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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その152~報復⑤~

「大丈夫ですか、少年」

「・・・何が?」

「怒りが隠せていません。どうか早まったことはされぬように」

「荷物持ちの僕じゃあ何もできないよ。それより用も済んだし、友達二人を送っていくよ。こんなところまでお邪魔しました」


 それが表面上の言葉であることをルヴェールは理解していたが、少年たちはこの場にはいるべきではないと思ったので、その言葉の通りにした。そして全員が一度出ていったあと、フォルミネーが入ってくる。


「ルヴェール。何がありましたか?」

「ラーナ殿がラニリ嬢の死に顔を見てしまいました。彼女はこれから一生怒りに囚われてしまうかもしれません」

「それは――彼女は今?」

「当身で眠らせました。半日は目が覚めないでしょう」

「ならば今のうちに事を進めてしまった方がよさそうね。相手の目星はついているの?」

「はい、間違いなく犯人はダートとアナーセスの二人。ついに彼らの毒牙が我々の仲間にまで及んでしまいました」

「――どうしたものかしらね」


 フォルミネーは悩んでいた。報復は間違いなくしなければならない。ラニリへの弔い合戦もそうだが、報復しなければこの黄金の純潔館が侮られる。以降、同じような目に仲間が遭い続ける可能性が高い。事実、彼らに限らず娼婦を守れない娼館はその後廃れてなくなっている。ターラムの人の口に戸は立てられず、ここは弱者に厳しい街なのだ。

 問題は方法である。確実に、できる限りひっそりと彼らを仕留めなくてはならない。特にゼムス、エネーマに我々がやったと気付かれない方法で。リリアムはだめだ。彼女を介入させてはターラムそのものが標的とされる可能性がある。フォスティナも駄目だ。彼女は元々人殺しの依頼は受けない。そうなると彼らを討ち取れるだけの実力があって、かつ人殺しの依頼を受けそうな人物となると――


「仕方ないわ、この際倫理観にはこだわっていられない。お金に糸目もつけている時ではないわね」

「依頼を受けてそうな人物に心当たりが?」

「今この街にいる人物では、二人ほどいるわ。あとは説得と条件次第でしょうね」

「――まだこの街にはどう動くかわからない勢力があります。街の外にも脅威はいることをお忘れなきよう」

「もちろんよ。ただ娼館ギルド長としての責任は果たします。もうこれ以上我慢すべきではないし、できません。最悪私が出向いてでもなんとかします」

「ダートは魔術士。下手な仕掛けは逆効果になるかもしれません」

「・・・いつも冷静過ぎるくらい冷静ね、あなたは。もうちょっと自分の感情を出してもよいのではなくて?」

「私はいつも、いつの時も案内役ですから」


 ルヴェールは苦い顔をしたフォルミネーに一礼してその場を後にした。後に館に訪れたラインにもルヴェールが応対したが、ラインは気絶したままのラーナを引き取ると厚く礼を述べて帰っていった。そして何かあれば力になると告げ、まだ都市全体の危機は去っていないので、引き続き警戒するように伝えた。

 その後、黄金の純潔館は普段通りの営業を行った。今回の事件は娼婦たちにはそれぞれ影を落としたが、彼女たちはそれを全く表情に出しもせず仕事に没頭してみせた。ただ一人、プリムゼには休みが与えられ、娼婦たちの何人かがその日は館の中に見られなかった。


***


「う・・・あ?」

「起きたの?」


 ラーナが目を覚ますと、そこは宿の自分の部屋だった。目の前にはアルフィリースと、アルネリアから借り受けたシスター、それにエクラ。アルフィリースはエクラに目で合図をすると、エクラはシスターを伴って出ていった。

 ラーナが窓から外を見ると、既に太陽が沈むところだった。ラーナははっと身を起こそうとしたが、アルフィリースに遮られた。


「まだ寝ていなさい。強めに当身を受けているはずよ。回復魔術を使うほどではなかったけど、念のためシスターには見てもらったけど異常はないって」

「・・・半日も寝ていたのですか?」

「そういうことね」

「確か夕方は捕り物があったのでは」

「ええ、そちらはラインに任せたわ、今頃リリアムと共同で行っているはずよ。どのみちコルセンスに逃げ場はないでしょう。どんな逃げ道や隠し道があろうとも、オークの包囲網からは出られないでしょう。オークに細かい取引を理解する頭脳はないでしょうし、彼の金融の知識は役に立たないわね。捕縛は時間の問題よ」


 リリアムと共同の捕り物。実はアルフィリースはエクスぺリオンの流行がターラムであったと聞いた時、最初からターラムギルド長の誰かが怪しいと睨んでいた。エクスぺリオンは黒の魔術士が造った薬であることはわかっている。だが、それらが流通するのは何らかの人的手段が必要だ。黒の魔術士にとってはその方法がないことが弱みとなるが、多くの場合それらはアルマスによって流通していると思っていた。

 だがこの街では利害関係が複雑すぎて、アルマスでもおいそれと流通を牛耳ることはできないのだという。ターラムは快楽の街であるがゆえ、表向き武器商人であるアルマスはそれほど活躍の場がない。どちらかというと特産品や珍品を扱うフェニクス商会やヤトリ商会の方が、余程幅を利かせているそうだ。

 ならばターラムの有力者の一人が一枚噛んでいるとみなすのが妥当だった。またアルネリアが悪霊討伐に出向いたと聞き、むしろそこまで一度も悪霊討伐の依頼が出ていないことをアルフィリースは不審に思った。そしてアルネリアに調査と並行し、リビードゥの本拠地がある一帯の土地の所有者を調べた。すると、その土地は十年以上も前からコルセンスが所有しており、また住人の死亡報告書が上がっていることもありながら調査は打ち切り、あるいは理由をつけてターラムからの追放、時には多すぎるくらいの弔慰金が払われていた。住人たちは意図的に口止めをされていたのだ。

 アルフィリースは霧が出た時、コルセンス、あるいは他に協力者がいればこの事態を予見していたかもしれないと考えた。そこで傭兵団の人手を割いて、リリアムに聞いたそれぞれのギルド長の住居の周辺を見張らせた。するとコルセンスだけが、霧が出た場所とまるで反対側の街の別邸に移っていた。しかもその館は、ほんの数か月前に購入したばかりで、ほとんど滅多に使用していないのに、今回に限って使っていた。アルフィリースはルナティカに命じてコルセンスの館に忍び込ませ、証拠となる品をいくつも掴ませることに成功した。

 そして明け方になり街が無事なことがわかると、コルセンスの別邸は俄かに忙しくなった。すぐにでも自らの館に戻ろうとしたのだが、戒厳令のせいで思うように出歩けない。これもアルフィリースの目論見の一つだったが、昼頃戒厳令は解かれ、コルセンスは今頃必死に証拠品を処分しているかもしれない。最も証拠と思しき物は既に抑えてあるので、コルセンスが慌ててさらなるぼろを出してくれるのではないかと期待している。



続く

次回投稿は、9/10(土)13:00です。

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