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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その180~報復㉚~

「あなたが案内役?」

「ファンデーヌよ。顔は昨日合わせたかしらね」


 ファンデーヌが笑顔で握手を求めたが、レイヤーは応じなかった。ファンデーヌが困り顔で出した手を引っ込める。


「そこまで敵意を抱かなくても。私、何かしたかしら?」

「案内する側とされる側ってだけさ。慣れ合う必要はないだろ?」

「挨拶くらいは必要でしょうに。同じ傭兵同士、どこで会うかわからないわよ?」

「それならその時、親交を深めればいいだけさ」


 頑な態度のレイヤーに、おどけてみせるファンデーヌ。


「堅い子ねぇ。まあいいわ、ダートの元まで案内をしてあげることになっているから。私もあいつを始末するように依頼を受けていますからね」

「手伝ってくれるってこと?」

「状況次第よ。あなたが一人で戦いたければ、譲ってもいいわ。私は別にダートなる人物に恨みがあるわけではないし、誰かが仕留めてくれればそれで依頼は終わり。私が仕留めて特別報酬が出るわけでもないしね。それに――」

「知らない人間と呼吸を合わせるのは難しいからね。互いに好き勝手やった方が、やりやすいんじゃない?」

「――そうね。その通りだわ」


 ファンデーヌが一瞬言葉に詰まったように見えたが、その理由をレイヤーは気にしなかった。今日見るファンデーヌの視線は普通の人間と変わらず、以前見た気がした殺気だった視線は何だったのかと、レイヤーは一瞬だけ考えて頭の端に押し込めた。おそらくこのファンデーヌはあてにならない。それにバンドラスも頼りにしない方がいい。今度も一人で、今まで戦ったことがないほど手練れの魔術士を相手にしなければならない。魔術士を相手にすることを考え、イェーガーでの講義やルナティカの指導をある程度受けてはいるが、どうなるかは常にわかったものではない。

 レイヤーは既にダートとの戦いに向けて、集中を高めていた。その後ろではファンデーヌが穏やかな表情をしながら、舌なめずりしていることにも気づいていなかった。


***


 ジェイクは今回の遠征での出来事を報告書にまとめながら、考え事をしていた。通常ならここで遠征は終わり。ターラムに巣くう悪霊は無事討伐し、あとは帰還するだけだ。ただターラムをオークの大軍が囲むと言う未曽有の事態に直面し、神殿騎士団は難しい対応を求められていた。

 ターラムは自由都市だが、アルネリアが関わっていないわけではない以上、見捨てるという選択肢はありえない。だが、たかだか50名程度の人数で何ができるのかと言われると、せいぜい一点突破が限界だろう。

 周辺の支部には、使い魔を通して既に援軍を求めている。ただ軍隊があるほどの街への到着へは、最短で1日程度。そこから軍へ交渉し、軍をまとめ、最低限の糧食で出動したとして、到着まで5日程度。まだ先は長いと予想された。

 昨晩イェーガーがオークの軍団に仕掛けたが、驚くほど反応がなく、逆に不気味だったそうだ。魔物や亜人には時に王種ロード統率種マスターと呼称される亜種が誕生し、多くは特殊な力を持ちカリスマ性に富む。彼らは徒党を組んで村や旅人を襲うことがあり、長じれば魔王となることもあるが、ここまで大規模な軍団を形成することは歴史上でも珍しい。

 また、いかに知性に優れたロードでも、人間のように戦略、戦術を理解することは非常に珍しい。威力偵察を仕掛けた時にもっとも困るのは、無反応の相手だと戦術書にはある。威圧しても反応を示さないとなると、次の手が打てない。これは兵法の基礎とされるが、野戦で実践するのは非常に難しい。怯える兵士を無反応で統率することに関して書いてある兵法書は、ほとんどない。結論として、オークには魔王相当の非常に強力な指導者がいるということになった。

 そして、物見の報告ではオークの軍団に動きがあるとのことだ。今晩にも動きそうな連中に対しどうするべきかというのは、今ウルティナがターラムとの協議に出ていったところだ。ウルティナの読みでは、自警団とイェーガー、それに剣奴などを合わせて相手のロードめがけて一点突破をするというのが妥当な想定だった。その間ターラムの街は無防備となるが、それが良いことかどうか。市壁が不十分な都市であり防衛線には向かないがら、それしかないだろうというのがウルティナの結論である。

 それでは市民の犠牲は免れないとジェイクも他の騎士たちも考えたが、他の策も思いつかない。そしてこんな時にマルドゥークはどこに行ったのか、姿が宿になかった。後のことはウルティナに任せるとだけ伝えてあるので事態を知らないわけではなさそうだが、ウルティナの困惑顔を見る限り、予定にない行動なのだろう。悪霊がいなくなったはずのこの街に、今現在の危機であるオーク以上の何があるのか。ジェイクは先ほどからそれが気になって仕方がないの。そして奇妙な殺気と気配があるのは、街の外ではなく内なのではないかという気がしてならないのだ。

 我慢ができなくなったジェイクは、がたりと席を立つと剣だけを携え外に出ることにした。



続く

次回投稿は、11/5(土)9:00です。

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