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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
1302/2685

快楽の街、その137~霧の中の遭遇⑧~

***


 ジェイクが操られたウルティナと、肉蛇ともいうべきおぞましいリビードゥの作品に挟み撃ちにされた時、一陣の風が舞い込んできた。風は肉蛇を目にもとまらぬ速さで輪切りにすると、その一部をウルティナに向かって投げつけた。ウルティナも光の手でその肉壁を一切千切り取ったが、視界を塞がれた一瞬でジェイクの姿は消え失せていた。

 そしてジェイクは自分を逃がしてくれた人物と並走していた。その人物とは、レイヤーだった。


「助かった。礼を言うよ」

「たまたま通りがかったところに君がいた、それだけさ。もっとも気がかりの一つではあったけど」

「他の仲間は?」

「イルだけだ。他には誰もいない」


 その言葉と共に、ジェイクが走るのをやめた。その目には、レイヤーに対する不信感があらわれていた。


「お前・・・確か」

「レイヤーだ」

「レイヤー、お前荷物持ちだったよな? なんでこんなところに単独で突入してる? それにさっき魔物を倒したのもお前ってことだよな? あんなことができるのはイェーガーにもそうはいないはずだ・・・お前、何者だ?」

「・・・ただの荷物持ちさ、本来はね。剣技は練習しているけど、わけあって人には色々と隠している。だから、君もあまり口外してくれないと助かるんだけど」


 レイヤーの言葉には嘘偽りはなかった。だが、ジェイクの返答次第では多少物騒なことになるかもしれないとは思っていた。

 だがジェイクの返事はあっさりとしたものだった。


「わかった、人の事情は色々だもんな。誰にも言わないでおくよ。それでいいか?」

「・・・リサにも言わない?」

「リサのことだから、勘づいているかもしれないけどな。俺からは言わないよ」

「助かるよ、ありがとう」

「それよりだ」


 レイヤーはジェイクの潔さに感謝したが、ジェイクはそれよりも気になることがあるようだった。


「気づいているか? この館、どうも変だ」

「そりゃあ『城』らしいからね。結界の上位互換なんでしょ? 打ち破るのは容易ではないと思うけど」

「う~ん、そういうことじゃなくてなぁ・・・なんて言うのか、こう。全部偽りっていうのかな? 歪んでるのは空間だけじゃなくて・・・ああっ、言葉にはできないな!」

「ふぅん? イル、どう思う?」

「うーん、確かにおかしいといえばおかしいけど」


 イルマタルが隠形を解き、突然現れて答えた。イルマタルは隠形で姿を隠しながら、レイヤーに同行していたのだ。だがジェイクはイルマタルの出現に驚くことはなかった。まるでそこにいるのを知っていたかのように、さも平然とイルマタルの存在を受け入れていた。

 レイヤーもその点は少し気になったが、今はさほど重要な点だとは思っていなかった。


「この館に巡らされた『城』を壊すことは重要だと思うの」

「結局、ターラムの市内で壊して回っていた魔術も、この城を構成する一部だったんだよね?」

「気付いたのは途中だし、全然関係ない魔術もいっぱいあったけど。それでもこの城が広がる速度を緩めたくらいだと思う」

「ここの城は壊せそうかい?」

「うーん・・・」


 イルマタルはしばらく悩んだ後で、首を横に振った。


「時間をかければできると思うけど、あまりに複雑だよぅ・・・多分この城を作った人は、何年もかけて準備していると思う。時間をかければ解呪もできるけど、法則を見つけるだけでも数日かかるよ。それに館の中に出る霧がせめてなければいいんだけど・・・」

「そっか、何かできればと思ったんだけど」

「霧がなければいいのか?」


 ジェイクが話に割って入ったので、イルマタルは驚きながらも頷いた。


「うん。霧が出ると館の構造が変わったり、魔術の位置が変わったりするからわかりにくくって」

「そっか。あんまり害がなさそうだから放っておいたんだけど、そのためのこいつか。ならやった方がよさそうだ」

「え?」


 イルマタルが首を傾げる中、館に中に再度充満しようとした霧の中にジェイクは踏み込むと、中からは断末魔の悲鳴が聞こえてきた。その後霧が晴れていくと、ジェイクが何事もなかったように戻ってきた。


「ジェイク、何をしたんだ?」

「霧の魔物を倒してきた。気づかなかったのか? こいつらは魔物だ。あと何体かいるけど、生き物に何かするっていうよりは、近くにいる相手を惑わすみたいだ」

「じゃあ外に出ている霧も?」

「魔物と魔術、それに香の混合だな。魔物は隠れるのが上手くて、なおかつかなり上空にいるからどっちにしても手が届かない。館の中にいる奴は高いところにいけないから仕留められるけど」

「知ってたのか? そんな魔物がいるって」

「いや、途中で気付いた。むしろ、どうして気付かないんだ?」


 ジェイクは心底不思議そうに首をひねったが、イルマタルもレイヤーもまるで気付いていなかった。その力こそが特殊であると、ジェイクは意識できていないのか。

 ジェイクは続けた。


「ところでイル。この館の魔術ってのは、強引にぶっ壊すってのはできないのか?」

「え、えーと・・・あまりやると反動が怖いし、館が崩壊しちゃうかもしれないけど。それでもよければできるとは思う」

「ふーん、なら適度に壊しながら移動するか。霧も晴れてきたし、見えやすくなってきた」


 何が、と問う前にジェイクが無造作に壁の中に剣を刺しこんだ。そして不自然に壊れる壁と、その後に出現する魔法陣。イルマタルが驚く中、ジェイクが平然と言った。



続く

次回投稿は、8/11(木)15:00です。

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