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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
1313/2685

快楽の街、その148~報復①~

***


 長い夜が明けた。


 ターラムには屍が積み重なり、自警団を中心としてそれらの処分に当たることとなった。ターラムとしては異例の外出禁止令が敷かれたが、ターラムの住人は本当の危険と楽しめる危険の判別がついている。今回の外出禁止令はよくないものだと町人たちは直感した、彼らはおとなしく従っていた。元々朝は静かなターラムだ。それほどの騒ぎは起きなかったが、四番街の人間に頼んで一斉に荼毘に付した煙がそこかしこで上がっていたのは、ターラムの住人でさえ静かに祈るような気持ちで見守らざるをえなかった。

 リリアムとカサンドラが街の被害状況について調査をしたが、霧の発生した街区では数千人規模の被害が出たものの、多くは住人としての戸籍登録すらされていない浮浪者たちで、『町人』への被害はほとんどなかったと言ってもよかった。

 また霧は猛烈な勢いで発生したように見えたが、その範囲はそれほど拡大されておらず、暗躍したヴォルギウスとその一党の働きについてはほとんど誰も知るところがなかった。建物に関する被害もある程度は認めたが、旧街区の建造物に関しては取り壊しの計画が進められており、むしろ費用が浮いたと後に言われる始末だった。

 アルネリアの騎士たちは昨日の行動について戦果を確認した。結局のところレイヤーとイルマタルの助力は伏せられ、ジェイクが単独で討伐を達成したと報告された。ジェイク当人は功を否定したが、マルドゥークは霧の外で任務に当たっていたと明言したし、ウルティナは戦闘の最中に気絶し、突入したマルドゥークに助けられたということになった。

 ウルティナにもリビードゥに操られた記憶は残っていたし、ジェイクは彼ら巡礼二人の勧めもあって、リビードゥ討伐の功を受けることになる。騎士たちは素直にジェイクを祝福したが、ジェイク当人はリビードゥを全て仕留めた感覚がないため素直に喜べないものの、危機が去ったことだけは感覚としてわかっていた。ただ、自分の能力に関する疑問だけがまたしても残った形となった。

 リビードゥと戦った時に湧いてきた力は、今はない。今回の遠征に参加している騎士の中でも最下位程度の力しかもたないことはわかっているのに、どうして今回のような時に自然と体が動くのか、ジェイクですら測りかねていた。

 またターラム内に侵入したオークたちはカサンドラを始めとした自警団の働きと、金と食事につられた浮浪者の働きによって壊滅していた。最初は統率の取れた動きをしていたオークたちだが、途中からまるで指揮官がいなくなったように烏合の衆となったと、カサンドラは報告した。自警団はほとんど被害すらないまま、オークを壊滅することに成功していた。

 一方で外に出てオークを牽制したアルフィリースたちは、計千体ほどのオークを討ち取っていた。オークに休息を与えず、またターラムに侵入したオークの掃討を集中して行うための遊撃だったが、結果としてターラムに侵入した一団と関連があったとは思えないというのがアルフィリースの結論であった。夜が明けてもオークはその場にとどまり、ただ静かにターラムを見つめているだけだった。逆にそれがアルフィリースにとっては不気味で、それ以上の行動を控えさせる結果となった。

 そして朝となり被害状況や戦果をリリアムやカサンドラと確認し合う中、一つの報告が届けられた。傭兵の一人が部屋にノックをして入り、エクラに耳打ちしながら封書を渡した。エクラが中身を確認すると、怪訝そうな顔で懐にしまう。


「アルフィ、伝言が届いています」

「? 誰から?」

「フォルミネー殿からです」

「フォルミネーから? 内容は?」

「ここで告げてもよいのですか」


 エクラがちらりとリリアムとカサンドラの方を見た。ああ、とリリアムとカサンドラは頷いて、エクラを促した。


「ああ、気にしないでちょうだい。こんな街だもの、口は堅いわ。別にどんな趣味をもっていても驚かないから」

「そうだな、強者は色を好むしな。ロゼッタを従えているくらいだ。どうせソッチもお盛んなんだろ? ひょっとすると愛妾の何人か、ここにいるんじゃないのか?」

「なっ・・・不潔です!」

「愛妾というほどのものでは・・・」


 顔を赤くして起こるエクラと、別の意味で顔を赤くするラーナと。仮眠をとった程度で夜通し働いたアルフィリースは何かを反論する気にもならず、くまができかけて半分閉じかけた目をこすりながら封を開けた。だがその内容をみると、みるみるうちに目が覚めた。


「・・・ラーナ、これはあなた宛よ」

「は? 私ですか?」

「ええ、見なさい」


 アルフィリースが封書を渡すと、読んでいたラーナの顔がまもなく青ざめた。そして封書を握りしめると、改まった態度でアルフィリースに向き直った。


「団長、少し席を外させていただいてもよろしいでしょうか?」

「許可します。エアリーに乗せていってもらいなさい。シルフィードなら、ターラムの町中でも事故を起こさず駆けることができるでしょう」

「感謝します」


 ラーナは慌てて一礼すると、走ってその場を後にした。いつも落ち着いた行動をとるラーナが慌てる様を見て、ラインがアルフィリースにそっと問いかける。


「何があった?」

「・・・お母さんが亡くなったそうよ。しかも穏やかではない方法で」

「昨日の霧のせいか?」

「さて、どうかしら。だけど、ただの事故や既に済んだ事件なら、封書を二通寄越しはしないでしょう」

「もう一通?」


 アルフィリースはラーナに渡さなかった方の封書をラインに見せた。ラインがそれに目を通す。そこにはラーナの母であるラニリが無残な方法――という言葉では片付けられないほど残酷な仕打ちを受けて殺されていたことが書かれていた。しかも、やった者にはおそらく心当たりがあると。対処については一度話し合っておくべきだと思うので、どうか早まらないようにと釘がさしてあった。


「・・・なるほど、どうやらただの残虐な殺しじゃないとフォルミネーは見込んだのか」

「生存者がいるのよ。ラーナには伝えてないけど」

「後で俺が行こう、事態が事態だけにな。できれば少人数で処理した方がいい。ラーナのためにもな」

「お願いするわ」


 アルフィリースとラインの静かな打ち合わせにリリアムは気付かないふりをして、話を続けた。


「ところで、例の件だけど」

「ああ、そうね。動きはあったかしら?」

「ええ、貴女の睨んだ通り。組織の長の中に一人怪しい動きをした者がいたわ。今証拠を集めているところだけど、限りなく黒でしょうね」

「いつ頃証拠が揃うかしら?」

「夕方には確実に」

「なら暗くなる前に踏み込む準備をしましょう。オークの包囲があるのは幸いだけど、どんな抜け道があるかわからないわ。逃がすわけにはいかないもの」

「ええ、きっちり落とし前はつけさせるわ。自警団として、責任を果たさないとね」

「おお、楽しみだな。リリアムの責め苦にどんな悲鳴をあげるのやら」

「人聞きの悪いことを言わないで、カサンドラ。ただの仕事よ」


 その割には笑い方が意地悪いじゃないかと、ラインは内心で毒づきながら彼らは会議を終えた。



続く

次回投稿は、9/2(金)13:00です。

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