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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その186~報復㉜~

「こういう手もあるんです」

「くっ!」


 レイヤーが慌てて斬り飛ばすが、剣の間合いよりも遠くから発動する罠もあり、レイヤーはその場から動かざるを得なかった。罠は触っただけではなく、対象との距離で発動するもの、時間経過で発動するものもあった。複数の種類の罠にレイヤーの反応が遅れ、徐々に防戦一方に追い込まれていく。そしてレイヤーが再度投げつけられた罠が起動するのを見て躱そうとしたところ、罠が予想外の魔術を発動した。

 なんと杭を打ち出すのではなく、爆発して散弾のように破砕したのだ。至近距離での爆発にさすがのレイヤーも反応できず、正面から浴びる形になった。急所を守りながら転げ回るレイヤーに、さらに多数の罠が発動する。多数の爆発と杭が突き出ると、ダートがせせら笑っていた。


炸裂弾バラスト、と私は呼んでいますがね。一つ一つの威力はさしたるものでもないですが、直撃すれば衝撃で骨は折れますし、肉は削がれ目も潰れるでしょうね。死んではいないかもしれませんが、指の何本かくらいは千切れましたかねぇ?」


 ダートがここまで上手くレイヤーをはめることができるのには理由がある。ダートの本当の能力は、人間の解体を続けたことでわかる相手の行動の先読み。筋肉の動きだけでなく、視線、体温、呼吸などから相手の心理状態、次の行動を読むことができる。優れた戦士が同じような感覚を得ることはあるが、ダートのそれは未来予知にも近い精度で相手の行動を読むことができた。相手の行動を読むことができれば、行く先々に罠を設置し、相手がもがくのを見ていればよい。ダートの戦い方の基本戦術だ。。

 ダートはそろそろレイヤーの戦意が萎えるころだろうと判断したが、レイヤーの方に一歩踏み出そうとして、その足が止まった。土煙が一瞬巻き上がると、その中から一直線に飛び出してくるレイヤー。ダートはすんでのところでレイヤーの剣を回避する。


「まだ動くだと?」

「やっぱりそうか」


 レイヤーはすれ違いざまに距離を取ると、ダートに向き直った。その体にはほとんど傷がない。罠にかかったように見えて、全て回避していたということになる。ダートは自分の予想が外れたことに驚き、思わずレイヤーに質問していた。


「小僧、どうやって避けた?」

「お前の罠は反応から発動までに時間がだいぶかかるな。これなら一定以上の速度で動き回れば、発動すらさせないこともできる。それに今の攻撃をかわすということは、この剣での攻撃は有効だということだ。自ら認めたね」

「罠が発動するより早く動いたと? しかしそれは」


 人間の反応速度をおよそ超えている、と言いかけてやめた。それでは罠が無効であることを教えてやるようなものだ。ダートは戦い方を変えることにした。


「なるほど。確かに昨晩とは一味違うようだ」

「もう手札は尽きたのか?」

「まさか。これからが本番だよ、小僧」


 その言葉と共に、ダートが無防備に近づいてきた。速足程度の接近の仕方に一瞬だけレイヤーは驚き、そして思い切り上段からマーベイスブラッドを振り下ろした。だが剣はダートにするりと躱され、逆にダートの拳を頬に受けることになる。そして頬がかっと熱くなったと思うと、レイヤーはぞくりとした。今、頬に罠を仕掛けられたことがわかったのだ。レイヤーは剣で慌てて魔術を解除すると、その隙に腹に七発も拳を入れられた。

 レイヤーはまたしても後退し、一度距離をとらざるをえなかった。ダートがローブを脱ぎ捨てると、魔術士らしからぬ小手を装備していた。それに、拳闘家のように鍛え上げられた肉体。レイヤーは驚きに目を見開いて、ダートの姿を眺めた。この話は、バンドラスからも聞いていない。バンドラスから聞いた情報は、彼が防御かつ罠に特化した魔術士であることと、先読みに非常に優れたことだけだった。嘘をつかれたか、ただバンドラスも知らないだけか。どちらにしても、レイヤーには非常に嫌な予感が頭によぎっていた。


「こう思っていただろう? 魔術士は魔術のことばかり考えていて、肉体が貧弱だと。私はそう思われるのが嫌でね。魔術協会でも格闘術と魔術を組み合わせた戦闘方法というのはあるし、何より魔術協会の会長がそういう戦い方をする。私の場合も、格闘術を使う――というより、私の魔術も特性も格闘術と相性がよくてね。殴るついでに罠を仕掛ける。これが本来の使い方だよ、小僧」

「・・・」

「気付いたようだな? 私に勝つには、私の先読みを全て上回って攻撃を躱し続けるしかない。一撃でも当たればそこから後手に回る。そして遠距離攻撃は私の防御を打ち破れない。さらにもう一つ」


 ダートの周りに黒い渦が回り始めた。それはせりあがる不吉の象徴のように集まり、黒い布のようにダートの周りをゆらゆらと舞い始めた。



続く

次回投稿は、11/17(木)8:00です。

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