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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その179~報復㉙~

「――確かに。その能力は僕にとって最悪。というか、魔術の攻撃手段を持たない連中だけでなく、多くの魔術士にとっても最悪だろうね」

「その通りだ。持久戦ができるだけの準備がある状況なら問題ないだろうが、ことに人に紛れることができる都市部や、遮蔽物の多い場所ではダートの能力は最高に発揮される。普通魔術士は自然が豊かな場所での戦いが最高の能力を発揮されると考えられているが、ダートは街での戦いを得意としている。儂の言いたいことがわかったか?」

「悔しいけど、わかった」

「残念だが、わかったところで戦い方まで助言することはできん。正面切って戦うのでは、勝つ術が儂にも思い当らん。何か策はあるか?」

「一応、何個かは浮かんだよ。やってみるだけの価値はありそうだ」

「ほぅ」


 バンドラスもダートを仕留める方法は実は何個かあるのだが、それには不意を突くことが前提だ。仲間であるなら不意もつきやすいだろうが、敵だと認識されていればさらに確率は下がる。なのに、レイヤーはダートを倒す方法を複数方法を思いついたという。バンドラスにも興味深かったが、それは後の楽しみとした。


「儂はこっそりと戦いを見守るからな、存分に見せてもらうとしよう」

「今度は邪魔するなよ?」

「もちろんじゃ。ちなみに一つ断っておくと、あの少女は儂の部下の一人よ。儂が頭目とは知らんじゃろうが、この街の少年少女で構成される窃盗団は、全てバンドラス盗賊団の一味。ひどいなどと言うなよ? 浮浪児などは盗みを働かねばその日食べる物にも困ることがあるし、何より戸籍すら持たない貧民がのし上がるには、手元に金があるかどうかが一つの鍵になる。

 儂は殺しの手管は希望した者にしか教えておらんし、原則成人になるまでは殺しは御法度としている。盗みも標的は裕福な者に限り、相手を破滅させるような盗みはするなと教えている。一定額を貯めてかつ足抜けを希望する者は止めておらんし、事実自ら稼いだ資金を元手に自分の店を持った者もいる。

 儂のしていることは間違っておるかね?」

「そんなことはわからないよ。でも・・・」


 生きるためにはどんな汚いこともやっていたのはレイヤーも同じ。そしてレイヤーは殺しすら躊躇わなかった。それもこれも、彼には導いてくれる人間がいなかったからだ。ここの浮浪児たちにとっては、それがバンドラスだということだ。自分にとってのアルフィリースのようなものだと考えれば、確かにバンドラスを責める気にはならない。

 だが。


「常にほかにできることはなかったのかと、可能性を考えている。盗みはきっと安易な方法だ。きっと、もっと良い方法が見つかるはずだ」

「綺麗ごとでは生きていけんがね」

「わかってる。だがそれは、僕やお前が語るべき話ではないだろう。それにしては、僕たちの手は血に汚れ過ぎているんじゃないのか」

「否定はせんよ。だが儂がやらねば、誰もやらなかったのも事実よ」

「・・・」


 それでもバンドラスを生かしておくべきではないと感じるのが本音なのだが、レイヤーにはそれ以上は何も言えなかった。建物の外からは、レイヤーに対する敵意がありありと感じられる。それだけで、浮浪児たちがバンドラスを信頼していることがわかるのだ。レイヤーはなぜか罪悪感にも近い感情を覚え、バンドラスに対して向けていた殺意をしぼませてその場から去ることになった。


「儂の部下が見張っているから、ダートまでの案内はつけてやる。儂は少々やることがあるから、それが済んだら合流しよう。儂が合流するまでは、決して仕掛けてはならんぞ」

「状況によるね。どっちにしても、助けてくれるわけじゃないんだろう?」

「儂はな。だが他にもダートを狙っている者はおるだろう、それらを利用しない手はない。使えるものは全て使うがよい」

「最初からそのつもりだ」


 レイヤーが建物から出ると、比較的年長の少年が顎でレイヤーについてくるように指示をした。そして連れていかれた先には、ファンデーヌが待っていた。レイヤーは彼女の名前は知らなかったが、顔には見覚えがあった。



続く

次回投稿は、11/3(木)9:00です。

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