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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
1369/2685

快楽の街、その204~果てなき欲望⑪~

***


 惨劇の場だった。悪鬼のごとき形相をしたマルドゥークが振るう剣は、人を壊れた人形のように八つ裂きに破壊していった。生きていようが肉塊となっていようが構わず振るわれる竜巻のような剣は、一振りごとに当り一面を血の海へと変えていった。振るう剛剣の凄まじさとしては、アルベルト以上。マルドゥークが質実剛健な騎士でありながら神殿騎士団へと戻されず、いまだ巡礼として活動する理由でもある。振るう剣の凄ままじさゆえ、味方へ被害が出るからだ。

 『狂信者』と呼ばれるのは、アルネリアに対する絶対的な忠誠心もそうだが、何より自己暗示による戦闘力の上昇が著しいことと、戦いぶりの凄まじさのためそう呼ばれるようになった。かつて若かりしアルベルトの剣すら退けたその剣技は、単純な近接戦闘では巡礼一位との呼び声も高い。

 マルドゥークはその剣でもって、バンドラスの部下を30秒もせぬ間にただの残骸へと変えていた。


「ちっ、とんだイカレた騎士じゃわ。死体にまで攻撃をかけるとはの」

「私はアルネリアの敵を排除する一本の剣だ。私のそれ以上の何かを求めるのは間違っている。騎士らしさなど、アルベルトにでもやらせておけばよい」

「激しさならうちのアナーセスよりも上じゃのう。相手をするにはちと骨が折れるだろうが・・・」


 とん、とんとバンドラスが足踏みを始める。軽快なステップに、マルドゥークは再度剣を構えた。


「ここまでされておいて、やらんわけにはいかんわなぁ!?」

「ここで死んでもらうぞ、バンドラス!」


 バンドラスが接近戦を挑む。振り下ろされるマルドゥークの剛剣がバンドラスを両断したと思われた刹那、マルドゥークの右肩に鈍い痛みが走った。見ればバンドラスは既に距離を取り、両手をだらりと下げた体勢で、脱力したようにゆらゆらと揺れていた。両の手甲から飛び出した刃には、血がぬらりと光っていた。

 両手に? とマルドゥークが考えた瞬間、左膝の後ろにも痛みが走った。いつの間に斬られたのか、まるでわからない。動きが速すぎるのか、それとも他に仕掛けがあるのか。慎重に距離を取ろうとマルドゥークが下がると、今度は背中から斬りつけられた。

 バンドラスは正面にいたまま、不敵な笑みを浮かべている。


「さて、儂は何をしたと思うね? わからんわなぁ。お前さんに、儂の攻撃が見えるかね?」

「・・・なるほど、確かに見えないな。移動速度もさることながら、手癖の悪さも一級品だ。暗殺者としても一流なのじゃないか?」

「アルマスから勧誘されたこともあるからの。もちろん断ったが。さて、どうする?」

「決まっている」


 マルドゥークは心臓と首を守る姿勢で、一直線にバンドラスに突っ込んだ。その判断と潔さに身震いするバンドラス。アナーセスとダートもそうだが、この男も実に『もったいない』。いや、この男だけでなくリリアム、アルマスの三番、闘技場に出ていたイェーガーの傭兵たち、ジェイク、レイヤー。もったいない素材が多すぎる。

 どうして自分の心をくすぐる原石がこうも一堂に集結するのか。これでは我慢できないではないか――そう考えた自分の心情が表情に出たのか。マルドゥークが危険を察知したように飛びずさっていた。


「くくく、すまんの。嬉しくて、つい、な。顔に出ていたかね?」

「バンドラス、貴様は一体――」

「マルドゥーク!」


 その時である。ウルティナやジェイクがその場に追いついてきたのは。そしてその場に現れたのは彼らだけではない。エネーマ、リリアム、フォスティナ。彼女たちもまたここに集結した。

 彼らはこの場における惨劇を見渡したが、いち早く状況を理解したのはエネーマ。


「バンドラス、あんた『やらかした』ね?」

「エネーマか。やらかしたとは心外だ。儂は好き勝手にやってよいと、ゼムスからお墨付きをもらっている。そもそも儂はゼムスの部下や仲間ではなく、対等の関係だ。死んだ後のアナーセスやダートを儂がどうしようが勝手のはず」

「死んだ? あんたまさか」

「見損なうな。儂とゼムスの契約では、『仲間が死んだ後は好きにしてよい』だ。生きているうちには手出しはせんよ。奴らを殺したのはまた別の者よ」

「わかったわ、それはいいとして――まさか、アルネリアを相手にするっての?」

「儂にはそのつもりはなかったのじゃがの。そこの巡礼の騎士は儂の言い分をまるで聞いてくれん。やむをえずやり合っていたところだ。とりなしてくれると助かるのだが?」

「そうね・・・」


 エネーマは考えた。ダートとアナーセスは一応仲間という括りだが、正直エネーマにとってはどうでもよい存在だった。それぞれ面白くて残酷な人間ではあったが、些か自らの趣味を優先しすぎるきらいがあった。辺境ならともなく、人里に降りるたびに問題を起こし、満足に後始末もできないのでは、いずれ良くない状況になるのは目に見えている。

 その点、バンドラスは弁えていた。この場さえ収めてしまえば、どうとでもなる気はする。何より、バンドラスがいなくては資金調達をする人材がいなくなる。エネーマが場を治めようと一歩を踏み出したその時のことだった。まさか、ジェイクが猛然とバンドラスに斬りかかるとは思ってもいなかった。



続く

次回投稿は、12/22(木)21:00です。

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