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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その153~報復⑥~

 コルセンスの館は、既にラインとターラム自警団の面々で包囲してある。何かあっても逃げ出すことはできないはずだ。コルセンスを締め上げれば、さらに細かい陰謀がわかる可能性もある。例えば黒の魔術士、アルマスとの関連、さらには他の都市や場所にも協力者がいるのかどうか。とても重要な一件だったが、アルフィリースはラーナのことが理解できるのは自分しかないと判断してここに留まった。

 ラインから事情は聴いたが、ラーナの母はこの世のものとも思えないほど残酷な方法で殺されたのだと言う。その死にざまを見たラーナが復讐に走ってもおかしくないことを、ルヴェールから忠告された。事実、ルヴェールが当身をしなければ魔力を暴走させていただろうとも。

 そして犯人の目星についてもアルフィリースとラインは聞かされていた。勇者の一行、ダートとアナーセス。ラインの話では、かつて犯罪者としてギルドに指名手配される人間だったが、勇者ゼムスの仲間として多大な貢献を社会にしたということで恩赦が出された傭兵だそうだ。元の階級はAの上位。討伐での功績だけなら、S級だろうとも。勇者の仲間となってからは心を入れ替え世の中のために戦っているそうだが、ラインはそんなことは絶対にありえないと言っていた。


「幼児殺しと婦人殺しをする連中が心を入れ替える? ありえないね。殺した人数は数人と言われているが、それはわかっちまった数の話だ。噂じゃ、百は下らん数を殺しているらしいぜ。それは大袈裟にしても、黒い噂があるのは確かだ。もっとも、あくまで噂に過ぎんが、火のないところに煙は立たねぇ。黄金の純潔館の連中は何か掴んでるんだろうが、相手が相手だ、うかつに手が出せん」


 ラインは汚物の話をするように吐き捨てたが、そこまでラインが嫌悪感を露わにするなら、確かに信憑に足る噂かもしれないと考えた。アルフィリースはゼムスの顔を思い浮かべる。あの格好良くて、どうみても好青年だと思える澄んだ目をしたゼムスの仲間がそんなことをするとは考え難かったが、何か事情があるのかもしれないと考えた。個人的な印象が目を曇らせるのはわかっていたが、それでもアルフィリースは判断に悩んだ。

 だがどのみち、おいそれと手を出せる相手ではない。今はラーナのことを考えながら、情報を集めるつもりだった。ラーナは窓の外を見ながら、ぽそりとつぶやいた。


「・・・母が娼婦をしていたのは、寝たきりとなった父のためだったそうです。ですがその父も死んで、どこかに旅に出るつもりだったと。ですがその目前に、あんなことに。最後は仲間を守って死んだようです。そして私のことも気遣ってくれていました。形見にピアスをと」

「そうなの」

「生き方だけ聞いていると、なんて運のない人なんだろうと。少しずつ全てがずれていれば、あんな死に方をしなくて済んだはずです。この街であんな出会い方をしていなければ、私だってもっと普通に話せたのに」

「そうかもしれないわね」

「私も魔女として修業を受けて、大抵のことは受け入れられますよ? でも記憶の中に微かにある母が、いきなり娼婦として目の前に登場したのでは、平静ではいられませんでした。それでも何か事情があるのだろう、話してみようと・・・今日にでも黄金の純潔館に行こうと考えていたのに。あんな、あんな顔で死んだなんて――どれほどの苦痛を受けて殺され――私何も話してない――」

「・・・」

「もっと色々話したかった。魔女の修業は厳しかったよとか・・・お師匠は優しかったよとか、旅の仲間は素敵だよとか・・・お母さんはやっぱり綺麗だねとか・・・もっと普通に話して甘えて・・・何も、何一つ・・・ううっ、うあああああ」


 ラーナが毛布の中で泣いじゃくるのをただアルフィリースは聞いていた。その頭の中ではポルスカヤがつぶやいている。


「(どうするんだ? このままじゃあこの子は永久に復讐に囚われるぞ?)」

「(随分と人間の心理に配慮するのね)」

「(馬鹿言え、この子がいないとお前の呪印は調節ができないだろう? お前のこれからにも大きく関わる話だ)」

「(そうね・・・どうするか考えるわ。でも、ラーナ本人には復讐はしてほしくない。多分、自分の手で復讐をすることは、よりこの子の人生に影を落とす。この子には、もっと大きなものを見据えてほしい)」

「(優しいのか、残酷なのかわからんな)」

「(利己的なだけかもしれないわ)」


 アルフィリースの言葉に、それ以上影も何も言わなかった。ただ部屋の扉がうっすらと開いていて、アルフィリースはそちらにちらりと目をやった。すると扉は静かに閉まり、部屋から遠ざかる人物が一人いたのである。


***


「捕まえたか?」

「ええ、苦労も何もなかったわ。護衛もさっぱり手ごたえがないし、これだけ包囲する必要もなかったわね」

「楽にいくなら何よりだ。何かあってから慌てるようじゃまずいからな」

「それはそうね」


 ラインとリリアムは捕えたコルセンスを馬車に押し込めるところだった。コルセンスの家族、部下共に全て捕縛した。元々神経質そうなコルセンスだったが、ろくろく寝ていないのか、その表情は青ざめ、病的なまでに神経質な表情となっていた。

 コルセンスは馬車の乗るのに抵抗しながら、リリアムに悪態をついた。


「このぽっと出のアバズレが! 私を捕縛するだと? 私がどれだけこのターラムに貢献したと思っている!」

「貢献は知っています、だから少々の賄賂には常に目を瞑ってきたわ。だが今回ばかりは見逃せない。このターラムは滅びかけたのよ? そんな存在を招き入れた張本人を見逃すわけにはいきません。そして今も、万を超えるオークに包囲されているわ。自分に責任がないとは言わせないわ」

「もういいぜリリアム、こんな馬鹿野郎ここでぶっ殺しちまおう。捕り物の際に抵抗したことにすりゃいい」

「馬鹿か、この薄汚い半巨人の猿女が!」


 コルセンスがぺっと唾をカサンドラの顔に吐いたので、カサンドラは目に見えて血管をぴくつかせながらコルセンスに殴りかかろうとした。リリアムとラインが止めていなければ、顔面への拳でコルセンスは絶命していただろう。

 だがコルセンスは全く悪びれず続けた。


「私は誰よりもこのターラムのことを考えている。私はこの街の出身だが、学問はメイヤーで修めたのだ。他の都市群や他国でもっと良い条件の士官もあった。それがわざわざこの街に戻ってきたのは、この街に愛着があるからだ。私はこの街をもっと良くしたかった」

「それがどうして、エクスぺリオンや黒の魔術士に結びつくのか不思議だわ」

「これだから剣しか能のない女は――いいか、この大陸の支配者はアルマスであり黒の魔術士だ。今の諸国が建国するに至った理由はアルネリアだが、この戦いにはアルネリアは勝てない。アルネリアが勝つならそれでもよかったろうが、最高教主は必ず失脚する。これは決定事項だ」

「おい、どういうことだ?」


 ラインがコルセンスに詰め寄ったが、コルセンスはひるみもせずに反論した。



続く

次回投稿は、9/12(月)12:00です。

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