快楽の街、その203~果てなき欲望⑩~
「僧侶は探り続けた。仮面の調教師はいたる惨劇の場に出現し続け、自らはほとんど手を汚すことなく、事態を操っていた。その年数は、わかっただけでも100年を超える。何のためにそんなことをしたのか事情はわからないままだが、私は正体を暴いて倒すための方法を探し続けた――お前は何者なのだ、女。ブラックホークの傭兵団の隊長だそうだが、それはお前の本当の姿ではあるまい?」
ヴォルギウスが問い詰めたが、ファンデーヌは涼しい顔をして鞭を取り出していた。
「良く喋るおじいさんね。あなたが何を言っているのか全くわからないのだけど--そうね、私の想像では『楽しかったから』ではないかしら?」
「楽しかった、だと?」
「子どもの頃、虫の手足をもぎ取って遊んだことはない? でも大きくなると物足りなくなったから、対象が人間に移っただけ――そう考えられないかしら?」
「そんなことを考えらえる奴の性は残虐だ」
「でも人間がもがき苦しんだり、罠にはまって恨む必要もない者どうしで争い殺し合う様は、とても面白いわ」
くすりと笑うファンデーヌに、ヴォルギウスが攻撃を仕掛けるのは同時だった。投げナイフをファンデーヌが鞭で打ち落とすと同時に、背後の影から魔獣が多数出現する。大型から小型まで、生息地域もばらばらの魔獣たちが多数現れる。
「私は魔獣使いのファンデーヌ。調教した魔獣を多数使役することができるわ。一人で隊長と呼ばれるのは、この子たちがいるから。さて、百を超える魔獣を相手にする準備はよくて?」
「百? そんなもので足りるのか?」
その言葉と同時に、魔獣の群れの頭部が全て吹き飛んだ。はじけ飛ぶ頭部と共に舞っていたのは銅貨。ファンデーヌが驚きの表情で宙に舞う銅貨を見定めると同時に、さらに放たれた銅貨がファンデーヌめがけて放たれる。
ぎりぎりで叩き落としたファンデーヌがさらに驚いたのは、投擲できるように銅貨を体中に満載した仕込んだ姿のヴォルギウスと、老人とは思えぬほど鍛え抜かれた体躯である。
「凄い体ね、おじいさん。ヤル気満々じゃないの。20歳ほど若かったら、惚れちゃいそうだわ」
「いくら美人でも、お前さんのような女はごめんじゃよ。その目、何を見てきたら憎悪に燃えた目になる? 世界を焼き尽くさんばかりの憎しみの炎に見えるぞ」
「憎しみで本当に焼けるなら、私の憎しみは世界を覆うわよ。焼け落ちてしまえばよいのだわ、こんな世界なんて」
ファンデーヌがさらなる魔獣を召喚すると同時に鞭の形状が変化した。その形がまるで三頭の竜のように分かれていく。いや、竜そのものへと変化した。今度はヴォルギウスが驚く番だった。
「それは?」
「あまり世には知られない武器でしょうね。イルベガンという魔獣の体躯を用いて作った鞭だわ。元の魔獣がかなり凶悪でね、戦うほど凶悪性を増していくのよ。頭が一つ、二つと増えていく。貴方はいくつまで頭を見ることができるかしら?」
「イルベガン、だと? それは数百年も前に討伐された魔獣のはずだ。貴様は一体――」
「女に秘密は多いものよ? もっと知りたいのなら、実力で篭絡してみなさいな」
ぴしり、とファンデーヌが地面を鞭うつと同時に、魔獣たちが襲い掛かり、直線的なヴォルギウスの攻撃と、弧を描くファンデーヌの攻撃が夕暮れの町に絵を描きはじめた。
続く
次回投稿は12/20(火)21:00です。