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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その149~報復②~

***


「ただいま」

「ああ、遅かったのですね」

「おふぁえり」

「口の中の物を食べてから喋りなさい、アナーセス」


 エネーマが自分の宿に戻ると、そこでは優雅にお茶をすするダートと、朝から肉を腹いっぱいほおばるアナーセスがいた。いつもの光景ではあるが、自分も含めて心なしか全員がすっきりとした顔をしている。


「昨夜はお楽しみだったの?」

「ええ、それはもう。近年では極上の獲物にお相手願いましたから」

「確かにな! あれは良い獲物だった。中々壊れないところが最高だったな! 俺たちを同時に相手にして2刻ほど持ちこたえたか?」


 口から食べかすを飛び散らせながらアナーセスがまくしたてる。普段から下品な男なのは知っているが、ここまで興奮することは珍しかった。


「そうですね・・・半刻持ちこたえたところで長くもたせる方針にしましたから。最後まで彼女は美しかった。命乞いの瞬間までも最高でしたね。あの思い出だけで一年以上楽しめるでしょう」

「そうか? 俺はやはり数も大切だと思うがな! それに、あれが男ならなお良かった!」

「はっ、これだから男色野郎ファゴットは。年上の女性こそ神秘ですよ」

「貴様のは年上ではなくて、腐りかけだろうが」

「果実も腐りかけがおいしいでしょう?」

「本当に腐っているのにも手を出すだろうが?」

「時々ね。腹を下したい気分、わかります?」

「知るか」


 いつもならここで喧嘩腰になるのだが、今日はどちらも笑顔でやり過ごしていた。それだけ彼らが満足したということでもある。相手はどれほどひどいことをされたのだろうとエネーマは同情したが、数秒後にはそんなことも忘れてゼムスの元に向かっていた。

 エネーマがゼムスの部屋をノックすると、ゼムスはくつろいだ様子で部屋の外を眺めていた。


「もう起きていらっしゃたの?」

「ああ、夜からずっとな。寝てはいないが、清々しい朝だ」

「昨晩は――」

「報告はいらない、全てわかっている。昨日街で起きたことは、ほとんど全て把握しているつもりだ」


 どうやって、とは問いかけなかった。エネーマでもゼムスの能力の全ては知らない。特性持ち――勇者にまつわる能力というのは、謎に満ちているのだ。一般には万能になんでもできて、何一つ特化しないというのが定説らしいが、特性持ちに最も詳しいバンドラスでさえ、その全貌がまだわからないと言っていた。

 おそらくはセンサーのようなものか、使い魔をとばしたのだと思われるが、どうせ聞いても答えてはくれまい。エネーマも無駄なことはしたくないので、あえて聞きはしなかった。


「そうですか。ではこちらに座ったまま、楽しんだのかしら?」

「ああ、人気の観劇を見に行くよりもよほど面白かった。さすがに動きながら把握するのは難しかったから介入はしなかったが、やはり人間の人生以上に面白いものはそうそうないな。特にリディルがあれほど私に復讐するのを目指しながら、まったく見当違いの方向に流されていくのは笑いすら誘ったよ。挙句の果てに、人間であったころに残された最後の仲間ともいえるフォスティナまで傷つけた。これが喜劇でなくてなんだろうな? 奴が生きていたと知った時、奴の故郷でも火の海にしようかと思ったが、その必要もなさそうだ。放っておいても、勝手に故郷に行って自ら手を下しそうじゃないか、なあ?」

「・・・そうねぇ」


 エネーマはなんとも言わなかったが、ゼムスはいつになく饒舌だった。やはりゼムスも昨晩の出来事を楽しんだには間違いないのだ。こういう残酷なところだけは共通しているとほとほと呆れる。だからこそ、この面子でしばらくつるんでいるのだが。他の仲間がいたらどうなるか。おそらくこれほどは楽しめないだろうことは容易に想像できる。

 ゼムスはさらに続けた。


「ターラムの悪霊は完全には滅びていないだろうが、すくなくともターラムは去っただろうな。もっともあの魔獣が悪霊のことを気に入っているようだったから、霧の向こうに消えて一生出てこないかもしれない。あれほどのサイズの魔物となると、討伐も一苦労になるだろうから、事実上の消滅かもしれないな」

「いわゆる『ロード』ね?」

「ああ、魔獣に中に突然変異で現れる種だ。必ずしもサイズが大きくなるとは限らず、色が変わったり、能力だけが変わる場合があるが、あれは相当強力な種類だな。

 他にも色々とあったが、まだ出し物は続きそうだ。だが同時に『観戦料』も発生しそうだな。お前はどうするべきと考える?」

「『観戦料』ねぇ・・・まぁ私とあなたがやられることなんか考えられないし? 下の二人は知りませんけどね」

「そうかな? 私とお前でも、後ろから見えない敵に刺されればどうなるかはわからない。たまたま私を刺した虫が致死的な猛毒を持っているかもしれない」

「そんな馬鹿な」

「アルマスの三番や、ブラックホークの6番隊隊長はそういう能力の持ち主ではないか? もっとも、私も自分を脅かすほどの敵がいるのなら、出会ってみたいものだが」


 ゼムスの言葉は、自信に満ちているからこそ発せられるものなのだ。おそらく、本当の意味で彼は危険を感じたことがないのだろう。剣、魔術ともに全てが揃ったこの男がどうなれば危機に陥るのか、確かにエネーマも知りたい。だって、自分はずっとこの男の傍にいて、そんな場面を一度も見たことがないのだから。



続く

次回投稿は9/4(日)13:00です。

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