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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その156~報復⑨~

「賭博の類ならいいわねぇ。しばらくそういった遊びもしていないし、たまにはお遊びもいいかもね」

「私も十分に楽しみましたから、あちらの類の話でなくともよいですね。たまには普通に遊ぶのもよいでしょうが」

「それが女人禁制なんだと。ってことは、そうだろう?」


 その言葉に、首を突っ込みかけたエネーマがため息をついた。


「あんた、本当にそればっかりねぇ・・・盛りのついた獣人でも、もうちょっとマシよ?」

「少々胃もたれしそうな話ではありますが、どの辺が面白そうなのです?」

「裏の遊技場だが、制限なしでなんでもやってよいんだと。値は張るが、金さえあれば相手は何人でも。気に入らなけりゃ帰ってもらって結構だと。声をかけてきた女の顔を見るに、期待はできそうだった」

「ふぅん。まぁ楽しみにかけてのアナーセスの勘は疑いませんがねぇ。ちょっと破格の好条件過ぎて眉唾物ですねぇ」

「だが、行くだけ行ってもいいんじゃないか? どうせ今日はもうやることもないだろう」

「それはまぁ」


 ダートは少々悩んだが、酒を飲む気分でもない。どうせ明日か明後日にはこの街を離れるのだし、しばらくは帰ってくることもないだろう。そう考えると、遊べるだけ遊んでおくのは悪い気もしなかった。


「じゃあ、行くだけ行ってみますか。面白くなかったら帰りますからね?」

「ああ、それでいいぞ。じゃあこれから行くか」

「ちょっと、私はどうするのよぉ?」

「お留守番ですよ。何せ、女人禁制ですから」

「ふーんだ」


 エネーマがいー、と口を横に広げて精一杯の悪態をつくと、苦笑するようにしてダートとアナーセスが夜のターラムに繰り出した。既に戒厳令を解かれたこの街は、オークの群れに囲まれていることを知りながらも、昨晩の騒乱を忘れるかのように盛り上がっている。この街の住人たちの度胸というか、快楽への執着というか。ダートとアナーセスですら呆れるのを通り越して、感心していた。


「この賑わい、この町人の楽しみへのこだわりは素直に尊敬しますね。世界一、しぶとい町人なのではないかと思いますよ」

「俺もそう思う。この街にはなくなってほしくないな。この街を潰そうとしている奴がいれば、俺が排除してやる」

「お、今勇者一行らしいことを言いましたね?」

「心からの言葉だぞ?」

「そうですね。その言葉の裏にある理由は聞きませんが」


 ダートとアナーセスはなんだかんだ言いながらも、気が合うのかもしれない。二人は連れ立ってしばらく歩いていたが、徐々に人気のない場所に来た。アナーセスが渡された地図のようなものを見ながら歩いている。


「まだですか?」

「いや、この辺だな。その路地を奥だ」

「こんな場所に? まあターラムの裏遊技場なんてそんなものかもしれませんが」

「――ちょっといいかな?」


 ダートとアナーセスを背後から呼び止めたのは、ローブにすっぽりと身を包んだ少年だった。背格好と声色でかろうじて少年とわかるが、背後から呼び止められるまで、彼らは少年の存在に気付かなかった。いや、気付いてはいたが犬畜生程度の気配しか感じていなかった。それだけでもこの少年が普通でないことはわかる。二人の警戒心が一気に上がったが、少年は落ち着いた声で二人に問いかけていた。


「聞きたいことがあるんだけど、最近女の人を抱いたかい? それも無理矢理」

「・・・少年、そんなことを大人に向かって聞くものじゃありませんよ。興味があるのはわかりますがね、その年じゃさすがに早い――」

「はぐらかさないで答えてよ。それで僕の対応も決まるから」


 少年の声には凄みがあった。ダートもそれは感じ取ったが、相手が本気であればあるほど、からかいたくもなるというものだ。ダートはあえておどけた調子で語った。


「そうですねぇ。ここはターラムだし、私は無理矢理というものが大好きでして。ちょうどそんな娼館に行ったかもしれませんねぇ。知っていますか、童貞坊や。ここには金さえ積めば、命のやり取りも行える場所があるのです」

「そんなことは聞いてないよ。霧が出た夜に、二人がかりで無理矢理女性を襲って壊して遊んだかって聞いているんだよ。釘を打ったり、皮を剥いだりしてさ」


 少年の言葉に、ダートとアナーセスが顔を見合わせた。そして不敵にも、ニタリと笑ったのだ。


「なるほど、これは面白い出し物ですねアナーセス。これはこれでよいでしょう」

「グハハ、俺の聞いていたのとは違うがな! この小僧、やっていいか!?」

「いいんじゃないですか? でもその前にちょっとだけ。ええ、そうですね少年。私たちがやりましたが、それが何か? 誰にも見られていないはずですが、どうして気付いたのです?」

「匂いさ。あんたたちが襲った女性は人間じゃない。その体臭は特徴的でね。まして襲ったのなら、その匂いは何度か湯浴みした程度じゃ落ちないんだよ、気付いてた?」

「これはこれは・・・とんだ鼻の利く人間がいたものだ。で、少年はどうしたいのですか?」

「決まってる」


 少年――レイヤーはずらりとシェンペェスを抜いた。もはや殺気を隠そうともしない。いや、隠すができなかった。レイヤーですら冷静さを欠くほど、彼は怒っていた。


「あんたたちのせいで悲しんだ仲間がいる。首をとって、せめてもの手向けにするよ」

「ふっ、ふふ・・・ふはははは」

「グハハハハ!」


 レイヤーの口上を聞いて、二人は一斉に笑い始めた。同時に、ダートが人除けの結界を張る。


「いや、これはかわいらしい刺客さんだ。私たちもこのようなことは初めてです」

「そうだなぁ、堂々とこうやって正面切って俺たちに剣を抜いた奴も久しぶりだ。俺たちが誰か知っているのか?」

「さあ? これから殺す奴に興味ないね」

「はっ、よく考えろ? 俺たちはなぁ、あの――」


 アナーセスの言葉の最中、レイヤーが踏み込んで顔面に回り蹴りを見舞った。完全に無防備で受けたアナーセスは、その巨体が壁まで吹っ飛んだ。見た目に反した膂力に一瞬驚いたダートだが、レイヤーと目が合うとくすりと笑った。



続く

次回投稿は、9/18(日)12:00です。

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