快楽の街、その123~霧の中の遭遇⑥~
「ヒドゥン・・・聞いた名前ね。黒の魔術士の一人で合っているかしら?」
「しゃべるわけ――そうだ」
「こんなところで何をしていたの?」
「各都市を回って黒の魔術に関わる者の行動を確認している。それにターラムからは資金源も供出してもらっているからな」
「関わる者?」
「ドゥームの部下である、リビードゥだ。あれは元々この街の悪霊だからな。下準備を進めていたらしいが、少々行動に目に余るものがあったので咎めに来た。それにカラミティだ。あの女のターラムでの現状を聞きに来たが、私の方がへまをした。アルネリアの巡礼に追跡されていたのを知られ、黒の魔術士を追われる羽目になった」
「だっさいわね。まぁそっちはいいのよ、資金源ってなに?」
「エクスぺリオンの売り上げだ。あれはアノーマリーが開発したものだが、黒の魔術士では販売経路がない。そこでリビードゥにやらせていたが、悪霊ではもう一つだった。市場で捌くのならば、人間に任せるのが一番だ。アルマスならば、申し分ない」
「アルマスは黒の魔術士に協力しているという噂もあったわね。でもそれだけでは不十分だわ。ターラムの権力者に協力している者がいるわね? 誰かしら?」
「それは――だ」
エネーマはその名を聞くと、納得したというように頷いた。
「なるほど、これで一つにつながったわね。黒の魔術士が動くにしても、人間社会での何らかの仕掛けをしていた。それらを動かすためには、金が必要。活動資金をどうしているかは謎だったけど、あなたが金策をしていたのね。それに人間にも協力者がいると。
これは良いネタになるわね。また私たちの名声が上がってしまうかしら」
エネーマは忍び笑いを漏らすと、呆気にとられているヒドゥンに馬乗りになるように跨った。
「あなた、そういう仕掛けに詳しいんでしょう? 裏方で色々と動いていたんですものね? 洗いざらい教えてもらおうかしら。そうすれば私たちの名声はもっと高まる――いいえ、それをネタに国自体を脅すのも楽しそうね」
「なぜ――私に何をした?」
自分の行動が理解できず、エネーマの話しすら耳に入らないヒドゥンに、エネーマは嘲笑を浴びせていた。
「自分の格好を見て想像つかないしら? 主従の関係って色々な方法があるけど、男女ならもっとも強いのは体の結びつきじゃない?」
「なっ・・・女のくせに恥を知れ、貴様!」
「やぁねえ、いい年こいて恥も何もあったもんじゃないわ。あなただって吸血種みたいだし、それなりに年齢を重ねているでしょうし・・・あれ? それにしても主従契約の魔術の効きが妙にいいわね。あなたもしかして・・・初めてだった?」
その言葉に黙りこくったヒドゥンを見て、エネーマは自分たちがいる場所が危険なことも忘れて、腹の底から笑っていた。
「アッハッハッハ! あんた、マジで!? 百年以上は生きているでしょうに、童貞? 何に操を立てていたのかしらないけど、ごめんねぇ~。それとも女の口説き方も知らないだけの、ダッサイ坊やだったかしら? アッハハハハ!」
「・・・我々も相当なものだが、貴様は完全にイカれているな」
「そりゃあどうも、ありがとう。だけど、私は無差別な虐殺はしないわよ? あなたたちほど殺してはいないわ」
「だが私も少なくとも殺しを楽しんではいない。他の連中は知らんが、人を嬲って楽しむ趣味は私にはない」
「そう、確かにね。あなたって、思ったよりも高潔なのかしら? それとも、ただただ怖がりなだけかしら? 私は後者だと思うんだけどな~」
するとエネーマが羽織っていた肌着をするすると脱ぎ捨てた。その目には妖しい光がともっている。
「私、面白い玩具を手に入れちゃったかも。利用しがいがあって、嬲り甲斐があって、しかも私も楽しめる。あなた、初めてが『あれ』ならかなり素質ありよ。しかも眠っていたのだし。これは育て甲斐があるわね。魔術の更新に同じ行為が必要なわけだけど、そっちが下手糞だったら萎えちゃうしね」
「き、貴様――」
「ちょっとうるさいから黙っておきなさい。あれの最中に話すなんて、野暮よ。契約の強化も一緒にやっちゃうから、ちょっと激しくするわよ?」
その言葉通りヒドゥンの覆いかぶさるエネーマ。ヒドゥンは快楽どころか、どんな戦いでも感じたことのない絶望感に襲われていた。
続く
次回投稿は、7/14(木)17:00です。