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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その125~快楽の女王⑱~

「いらっしゃあぃ、お客様。歓迎いたしますわ」


 全員が総毛立つ邪悪な気配。見た目は美しくとも、明らかに人とは違う邪悪な気配を放つ女が、いつの間にか一際高い舞台の上に立っていた。その場に佇むのが、不気味な程似合っている。

 だがジェイクとウルティナだけが気づく、相手はどこか消耗していると。右腕がないことが関係しているのか、あるいはそれだけではないのか。ウルティナが先制のために無言で動こうとしたが、ジェイクがそれを後ろから引き止めた。視線は女の左手――闇につながる鎖を持った左に注がれている。

 ジェイクは鋭く問いかけた。


「お前がこの館の主か」

「そうよ、幼い騎士サマ。私がこの館の主、リビードゥと申しますわ。館の主として、年齢、貴賤の隔てなく歓迎いたします。どのような欲望をお持ちの方も、当館では決して否定せず――」

「御託はいい。なぜこんなことをする」

「なぜ? なぜですって?」


 心底面白い問いかけを聞いたといわんばかりに、リビードゥが高らかに笑った。その声が呪文のように頭の中に響く。


「楽しいことをするのに理由があって? 私は物心ついてからずっと楽しんでいるの。人が私に感謝するのも、憎悪するのも楽しいわ。火あぶりにされた時ですら、私は楽しんでいた。そこまで憎まれるなんて、愛されるのと大して変わらないもの。

 ただ、惜しむらくは誰一人私と最後まで遊んでくれなかったこと。心中を図っても、いつもなぜか私だけが生き残ったわ。悪霊となっても私と遊んでくれるだけの人がいたらよかったのだけど――そういう意味ではドゥームは最高ね。ちょっと年が若すぎて、男女の睦み合いに疎いのが難点かしら」

「火あぶり――なるほど。あなたは『蜜月』ですか。ターラムの歴史上で最も悪名高い犯罪者だ」


 ウルティナの問いかけに、リビードゥは嬉しそうに少し口の端を上げた。


「その名前を呼ばれるのは本日二度目ね。良く調べたものだわ」

「この街での悪霊討伐を検討する時に、当然下調べは十分にしています。ターラムには他の街では犯罪とされるような商売も平然と行われますが、その中でも最も残酷だとされたのがこの館と、その主だった蜜月だと聞いています。

 ここは人には言えないような、他のどこですらやらないような欲望を満たすために作られた館と言われ、その行為には生死不問とまでされています。事実、日々死者が多数出たこともあるとか。わかっているだけでも、死者は年に50人を超えています」

「あはは、違うわよ。死体なんてのはこっそり処理していたのがほとんどだから、実際には1000人を超えていたわ。廃人や再起不能を合わせれば、もっとかしらね」


 得意げに語るリビードゥ。ウルティナは嫌悪に顔を歪ませながら続けた。


「――ともかく、生死問わずの行為があまりに広がっていた。多くは自ら足を踏み入れた者だったが、この館の行為はエスカレートしていきます。質の悪い薬を使い、周辺住民を中毒者とし――薬が欲しいと言うと、その肩代わりにこの館で使用した」

「だってぇ、そうしないとこちらにも死者が絶えなくって、娼婦の数が足りなかったのですもの。時には奴隷商人から買ったり、浮浪児を仕立てて出したり。ああ、誘拐したこともあったわね。でも、客足が途絶えたことは一度もないわよ? それだけ快楽に飢えていた人間が多いってことじゃあないかしら? ね、悪いのは私たちだけ?」

「周辺の住人を何百人と魔窟に引き摺り込んでおいて、よくもいけしゃあしゃあと!」

「その住人たちも、多くは快楽の中で絶頂死したって知っているかしら? 中には私に泣きながら感謝して、自ら死んだ人もいたわ。数字だけで扱ってほしくないわね。私は彼らに残りの人生を捨ててもいいと思えるほどの快楽をあげたのよ?

 あなた、処女よね? 男に耐性のないあなたなんて、私なら半刻もあれば泣いて快楽を乞うまでに調教できるわよ? どう、試してみる? 半刻後には隣の騎士相手に自ら腰を振る雌犬が出来上がるわ」

「ぐっ、この――」

「いいよ、ウルティナさん。どのみちこの手合いには話が通じない。で、この悪霊の最後はどうなったの?」


 ジェイクの冷静さに、ウルティナが我を取り戻す。


「――最後は家族や友人、愛する人を奪われた人間たちが押し寄せ、館の主だった蜜月は火あぶりとなったそうです。その際も、最後まで高笑いを絶やさなかったとか」

「正確には、その前に戦争みたいになったのですけどね。館を失いたくない客と娼婦、彼らが相当に抵抗したから。自ら夫を手にかける、元貞淑な妻。自分の娘の首を閉めながら腰を振る男。畜生相手に身を捧げたシスターなんてのもいたわね。最後は阿鼻叫喚の渦で――全員が残らず私を守って死んでいったわ。その時わかったの、私はこの館でできることはやりきったのだとね。正直、あの時の立場と生きた肉体に未練はなかったわ。

 だから――」


 リビードゥがすうっと立ち上がった。同時に、闇の奥から多数の笑い声が響いてきた。



続く

次回投稿は、7/18(月)17:00です。連日投稿になります。

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