表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
1304/2685

快楽の街、その139~霧の中の遭遇⑩~

 そしてリビードゥはしばしの間をおいて意識を切り替えると、エクスぺリオンを隠してある部屋に向かった。エクスぺリオンを肉壁に投与すれば、あるいは強大な魔王が造れるかもしれない。そんな期待を抱きながら部屋に入ったその時、リビードゥは床がひっくり返され、中にあるはずのエクスぺリオンが全てなくなっていることに気付いた。


「・・・は?」


 一瞬状況が理解できないでいると、エクスぺリオンがあるべき床下に、一枚の紙が貼ってあった。そこには


『怪盗バンドラス参上! 貴様の希望はいただいた、ヒョヒョヒョ』


 と書かれていた。まったくふざけた書置きだったが、リビードゥには確かにバンドラスの高笑いが聞こえた気がする。

 そして同時に、リビードゥの顔からは人を小馬鹿にしたような、妖艶かつ邪悪な笑みが消えていた。


「・・・もういいわ」


 リビードゥがぼそりとつぶやくと、彼女に全身にぞわぞわと血管のような筋が浮き出てきた。その血管はやがて床とつながり、徐々に床から壁へ。部屋全体に血管がゆきわたったころ、リビードゥの姿が部屋の中に沈み始めた。


「沢山もてなしてあげようかと思ったけど、もうやめたわ。まずはターラムを更地にしてから後のことは考えるとしましょう。中にいる連中はまるごと消化してやる」


 リビードゥの姿が消えると、館は静かに鳴動を始めていた。


***


「ブランディオ? 抱えているのはウルティナか?」

「ここにおったか、マルドゥークのおっさん。丁度ええわ」

「貴様におっさん呼ばわりされるほど年は離れていないぞ?」

「細かいことは気にすんなって。それより頼みがあるんやわ」

「その前に聞きたいことがある。どうしてここにいる? お前は南に向かったはずだが」


 館に向かう途中のマルドゥークは、霧の中でブランディオに遭遇した。マルドゥークが不審がる中、ブランディオはウルティナをマルドゥークに預けながら答えた。


「南の用事は済んだんやけどな、こっちの方が大変やって情報があってなぁ。来てみたらウルティナが操られていることに気付いて助けたばっかりや。間に合ってよかったわ、ホンマ」

「・・・間が良すぎる気がするがな。そこはお前の能力と情報網ということか」

「そういうこと。ああ、ワイが助けたのは黙っとってくれへんか? ウルティナは何かにつけてワイに口うるさいからな、ワイに助けられたのがわかると目の敵にされてまうかもしれへん」

「そんなことも・・・ないとは言えんか。一つ貸しだな」

「ほ? あんさんでもそんなこと言うんやな」

「私のことをなんだと思っている?」

「高潔で融通のきかん堅物や」

「意外と俗物かもしれんぞ?」


 マルドゥークの言葉にブランディオは面白そうに小さく笑ったが、彼らの溶けそうになった緊張感を地響きが引き戻した。


「なんや? 大型の魔獣でも出たか?」

「いや、周囲の魔獣は大型も含めて一掃した。大型でもせいぜい二階立ての建物程度だった。だがこの地響きは・・・おい、あれはなんだ?」

「・・・おいおい、それは反則やで」


 ブランディオとマルドゥークが目にしたのは、霧の中に動く巨大な影。建物よりも一つ高く見上げるそれがリビードゥの館だと理解するのに、少し時間がかかった。一際高くなった建物から、巨大な亀のような頭が突き出ていた。一つ建物が動くたびに地響きに地面が揺れ、周囲からは魔性の気配が濃くなった。そして亀のような頭が一息するたびに、霧が濃くなっていくようだった。


「あれはなんだ? あんな魔獣がいるのか?」

「・・・霧の谷の魔物、ザラタンや。それでもあんな大きなのは見たことないがな。ザラタンロードとでも名付けるか」

「霧の谷だと? そんな場所に行ったことがあるのか?」


 マルドゥークはとある辺境の名前を思い出した。年中霧に覆われ、探索すらろくに進んでいない危険地帯のはずだ。アルネリア内部にすら、ろくな情報がないはずだが。


「まぁちょいと興味があってな。それにしてもあれは厄介やで。霧の谷の霧ってのは、ザラタンが吐く息のせいやと考えられとる。ザラタンがいてこその霧の谷やし、魔物はあれを本能的に守るんや。それに魔物自体もザラタンを家にしとる。あれを止めへんと、被害がえらいことになりそうやな」

「しかしどうやってあれだけの大物を持ち込んだ? さすがに気付かれると思うのだが」

「育てたんと違うか? ターラムでは珍しい生物のやり取りがあるからな。幼生の頃から育てて操っているとしたら意のままになるのかもなぁ」

「悠長なことを言っている場合か!? 早く止めないと!」

「とはいえあないなデカいのどうするんや。あれを操っとる奴を止めた方がええと思うで?」

「ならその方法を――」

「ジェイクが中におる。あの坊主に任せとき」


 ブランディオのその自信がどこから来るのか不思議だったが、マルドゥークは自分のやるべきことをやるため、ウルティナを抱えながら再度霧と街の境界線に戻ることにした。そして振り返るとブランディオを見失っていたが、構っている余裕はなかった。



続く

次回投稿は8/15(月)14:00です。連日投稿になります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ