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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その163~漂泊の女勇者⑤~

「それでも遺跡の謎を求めるのかな? 資格がなくとも、どれほどの犠牲を出そうとも?」

「・・・ええ。私は世に言われるほど立派な人物ではありません。私は知りたいのです。これほどまでに鍛えた私の力で、何ができるのか。私の力で何ができて、何が変えられるのか。鍛えた私の力が無意味でないという証拠になる、形あるものが欲しい。そうでなければ、私は――」

「――そうか。ならばなおのこと、私の団長であるアルフィリースとはつながりを持っておくといいだろう。遺跡を求めるのなら、必ず君たちの道は交わる。その時、君のような戦士が近くにいれば、きっと双方の望みが満たせるだろう」

「アルフィリースが遺跡を求めると?」

「違う、遺跡がアルフィリースを求めるのだ。必ずそうなる」

「どうしてそう言い切れるのです?」


 フォスティナの問いにレトーアは微笑んだだけだった。それ以上はフォスティナも聞くことなく、席を離れた。


「また依頼を達成したら、続きを聞かせていただきますか?」

「もちろんだ。その方が互いのためにもなるだろう」

「ひょっとして、私を便利な駒にしたおつもりか?」

「そうではないさ。ただアルフィリースには強力な味方がこれからも必要だ。そして、君にも頼れる仲間が必要だ。いかに強かろうと、単独でできることには限りがある。君もいずれ自分の限界を知ることになるだろう。そうでなければ、今の君のように思い悩んだりはしないだろうからね」


 フォスティナははっとした顔を隠したが、レトーアは涼しい顔をしたままフォスティナを見つめていた。


「このターラムで何があったかは無粋だから聞かないよ。だけど困った時には必ずアルフィリースが頼りになる。私もそうだ。君と関わったからには、味方でいたいと思っている」

「・・・あなたが悪い人に見えてきました」

「私は善でも悪でもないよ」


 レトーアがにこにこと笑ったので、フォスティナは化かされたような気分になってその場を去った。その後で、レトーアはそっと呟いていた。


「君はもう十分遺跡と関わっているよ、フォスティナ。私と出会ったことがその証拠だ。気づいていないだけで、君には資格がある。遺跡が目の前に現れないのは、まだ今がその時ではないからだ。それにしても、私が悪い人に見える、か。それはきっと当たっているだろうが、そもそも人ではないのだけどね」

「それでもあえて言うけど――人が悪いよ、レトーア様」


 席の後ろには、いつの間にかインパルスが座っていた。雷の精霊剣である彼女が単独で行動する時、様々な能力を発揮できることを誰も知らない。主であるエメラルドですらも。たとえば稲妻のように光のごとき速さで動けることも、金属を熱して溶かせることも。聞かれないことにはインパルスは答えないからせいもあるが、その力があまりに大きく、世の中の理に影響しかねないからでもあった。あまりに力を見せつければ、自分自身が争いの火種になることをインパルスは承知している。

 インパルスがここに来たのは予定通りだ。インパルスはターラムに入ってから、エメラルドの眼を盗んでレトーアのために働いていた。その報告をしに、こっそりと宿を出てきたのである。今頃エメラルドは宿で気分よく歌い、仲間の疲れを癒している頃だろう。インパルスもいつまでもエメラルドの歌を聞いていたかったが、今はそういうわけにもいかなかった。まだインパルスには、血なまぐさい事態が待っているという予感があったから。


「さて、報告を聞こうかなインパルス。あの悪霊の館に潜入していたのだろう?」

「あなたの命令通り、少年たちを守るためにね。魔術を強引に破るとばれるから、ジェイクやイルマタルの後について潜入したけど、確かにあそこで起きた戦いは確認したよ。何が起こったかは、把握しているつもりだ。ジェイクたちの知らないことに関してもね」

「では本題だ。アルマスが管理し、悪霊の館に保管していたエクスぺリオン――ヤトリ商会が横流ししていたはずだが、それらは失われたのか?」

「いいや、全部バンドラスとかいう盗人が持ち逃げした。だけどバンドラスの足取りは途中で消えた。魔剣であるボクを撒いて逃げるなんて、人間業とは思えないね」

「バンドラスか・・・だがバンドラスはこの街に愛着を持っているはず。エクスぺリオンなど持ち逃げして、どうするというのか。アルマスと対立しようというわけでもないだろうし、いったい・・・」


 考え込むレトーアを前に、インパルスがさらに情報を伝えた。


「その件だけど、バンドラスはエクスぺリオンを持っていないよ?」

「なに? では誰が持っているのだ?」

「館を出た後、ある人物にあっさりと渡していたね。どうやっているのかわからないけど、バンドラスは一度に大量の物をこっそりと持ち運べるみたいだ。その能力を利用して、その人物はバンドラスに運び屋をさせたのだろう。

 だけど妙だったなぁ。バンドラスがこの街を守るために動いているというなら、あんな相手にエクスぺリオンを渡すはずがないんだけどなぁ」

「だから、誰なのだそれは?」

「それはね――」


 インパルスの挙げた人物に、レトーアが目を丸くした。


「――それは本当か?」

「嘘は言わないよ。ってか、あなたに嘘は言えないし」

「いや、だがそれでは・・・待てよ、それなら確かに全ての辻褄が合うのか。だがしかしそれなら・・・いかんな。どうも嫌な予感がする」

「どんな予感ですか?」

「まだターラムの一連の騒動は終わっていないということだ。もしかすると、あの悪霊などよりよっぽど厄介な事態が起きるかもしれない」

「厄介な事態? それは、何が目的で」


 インパルスの問いかけにレトーアがしばし考え込むと、首を横に振った。



続く

次回投稿は、10/2(日)11:00です。

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