勢を崩し、レイヤーはその隙に斬り込んできた。バンドラスも含み針をレイヤーの目めがけて吹いたが、レイヤーはあっさりとそれを手背で払いのけて斬り込んできた。


「なんと!」

「フゥッ」


 レイヤーの斬り下ろしを防御した空中でまともに受けたために、地面に叩きつけられて転がりまわるバンドラス。姿勢制御しながらそれでも後退したが、上体を起こした瞬間に空気を裂く音が聞こえて、反射的に身をよじる。

 バンドラスの首に熱い痛みが走り、血が噴き出した。明らかに刃の感覚だったが、正体を確認すると、戦輪がレイヤーの手元に戻るところであった。この間で当たったということは、一連の攻防の前に投げていたということだ。ダートと戦って予測する能力が増したということか。だがそれにしては――バンドラスの頭に一つに仮説が浮かんだ。


「(レイヤーの能力とはまさか――いや、可能性はあるな)」

「ぼーっとするなよ!」


 ジェイクが虚をついてバンドラスに襲い掛かる。今度はジェイクが打ち合いながら、レイヤーが周囲から隙を伺う。ジェイクだけならバンドラスの敵にはならないが、レイヤーの牽制が絶妙の間であるため、反撃するまでにいたらない。

 それに思ったよりも首の出血が多く、徐々に力が入らなくなってきた。


「動脈をやられているか! 片腕もないし、これは不利じゃのぅ」

「当然だ!」


 ジェイクが一際押し込むと、バンドラスはたたらを踏んで下がった。そこにレイヤーが横払いを当てると、バンドラスは宙を飛んで吹っ飛び、扉を突き破って部屋の向こうに消えていった。


「手ごたえは?」

「きいてないよ。自分から後ろに吹き飛んだ」

「だけど、あの部屋が一番奥の部屋だ。あの部屋から逃げることはできない」

「もう探索を?」

「ああ、おぞましいものがあったよ。覚悟はいいか?」

「おぞましくて恐ろしい物なら、何度も見てきたよ」


 レイヤーの言葉にジェイクは同意することなく、彼らはそのまま奥へと足を踏み入れた。ジェイクがここに足を踏み入れるのは二度目だが、あらためてそこに足を踏み入れる時に、冷気のようにうすら寒い空気を感じざるをえない。

 そしてその部屋に入ると、中央部分にバンドラスが佇んでいた。その周囲にある多数の水槽や容器なような入れ物に入っているものを見て、さしものレイヤーも身を固くしていた。



続く

次回投稿は、12/31(土)21:00です。連日投稿になります。

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