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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その115~快楽の女王⑭~

***


「くそっ、ここまで来て結界が抜けないとは」

「仕方ありません。これほど強力な結界はもはや城と同様です。いえ、この霧自体が城なのかも。ならばこの建物に入るのは、もっと時間をかけないと――」

「ちょっといいですか?」


 霧の発生点、リビードゥの館を前にして足踏みをする神殿騎士団。彼らは何度かの戦闘と探索を経ながらここにたどり着いたが、強力な結界に侵入を阻まれていた。ウルティナもまさかここまで強力な結界が展開されているとは考えておらず、人数と時間をかければ破れなくもないだろうが、さすがに現状の人数では厳しいと言わざるを得ない状況だった。

 攻めあぐねる様子を見て、ジェイクがするりと前に出た。そして建物をしばらく見つめると、おもむろに壁の一つに剣を突きさした。すると、先ほどまで揺れる気配する見せなかった結界がぐらりと揺れた。

 驚くのは神殿騎士。


「ジェイク、何をしたのか?」

「いえ、結界というものは起点となるべき魔術の収束箇所があると、グローリアの授業で習ったので。それらしく場所に剣を刺してみたのですが、どうやら効果があったようです」

「剣で、結界を?」


 起点となるべき場所を魔術で解除するのは確かに基本となる結界の破り方だが、剣で破るとは聞いたことがない。まして魔術の素養に関しては並程度のジェイクが、これほど複雑な魔術の起点を一目で看破したのは理屈に合わない。

 他の騎士が見守る中、ジェイクが次々と剣を刺すと、建物が大きく揺らぐような衝撃が走り、破裂音と共に結界が砕け散った。一瞬突風ともとれる強い風が吹き、収まった時には館の扉は自然と開いていた。


「ちょっと強引だったのかな。でもこれで入れると思います、行きましょう」

「・・・なぜ解除できた?」

「・・・正直わかりません。でも、どうするべきかはわかります。本能だと思っていただければよいかと」

「自分でも説明できないと」

「いつかは理解したいと思います。でも今は、力の使い方を覚えるのが先ではないかと」


 ジェイクの表情には迷いもあったが、足取りと行動には迷いがなかった。ああ、特殊な人間とはこういうことなのかと、ウルティナはどこか納得していた。


「ではジェイク、君が先頭に立ちなさい」

「俺がですか?」

「そうです。私はそうすることが最も危険が少ないと判断したのです。他に何か気を付けることはありますか?」

「・・・結界は最初から揺らいでいました。おそらくは誰かが既に破ろうとしていたのだと思います。それに、結界の主にも何かあったのでしょう。今は力が弱まっている気がします。叩くなら今です」

「なるほど。ならば前進あるのみですね」


 ウルティナがジェイクに同意すると、ジェイクは迷いなく進み始めた。まるで何かに導かれるかのような歩みに、ウルティナもまた続いていた。


***


「・・・?」

「どうしたよ?」


 グンツが外に行くと言うので見送りにきたリビードゥ。その表情が厳しくなり、怒りの表情に変わった。


「侵入者だわ。あっさりと私の城が破られた。どういうこと?」

「数日前から、ちょっとずつ城を破ろうとしている奴がいるって言ってたよな? そいつらか?」

「違うわ。その前の連中は、城壁を剣で削り取るがごとき遅々としたやり方だった。今度のは違う。いきなり城壁に大穴を開けてきたわ。城壁を丸ごと切断された感じ。やばい奴がきたわね」

「インソムニアをやったやつか?」

「さてね。だけど、私はインソムニアとは違うわよ? 妄執を実行するだけのあの子と違って、私には知性がありますからね」

「・・・だといいがな」


 グンツはリビードゥに聞こえないくらいの小さな声でぼそりとつぶやいた。そしてこのままリビードゥの元を去る機会を伺おうとしたが、リビードゥの方がさっさと奥に消えようとしていた。どうやら口調とは別に、それなりに焦っているらしい。


「行くのか?」

「ええ、達者でね。私もあなたに構う余裕はないかもしれないから」

「ああ、そうか。生きてたらまた会おうや」

「馬鹿ね、もう死人よ」


 リビードゥがふっと笑うと、グンツはきょとんとした。こういう表情は普通に美しいのだろうが、あまりに自分が気に入ったリビードゥの一面とは違うため、妙な気分だった。さっきのような表情ができるのなら、もっと普通の生き方があったのではないかとも思うのだが。



続く

次回投稿は、6/28(火)18:00です。

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