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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その162~漂泊の女勇者④~

 エクスぺリオンの追跡はギルドの依頼でもあったし、ターラムが大きな中継点となっていることは間違いなかったのだが、あと一歩というところで肝心な部分がつかめなかった。ゆえにフォスティナにまで依頼が回ってきた経緯がある。ギルドとしては、最優先で片付けるべき依頼を、フォスティナの同意を得たとはいえ、レトーアは捻じ曲げたことになる。

 加えて、今回の件ではなりゆきで様々な者との戦いが発生したが、元来必要のない戦いだった。女の傭兵としては最強との呼び声も高いフォスティナだが、不要な戦いは可能な限り避ける性格だ。降りかかる火の粉は払うが、ターラムでの一連の戦いはフォスティナの望むところではなく、レトーアはその点も含めて改めて謝罪した。


「不要な戦いに巻き込んですまないと思っている。報告する前に、君の知っている範囲を確認したいのだが、よいだろうか?」

「この世界では戦いは避けられませんから、そう謝らずとも結構です。私も、もう少しうまく立ち回れなかったと後悔しています。

 では本題に入りましょう。まずは、私の知っている範囲から。流通を取り仕切っていたのは間違いなくアルマスです。ですがアルマスはエクスぺリオンで利益を出すつもりはないのか、その流通量を制限し、完全なる監視下においていたようでした。流通の場所として使われていたのは表に出ない娼館、違法賭博場などですが、特に今回悪霊が出現した娼館での取引が中心だったようです。またヤトリ商会からもエクスぺリオンの流通が確認できましたが、彼らの使い方には一貫性がなく、おそらく彼らは流通の一部を何らかの方法で押さえ、横流しのような形で使用していたと考えています。

 ですが今回ヤトリ商会の本部が襲撃され、またヤトリ本人も姿を消したことからヤトリ商会は現在大混乱に陥っています。ヤトリは流通の大半を自分の手腕で動かしていたため、残された幹部でも商会の動かし方はわからないようですね。ヤトリが存命ならああまで混乱はしないでしょうから、彼は何らかの事件に巻き込まれて死んだのではないかと考えています」


 先の不可解な霧と巨獣の一件。そんなこともあるかもしれないと、レトーアは考える。


「ふむ。では一連の騒動は全て終わり、今後はアルマスが節度をもってエクスぺリオンを管理すると言いたいのかい?」

「おそらくは。しかし、アルマスがエクスぺリオンの流通を請け負っているという証拠は何一つありません。常に捌くのは末端の事情を知らされていない商人や売り子のみ。いつでも切って捨てることができる人間だけを使っています。ひょっとすると、アルマスの中でもウィスパーだけが流通経路を知っているのかもしれません」

「推論とはいえ、かなり説得力がある。私もほとんど同じ考えだ。そしてここからが問題だが、そうなるとますます手が出せない。ウィスパー本人を討伐する依頼は、ギルドの裏依頼の中でも最上位のものだ。報酬も莫大だが、今まで誰も成し得たことがないし、とりかかろうと口に出す者もいない。依頼を受ければ即、アルマスの標的となりうるからだ。依頼主はおそらくアルネリアなのだろうが、それもまた明らかにはされていない。アルネリアとて、表だってアルマスと衝突はしたくないだろうからね。

 そして肝心なことはもう一つある。君に代わってエクスぺリオンを追わせた者たちだが、全員始末されたよ。しかもご丁寧に、八つ裂きにされていた。君が追わなくてよかったかもしれない」

「それは――アルマスのやり口ではないですね」


 フォスティナの意見にレトーアも同意した。


「そう、アルマスなら人知れず始末する。死体を発見されるようなことはしないし、ウィスパーの殺し方は極めて鮮やかで残忍だ。こんな自己顕示を含めたやり方はしないだろう。だから、これはウィスパーも知らないことなのだろうことが想像できる。

 ならば、やったのは誰なのか。エクスぺリオンの一件はまだ終わっていないのかもしれない。私たちの知らない誰かが、この一件には絡んでいるのではないだろうか。それが私の今の疑問だ」

「――それでも、追う必要があるかもしれません。闘技場の一件といい、最初からおかしな流れだった。そもそも、アルマスがあのような形で魔王を街中に出現させるわけがない。ターラムでの動きは、誰か個人の――そう、強い恩讐のようなものを感じます」

「そうだね。それも、並々ならぬ強い恨みだ。自分も含めてどうなっても構わない――そんなことを考えている相手なのかもしれない。気を付けてくれ、フォスティナ。こういう相手に関わると、どんな結果になろうとも手酷い傷を負うことになる。引き際を見誤らないように」

「――努力しましょう」


 珍しく切れ味の悪い返事を残したフォスティナが席を立とうとしたので、レトーアが引き止めた。既に何かあったことを察したが、振り返ったフォスティナの強い拒絶の色を帯びた瞳の前に、さしものレトーアも問いただすことができなかった。


「待ちたまえ――君への報酬の件だが」

「不要です、まだ本当の意味での役には立っていない。そんな状態で報酬を受け取るわけにはいかないでしょう」

「ならば前払いとして君に教えておこう。本当の『遺跡』は人を選ぶ。どれほど優れた人物だろうと、遺跡に選ばれなければその存在にすら触れることは叶わない。逆に言えば、選ばれさえすれば、どれほどの愚者だろうと遺跡の恩恵を受けることがある。遺跡には意志がある。その意志の基準は遺跡によって様々だ。ゆえに、そのどれもが人間のためになるとは限らない」

「これほど追い求めても遺跡に関われない私には、触れる資格がないと?」

「あるいは、関わる資格がある遺跡に出会っていないだけかもしれない。だが、遺跡を求め歩くことは危険だ。目覚める必要のない遺跡を不用意に起こせば、それだけで大きな犠牲を伴うことがあるだろう」

「目覚める必要のない遺跡? 大きな犠牲とは、何の事を指すのです? あなたはいったい、何をどこまで知っているのです?」

「遺跡に関しては、この大陸の誰よりも詳しいかもしれないな。だからこそわかる。不要な遺跡を起してしまえば、大陸で行われてきた全ての争いが無意味と感じるほどの犠牲を支払う羽目になるだろう。そんな結末は見たくないだろう?」


 脅しともとれるレトーアの説明に、フォスティナは一瞬言葉に詰まった。それでも目には光が宿ったままなのを見て、レトーアはその意味を察していた。



続く

次回投稿は、9/30(金)11:00です。

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