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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その198~果てなき欲望⑤~

 バンドラスは慣れた口調で彼らに命令する。


「首尾は?」

「ギャスに同調した者はあらかた討ち取ってございます。火を消し止めるのも間に合うかと」

「外の様子はどうか? 神殿騎士団は?」

「自警団が動く様子はまだありません。それよりも外のオーク共の様子が変化があるらしく、そちらに気を取られている模様。ですが、神殿騎士団は一直線にこちらも向かってきています。しかも全員が正規の装備で」

「なるほど、儂と一戦やる気か」

「いかがいたしますか?」


 バンドラスは逡巡し、首を横に振った。


「・・・アルネリアと正面からことを構えるつもりはない、この場を引き払う。お前たちはしばし身を隠せ。ほとぼりが冷めるころ、また連絡を取ろう」

「そうはいかん」


 一番外にいた盗賊が前のめりに倒れた。背後からの致命傷。血に濡れた剣を持つ男に、バンドラスが眉をしかめた。


「随分と早い到着だな、指揮官殿。確か、マルドゥークとか言ったか」

「名を知っているとはな。お前が盗賊バンドラスで間違いないか?」

「違う、と言っても聞く耳持たんだろう? 神殿騎士団のくせに、背後から斬りかかるとは何て奴だ。それでも騎士か、貴様」

「盗賊風情にかける情けは持たん。それに、殺し合いをしている最中に気を抜いたそちらが悪い。それより、ここに年老いた神父がこなかったか?」

「儂も今帰ってきたばかりだがな、お前たち、どうだ?」


 盗賊たちは無言で首を横に振った。その反応を見て、マルドゥークはどこかほっとしたようだった。


「そうか、ならいい」

「見逃してくれるのか?」

「違う、『都合がよい』と言ったのだ。私の力は集団戦に向かなくてな。だからこその単独行動であり、深緑宮に戻らずいまだに巡礼でいる理由でもある。『狂信者』のなんたるか、見せてやろう」


 マルドゥークが顔を手で覆い、殺気を放ち始めた。隙だらけのように見える行動だったが、バンドラスはあえて行動を起こさなかった。ぎりぎりまでアルネリアとことを構えるのを避けたかったのである。


「俺たちが何をした? 先にオークがターラムに乱入した際には、殲滅に手を貸したのだぞ? 感謝されこそすれ、征伐されるいわれはないがのぅ」

「残念だが、ある。私たち巡礼にはそれぞれ役目があるが、私の役目は主にアルネリアの敵となる者の単独殲滅だ。貴様たちバンドラス盗賊団は、アルネリアにとって害にしかならんとして殲滅対象に挙げられている。ただ頭領である貴様の行方がわからないために、見逃されていただけだ。多少の慈善行為や義賊ぶりで見逃されると思うなよ? 貴様たちが犯してきた罪は、それよりも遥かに大きいのだ」

「ちっ、どこかでアルネリアとことを構えたつもりはなかったんじゃがな。どちらが物騒な集団なのかのぅ」


 バンドラスがくいと顎で示すと、全員がマルドゥークを取り囲む。その数50以上。全員が精鋭中の精鋭の盗賊というよりは、暗殺者だ。


「やれ」


 バンドラスが命令をすると、彼らは一糸乱れぬ統率で攻撃に出た。その瞬間、マルドゥークの形相が変わり、長剣が凄まじい速度で閃いたのである。


***


「アルフィリース、煙だ」

「見えているわ」


 ラインの報告に、既に宿の屋上に来ているアルフィリース。イェーガーもまた、ターラムで起きた異変を察知していた。


「どうする、人をやるか?」

「そうね・・・ドロシー、いいかしら?」

「あいっ」


 アルフィリースの傍に控える、そばかす顔の女剣士。新入団の時から比べてたくましくなった彼女は、アルフィリースの護衛をすることが多い。剣の腕前も相当なものになってきているが、野生の勘とでも言うべき直感はリサにもアルフィリースにもない閃きを生むときがある。アルフィリースはその才を惜しんでいた。

 走れば馬のごとく駆け、力は並の男をゆうに凌ぐ。剣から弓、槍、格闘術と武芸は万能であり、疲れを知らず三日三晩でも働くことができた。一つだけ欠点があるとすれば、学問が苦手であることくらいか。それでも読み書きには不自由しないので、アルフィリースの護衛として問題はなかった。

 魔術だらけでセンサーが阻害されるようなこの街では、ある意味リサよりも重宝される存在だ。


「ヴェンとエルシアを連れて、火事の原因を探ってきて頂戴。ただし、深入りはしないこと。戦闘は可能な限り避けるように」

「あいっ」

「敵がいると?」


 ラインの怪訝な顔に、アルフィリースも難しい表情になった。


「私もターラムで起きていることを全て把握しているわけではないわ。ただ、先にオークの一部がターラムに侵攻した事態があったそうだけど、自警団が動く前にあらかた潰されていたそうよ。それをやったのはおそらく第四街区の浮浪者だと言われていたけど、それらを統率したのが誰なのか、という話ね。私の考える支配者とつながっていて、この街の守護者足り得ればよいのだけど」

「違うってことか?」

「なんとも言えないわね。私の予想では、ターラムに害を成す連中には容赦しないけど、その活動は流動的で一定しないのではないかと思っているわ。

 噂に聞くバンドラス盗賊団なるものが本当にあるのなら、想像に当てはまる勢力だとは思うけど」

「バンドラス、ね。誰も姿を見たことがない、伝説の頭目か」

「姿を見たことがない?」


 アルフィリースの疑問に、ラインもちょっと戸惑い気味に答えた。



続く

次回投稿は、12/10(土)22:00です。

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