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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その205~果てなき欲望⑫~

 驚いたのはバンドラスだけではない。その場にいる全員が驚愕のあまり、ジェイクの行動を止めることができなかった。あまりに唐突だったゆえ、フォスティナでさえジェイクを止めることができなかったのだ。

 襲いかかられたバンドラスでさえ、エネーマのとりなしを受けても、アルネリアに一度拘束される必要があるかと考えていた。その後、オークの襲撃の際に、混乱に乗じて逃げるつもりでいたのだ。この場は穏便に済ますつもりでいたのに、もっとも剣を振るいそうにない相手が猛然と斬りかかってきたのでは受け止めるのが精一杯だった。

 一間を置いて、はっと我を取り戻したウルティナが叱責した。


「ジェイク、何をしている!」

「止めるな! こいつはこの場で切るべきだ。そうでなければ、もう二度と捕まえられない!」

「根拠はあるのか!?」

「勘だ! だが、証拠はそこの中に隠してある! だがこの場でこいつを斬り倒さない限り、二度とそれすら見つけられない!」

「(この小僧・・・儂の隠し部屋に入っただけでなく、罠を解除して中を見たのか?)」


 バンドラスはジェイクの特性を見抜こうとした。自分の勘が正しければ、この小僧の特性は『聖騎士』なのだと思っていた。かつて存在したといわれる、悪霊に特化して超常的な戦闘力を振るう戦士の特性だ。だが、この発言と行動を見る限り、ジェイクの特性は聖騎士ではない。仮にただの聖騎士であれば、バンドラスの隠れ家に中に入ることは不可能だ。罠を解除できる特性を、聖騎士はもたないからだ。

 で、あるならこの少年は一体何者なのか。剣を握って間もない少年が、第五位の悪霊を退ける。レイヤーという存在と共に、再び興味がむくむくと湧き上がるのをバンドラスは感じていた。と、同時にもはや止めることはできないという確信があった。これほど心がざわめくのは、ゼムスを見た時以来か。エネーマには悪いが、冷静に戻ることは無理だろうと確信した。バンドラスはエネーマの方をちらりと見て、ふっと笑った。同時にジェイクを弾き飛ばす。

 バンドラスの意図に気付いたエネーマの表情から余裕が抜けていく。


「バンドラス、あなた――」

「小僧、あの中を見たのか」


 バンドラスはもはやジェイク以外の人物には興味を失っていた。ジェイクもまた油断なくバンドラスを見据えて答えた。


「ああ、見た」

「ならばどうして、ああいうことになったのかもわかるか?」

「わかるよ、あれがあんたの本質だ。俺たちが息を吐くように、あんたはこれからもああしていくだろう。それが世の常識とかけ離れていると、誰にも理解されないとわかっていても続けるはずだ。違うか?」

「・・・素晴らしい。もはや何も言うことはないの・・・ヒョヒョ、ヒョヒョヒョ!」


 バンドラスは少年のような姿に似つかわしくない奇妙な高笑いと共に、吹っ切れた表情になっていた。初めて自分の理解者を得たような、晴れやかで親愛なる情をもってジェイクを見た。そして次にエネーマを。


「すまんのぅ、エネーマよ。貴様たちとの付き合いもこれまでよ」

「裏切るってこと?」

「儂にそのつもりはないが、そう受け取ってもらって構わんよ。ゼムスによろしく伝えてくれ、今まで楽しかったとな。さて、お前さんたちはどうするかね? そこの小僧はやる気満々のようじゃが、儂としては戦いそのものはどちらでも構わん。お暇させてくれるのならそれでもよいのだが、その小僧を押さえる気はあるかね?」

「・・・生憎と、その子の直感は誰より優れていますし、最大限尊重することになっていまして」


 ウルティナが構える。それを見て、他のアルネリアの騎士も。もちろんマルドゥークも。そしてフォスティナとリリアムもそれに続いた。


「申し訳ないがあなたがバンドラスを名乗るのなら、確かにギルドでは討伐依頼が有効だったはずだ。ただその内容は、捕縛を優先すると書かれていたはず。大人しく捕まってくれるのならありがたいが、そうはいかないのだろうな。ならば、この好機を逃す手はあるまい」

「当然、ターラムの安全上の問題は私の管轄だわ。こんな火事の不始末だけでも責任を問いたいところだし、盗賊団の首領となっては見逃す理由はないわね。

 エネーマさんはどうするのかしら? 仲間だというのなら見ていてもいいわよ? その場合、後で詰問させてもらいますけど」

「ふん、こんな聞いての通りよ。私たちはこんな爺とは何の関係もないわ。捕まえるってのなら、協力するわ」


 エネーマまで戦闘態勢を取った。変わり身の早さにリリアムは苦笑したが、処世術としては悪くない。それにエネーマとしては、余計なことをぺらぺらと話されるくらいなら、この場でバンドラスを始末してしまおうと考えたのだ。

 だがこれだけの実力者に囲まれながら、バンドラスは余裕綽々に笑ってみせた。


「ヒョヒョ、これだけの猛者に囲まれるのはいつぶりかのう。老骨が滾るわ」

「まさかこれだけの相手を前に、やり合うつもりなのか?」

「抜かせ小僧。これだけの相手を前にしり込みするようなら、いますぐ戦いなどやめておるわ。儂は戦いは好かんが、必要に応じればそれなりにやれるし、男としての気概もあるのじゃよ。これほど楽しい状況を目の前に引き下がれじゃとぅ? できるわけがなかろうが!

 さて、外のオークが動く前にかかってくるがよかろう。儂を打ちのめして捕えることができるかな?」

「調子にのるな!」



続く

次回投稿は、12/24(土)21:00です。

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