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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その118~霧の中の遭遇①~

***


「馬に轡をしっかりかませて、いななきを止めて頂戴。できる限り静かにね」

「迅速に、静かにやるぞ。鬨の声もいらねぇ、わかってるな?」


 アルフィリースとラインの命令に、静かに頷く精鋭たち。イェーガーの面々は、自警団から馬を借りるとオークの軍勢に奇襲をかけるために、出撃するところだった。先陣を任されるのはエアリアル。大草原原産の白い馬が10頭、先陣を切るのだ。彼らに乗るのは、エアリアル自身が選んで鍛えた精鋭である。馬に乗れば、上位の傭兵にも引けを取らぬ強者たちだった。


「エアリー、任せるわよ」

「うむ。適当に暴れて、囲まれる前に引き上げる。一度突き抜けて、戻ってくる。それで構わないか?」

「ええ、引き返す時だけ火矢をお願い。それを目印に駆けるわ。あまり損害を与えるというよりは、混乱させるのが目的だから。火を付けたりすると、寡兵がばれて逆にまずいわ」

「いいだろう。ああ、ちなみにあまり被害を出すのが目的ではないと言ったが、一度の攻撃で100体討ち取るのはやりすぎかな?」


 エアリアルが確認を取るようにさらりと言ったので、アルフィリースは思わず吹き出した。


「いえ。労無く討ち取れるなら、別に何体討ち取っても構わないわ」

「では今宵の功一番は私がいただこうか。蛮族狩りは久しぶりだが、鈍っていないか試してくるとしよう」


 そう言いながらエアリアルは愛馬シルフィードの腹を蹴ると、風のように突撃した。ほどなくしてアルフィリースたちも続く。エアリアルたちの馬とは明らかに脚力に違いがあるので、これくらいの間が丁度よかった。

 オークの陣は先にルナティカに偵察させた通り、陣も何もあったものではなかった。適当にその辺に寝そべっているだけ。エアリアルが一直線に蹴散らしたのがわかる道には、オークの無残な死骸が転がっていた。馬蹄の響きにようやくオークが何事かとのろのろと起きてきたが、状況を把握させぬ間に、アルフィリースたちが無言で討ち取っていった。

 そしてアルフィリースたちが突撃した後、ルナティカとレイヤーが徒歩で続く。彼らは伝令に走りそうなオークがいると、静かにそれらを仕留めていった。それに一度の突撃でどのくらいの数を討ち取るのかの確認もしていた。

 ある程度動くものがいなくなった段階で、ルナティカとレイヤーが一度集まる。


「何体仕留めた?」

「全部でざっと200体くらいかな? 一度の突撃でこれだけやれれば十分だろう。やっぱりエアリーが凄いね。一度の突撃で魔術も合わせて100近く仕留めている。馬の上ではまるで別人だ。これを今日の内に数度繰り返すんだろ?」

「4-5回は。そして今のうちに偽兵を仕立てると言ってた。先制打をくらい、かつ城壁に多数の兵士が立ち並ぶのを見れば、時間稼ぎにはなるかも」

「そんなものなの?」

「兵法の常套手段だとは思う。それより、イルとはここ数日何をしていたの?」

「ああ、僕たちにできることはないかと思って、ターラムの中にあるわけのわからない魔術の痕跡や罠を潰して回っていたんだよ。イルの言うなりにやっていたんだけど、彼女は何かの法則があるって言っていたね」

「法則」

「らしいよ。とても高位の術者が何人かいるって言っていた。一人は、この街を守るように存在していると。魔術の痕跡を見る限り、非常に古いものもたくさんあるみたいだ」

「古い?」

「そう。一番古いもので500年は経過しているって言ってた。そしてもう一人は最近だけど、この街に悪意があるって言ってた。ここ数日はその魔術を解除して回っていたんだ。夥しい数の魔術だったから、どのくらい効果があるのかわからないけどね」

「アルフィリースには?」

「まだ言っていない。それどころじゃなかったし、イルのこともまだ秘密だし」


 レイヤーは少し言いにくそうにしたが、ルナティカは少し考えた後、無表情でいつものように告げた。


「そろそろ言った方がいいかもしれない。何かがつながる予感がする」

「僕もそう思っていたんだ。帰ったらイルを説得しないとね」

「イルは?」

「寝てるよ。暢気なものだけど、まだそれほど危機じゃないってことなのかな? 何かあればユーティが知らせてくれることになっている」

「ならいい。それよりもう引き返してきた。遅れないように続く」

「速いね。ウィクトリエやタジボももう馴染んでる。まともにやっても勝てるんじゃないの?」

「戦争はそう甘くない。行くよ」


 ルナティカとレイヤーは月明かりから隠れるように闇に紛れ、馬蹄の後に正確について行くのであった。


***


「ふぅん? 霧の中には異形がいっぱい。これは長期間放置するべきじゃないわね」


 エネーマは霧の中を一人進んでいた。まるで晴れた日に散歩に出るように、鼻歌まじりに歩いていたのだ。

 襲いくる狂った町人たちは相手にならない。人除けの魔術だけでも対抗できるし、仮に魔術が効かない者がいたとしても、殺すまでもなく制することができる。確かに多少遊んでしまいたい衝動に駆られるが、霧の中の様子が少々変わってきているのに気づき、まっすぐ目的地に進むことにした。


「徐々に瘴気が濃くなっている・・・まさかとは思うけど、どこか違う場所と繋げているのかしら。確かに自分に有利な場を作るだけではなくて、そのような結界や城もあるとは聞いたことがあるけれども、つながる場所によってはかなりまずいことになるわね」


 エネーマは鼻歌を止め、少し警戒しながら進んだ。そして大きな何かがあるく足音を聞いて、思わず建物の影に身を隠していた。霧の中で視界は悪いままだが、どうやらかなり近くを通るらしい。エネーマは気配を殺してその場に立ち竦んだが、エネーマよりもはるかに巨大な足が微かに霧の向こうに見えていた。わずかに霧の中に垂れ下がるのは蟹の爪のようでもあったが、足は甲殻類のそれではなく、むしろけむくじゃらではあったが、馬などの動物に近いものだった。しかも足音からすれば二足歩行。全身は霧の中で見えはしない。

 足音は何事もなく過ぎていったが、さしものエネーマも驚きは隠せない。


「何、あれ。あんな生き物見たことないわよ。よほどの辺境か、それとも知られていない土地の魔物か。うかつには遭遇しない方がよさそうね。

 それにどちらにしても、この霧はまずい。ややこしい事情は抜きにして、さっさと片付けた方がよさそうだわ」


 エネーマがさらに進もうとすると、前から戦いの音が聞こえてくる。そして微かに香る血の匂い。気配は多数対一のようだ。誰かがまずい状況に追い込まれていることがわかった。

 そしてエネーマが覚えている道順では、この先の戦いを避けるとかなりの大回りになる。エネーマは面倒に唇を噛みながらも、まずは様子を伺うことにした。



続く

次回投稿は7/4(月)18:00です。

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