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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その183~華やかな街の裏で③~

 ジェイクの言葉の意味を少年は飲み込めていないようだった。きょとんとしたままの少年を尻目に、ジェイクは集会場と言われた場所の壁を調べ始めた。


「楓、ヤサ探しをしよう。どうも妙な予感がする」

「ええ、私もそんな気がしてきました」

「待て、勝手なことをするな! それに意味がわからないぞ。依頼の度に仲間を殺すとか――」


 ジェイクの肩をつかもうとした少年の手を振り払う。


「ありえる。世の中は残酷なんだ、俺やお前にも理解できないくらい。それに魔術協会の追跡を逃れられるとしたら、魔術を解除するのが一番だ。だからバンドラス盗賊団には魔術士がいると考えてもみたんだが――」

「違いました、この区画には魔術の痕跡がない。これだけ魔術が敷き詰められた街なのに、ここにはそんな痕跡が一切ないのです。いくら増築、改修を繰り返していたって、これだけ狭くて不衛生なら疫病の温床にもなりますし、普通は魔術でそれらの処理をするのはこの街ならやってのけるでしょう。また、盗賊団のアジトとして何か隠しておきたいのなら人除けの魔術くらい施しているのが普通です。だが、ここにはそれすらなかった。こんな場所ならセンサーで筒抜けになります」

「この区画にお前みたいな見張りがいて、しかも誰も踏み入れたくないほど不衛生な地域。それらがあいまって、住民以外は誰も興味本位でここに足を踏み入れない。本当は、魔術をほどこす必要がないのかもしれない。だが逆に、魔術すら施す必要がないようにこの場所を作り上げたとしたら?」

「なんだって?」


 少年の驚いたような反応に、ジェイクが続けた。その手は壁を探し続けている。楓もそれに続いた。


「この街は魔術の巣窟だ。必要なものからそうでないものまで。もぐりの魔術士が自分の業と領域を示すかのように施した結果だと思っていた。あるいは単なる悪戯か。だが魔術がこれだけ溢れる街に、ここだけ魔術がない。魔術士すら足を踏み入れない――それだけまずい場所という印象を植え付け、外部の人間を排除したなら、隠し物をするにはもってこいだ。そんな場所に、何も隠していないわけがない」

「だがセンサーが調べれば――」

「センサーに知り合いがいるからよくわかるけど、センサーを封じる方法はいくつかある。一つは魔術、一つは途切れることのない衝撃や騒音。あとは――センサーで感じ取ることのできないほど複雑な構造。この区画の構造、複雑に増築された建物、溢れる人。それら全てがセンサーを妨害する。

 お前達の仲間にはセンサーがいない、あるいはいても非常に能力が低い。違うか?」

「それは・・・」


 少年は返事に困った。ジェイクの指摘通りだったが、認めたくなかったのだ。楓がジェイクに同意する。


「私もここまでの道のりで、一度も魔術を確認できませんでした。ターラムの魔術はせいぜい人寄せ、人除け、興奮度を変化させて購買意欲を上げる程度のありふれた魔術がほとんどですが、それすらもないとは。ターラムに来てこんなことは初めてで――あった」


 楓が叩く壁の位置だけが音が違っていた。楓はそこの壁を慎重に叩き、音が違う領域に沿って短刀を差し込んだ。すると壁の一部が外れて取手のようなものが出現した。その先には鎖がついているから、引くとどこかが開くのだろう。少し低い位置にあるその場所に手を差し込もうとしたが、中々入らない。


「こんな狭いと入るのは子どもの手くらいしか――なんとか入るか・・・く、固い」


 楓が全力で引くがほとんど鎖はびくともしない。だが鎖を引いたことで、地面の一部に浮きかけた部分があった。それを鋭くジェイクは見定めると、楓を制した。


「楓、もういい。わかった」

「え?」


 ジェイクの剣が鋭く閃く。板だと思われたその床には、鉄製の扉があった。相当重い扉はジェイクの腕力ではびくともしない。


「ぐ・・・こんな重い物、どうやって取手で引いて開けていたんだ?」

「私も手伝います」

「これを使おう」


 少年が持ってきた鉄の棒を扉の鎖がついている輪っかに通し、てこの原理で開けていく。彼ら3人でぎりぎり開くほどの重さの扉を開けると、そこからはむわっと湿っぽい空気が立ち上った。それと同時に、ジェイクには嗅ぎなれてきた臭いも鼻についていた。ジェイクの表情が俄かに険しくなる。


「・・・嫌な物があるかもな。楓、覚悟はいいか?」

「愚問ですよ、ジェイク。私の方が修羅場には慣れています」

「それもそうか」

「おい、待てよ。何があるんだ、この先には?」

「知らない方がいいと思うけど」

「馬鹿言え! ここまでやって俺が知りませんでした、ではもうすまないんだよ! それに、俺にも知る権利がある!」


 もっとも言い分に、ジェイクは少々逡巡したあと、頷いた。


「わかった。後悔してもいいのなら連れていく。名前は?」

「ギャスだ」

「ギャス、肝を据えておけよ」

「ガキに言われなくとも」


 ギャスは目の前の二人が自分よりも歳下だと考えたが、そんなことを気にするでもなくジェイクと楓が狭い縦穴をするすると降りていくと、ギャスもそれに続いた。盗賊団の一味だけあり、身のこなしは中々だ。

 穴の中にはかすかに灯りがあり、ヒカリグサをすり潰して壁に塗っているのだろうとわかった。これなら明かりをいちいち灯さなくとも、構造さえ知っていればある程度目が慣れると動けるだろう。

 だが初めての侵入では動くこともままならないので、楓が近くにあった蝋燭に火をつけて、ジェイクとギャスを先導した。穴の中はかなり広い。蝋燭だけでは照らしきれないほどの広さがあるようだ。



続く

次回投稿は、11/11(金)8:00です。

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