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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その177~報復㉗~

「間を離しているとはいえ、気付かないものねぇ。やっぱりダートといいアナーセスといい、私たちの仲間としては実力不足かしらね。もっとも、私たちの仲間があまりに化け物揃いってこともあるけど。

 それにしてもずっと尾行されていることにも気づかないのは、能力のせいかしら。相手をおびき寄せたいのはわかるけど」


 エネーマの見立てでは、既に尾行がついて2刻は経過している。仕掛ける機会がなかったわけではないはずだが、何もないのはどういうわけか。エネーマとしてはダートの尾行をしている人物が隙を見せれば、そちらを狩る予定だったわけだが。あんな男でも一応仲間。それに、ゼムスの仲間が死ぬこと自体が問題なのだ。

 辺境で人知れず死ぬならともかく、こんな街中で死なれては風評に関わる。ダートの能力を考えれば自分を餌に相手をつり出すことはわかっていたから、自分もひっそりと手伝ってみようと思ったのだ。火は小さいうちに消すに限る。そのはずだったのに、思ったよりも燃え広がるのが早かったようだ。

 エネーマはさらに背後を取られたことに気付いた。自分の背後から接近できる者など限られている。


「ああ、なるほど。これを待っていたのね」

「何をぶつぶつ言っている?」


 背後から声をかけてきた者に見覚えがあった。


「あら、高名な女勇者様じゃない」

「そちらも有名だぞ、傭兵の中ではな」


 エネーマの後ろに立っていたのはフォスティナ。そしてさらに背後にはターラムの自警団の団長であるリリアムの姿もあった。


「これはこれは。ターラムの自警団長と勇者さまが仲が良いとは、知らなかったわ」

「べつに仲良しというわけではないけど、互いに顔は知っているというくらいかしらね」

「ある筋から連絡があったのよ。勇者様の仲間が街でよからぬことをしていると聞いたもので。まさかとは思いましたが、念のため確認をと思いまして。少しの間で構いませんので、同行願えますか?」


 その言葉でエネーマは察した。自分が追跡していた者がどうしてダートに仕掛けなかったのか。いつの間に連絡を取ったのかは不明だが、自分がさらに尾行されたことに気付いてフォスティナとリリアムを寄越したのだ。周到な相手だ。

 関心と苛立ちをないまぜにした感情で、エネーマは笑顔を作った。リリアムはゼムスの仲間が何をこの街でしてきたか、知っているはずだ。そうでなければ、自警団長自らがいきなり出てくるはずがない。なのにこの冷静さ。噂には聞いていたが、一筋縄ではいかなそうだと考えた。


「私は観光しているだけよ? 自由な時間は邪魔されたくないわね」

「ならば立ち話でも結構です。このターラムの案内がてら、話を聞かせていただきましょう。勇者の仲間ともなれば聞いてみたい話が個人的にも多々ありますし、遠慮は無用ですし。私はこの街の自警団長ですから、街のことは裏事情まで含めて私よりも詳しい案内人はいませんよ?」


 口調こそ丁寧だが、リリアムの言葉には嫌とは言わせない強さがあった。断ってみろ、自分から立場を不利にするようなものだぞ、と。確かに断る理由はない。それに断ったとしても、後をついてくることは明白だ。一人ならまいてしまうこともできるかもしれないが、二人同時となるとさすがに無理だった。


「(ダート、あんたの命運は尽きたかもね。まぁ頑張んなさい。どのみちこの程度の窮地をなんとかできないようじゃあ、いずれゼムス本人に殺されるわ)」


 エネーマは小さくため息をつくと、リリアムとフォスティナの申し出を受け、一見して仲良し三人組のように買い物に興じることにしたのであった。

 そして肝心のダートは、自ら人気のない場所に来た。人通りがないわけではないが、夜の帳が下りかけている。戦うなら今だ。薄暗い小さな裏通りには何を売っているのかわからない露店が一つあり、店主とその前に客。路上に浮浪者が三人、背後に花売りの少女が一人。ダートは足を止めると、背後に振り返って話しかけた。


「いるのは知っています。そろそろ出てきたらどうですか? いつまでも鬼ごっこをするわけにはいかないでしょう?」


 安い挑発だ。自分が追う立場なら、絶対に出ない。だがダートにはなぜか確信があった。この追跡者はただ相手がじれるのを待つだけではない。自らの戦い方に誇りがある相手だと。そうでなければ、勇者の仲間に仕掛けてくることなどないだろう。

 返事はない。だが通りの空気が変わった。ダートの声に一間置き、浮浪者が三方から飛びかかってきた。彼らの手にはそれぞれ短刀。動きからも暗殺者の類であることは明白だったが、彼らの刃はダートに届くことなく、地面から伸びた杭によって串刺しにされていた。

 続けて、露店の方から連射弓が飛んでくる。取手を回すことで弓を連続発射できる非常に珍しい武器だったが、それらも全て地面から伸びる杭が叩き落とす。伸びた杭の間をすり抜けてくる円月輪チャクラムも同様だった。ダートが足を踏み鳴らすと、露店のあった場所に無数の杭が出現して露店ごと暗殺者を串刺しにした。その直後。


「お兄さん、お花はいかが?」


 その背後に、音もなく花売りの少女がいた。不意を突かれたダートだったが、花売りの少女は花束を向けて微笑んでいた。その笑顔が突如出現した炎で見えなくなり、それが差し出された花束から出現した炎だとダート知る間には、花売りの少女は串刺しになって絶命していた。ダートの周りには壁のように地面が盛り上がり、火傷一つなかった。

 ダートは土埃を払いながら、つまらなさそうに言い放つ。



続く

次回投稿は、10/30(日)9:00です。

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