嵐の後、その4~無残~
「あらあら、聞いちゃったのね、今の話」
「むー、むー!」
その場には手足を縛られて地面に放置された男女が1組。男の全身はズタズタにされており、息があるのが不思議なくらいだった。女は裸にされ、随分と乱暴された後がある。足には5を示す数字がいくつも刻まれており、内股には血がついていた。彼らはゼムス一行が旅をするうえでの「暇つぶし」であり、その辺の部族からさらってきた男女である。2人が集落から離れて愛を囁いているところを、捕まえたのであった。
「さあて・・・どうしましょう。どうしてほしい?」
女僧侶は縛られた女のさるぐつわを外してやる。まだあどけなさを残す外見だ。その女が涙を目にいっぱいに浮かべて助けを請う。
「お願い・・・アタシ達を返して。お願い・・・」
「それは聞けない頼みです。貴方達にはここで死んでいただきます。我々の事をぺらぺらと話されては迷惑ですから」
「そんな、誰にも話さないわ!」
「信用できませんね。それにどのみち男はもう助かりません。あなたとて、そこまで汚されてどうするのです? もう女として使い物にならないでしょう。何せ昨日は魔獣に――ですものね」
「誰のせいで・・・う、ぐっ・・・」
女が声にならない嗚咽を上げ始めた。その様子を目を細め、悲しそうに見る僧侶。だがその口から発せたれるのは決して穏やかな言葉ではない。
「あの程度で壊れてしまうんですから、まあ貴方はきっとその程度なんですよ。精霊に恵まれなかったと思って、諦めなさい」
「そんな、ひどい・・・」
「本来なら面倒ですし、一息にとどめを刺すのですが・・・」
女僧侶はちらりと周囲を見る。すると血まみれの男の匂いを嗅いだのか、周囲には魔物が集まって来ていた。しかも、先頭にいるのは緑毛猿と呼ばれる魔獣である。それをみて良いことを思いついたのか、僧侶はおもむろに服を脱ぎ始め裸になると、死にかけの男の服を脱がせ、腰の上にまたがる。
「何を・・・」
「どうせ死ぬなら、せめて私の役に立ってもらいましょう」
そして足が変色するくらいきつくしばり上げ、魔術で強制的に男の血流を操作する。そして男の首を締めながら、腰を振り始めた。
「ふふ、いいですね・・・やはり人間は死にかけるその瞬間が、一番良く魂を輝かせる」
「やめて! お願いだからやめてっ!」
「どうですか、愛しの男が目の前で汚され死んでいく様を見るのは・・・興奮しませんか?」
僧侶が妖しい笑みを浮かべ、女を見下ろす。その目を、怯えながらも女はこれ以上ないくらいの憎しみでもって見返した。
「お前は、お前は・・・なんて汚らわしい。100回でも呪われるがいい!」
「残念ながら私は僧侶なので呪いは効かないのです。精霊の加護がありますからね」
「なぜ精霊がお前みたいな人間を選ぶんだ・・・」
「あら、精霊とは誰にでも平等ではありません。特に私の精霊はそうです。そんなことも知らないのですか?」
くす、と笑顔で答える女僧侶。その顔を見て、目だけで殺しかねない勢いで見返す女。だがその目線がより女僧侶を楽しませるだけだということを、彼女は知らない。
「いいわね、昂ぶりますわ・・・どうかそのまま私のことを見ていてくださいませ・・・お猿さん達と一緒にね。ああ、目を放してはいけませんよ。もし目を離せばすぐにこの男は殺します。そうすればこの男を殺したのはあなた、なんてことに」
「ぐ、くく・・・」
そして女僧侶の非道で悲惨な行為はじっくり、ゆっくり、ねっとりと長きにわたって続けられた。下の男は死にかけるたび回復魔術で生命をつながれ、女僧侶を愉しませるためだけに生かされた。だがやがて彼は痙攣すらできなくなり、事切れる。すると僧侶はいっぺんに興味を失ったように立ち上がり、身支度を整えその場を離れようとする。
その様子を見て、女が叫ぶ。
「私も殺せっ!」
「お断りします。もう貴女に興味はありませんので」
「何だと?」
「それにすぐ男の後は追えますわ。すぐそこまでベルベトエイプが来てますから」
「え・・・」
女は激昂したのもつかの間、背後を見ると視界に大量の猿が入り、一瞬で顔が青ざめる。この後僧侶が何を考えているのか想像がついた彼女は、ガタガタと震え始めた。
「お、お前と言う人間はどこまで・・・」
「ああ、そういえば」
女僧侶は手をぱんと叩く。
「ベルベトエイプは人間の女性を犯しながら殺すんでしたわね。それも何晩もかけて。早く楽になりたいなら正気は失くした方がよろしいかと思います。これは忠告ですわ。あ、でも貴方は魔獣に蹂躙されたせいで適当に壊れてらっしゃるから、逆に長持ちしてしまうかもしれませんわね」
「そんなことされるくらいなら!」
女は舌を噛もうとしたが、一瞬早く女僧侶は女の口に詰め物をする。そしてご丁寧に、
「ああ、いけません! 自殺は大罪ですから、死後安らぎを得られませんわ」
「むー! むー!!」
「では私はこれで去りますが・・・どうか貴方に安らかな死が訪れますよう、精霊に祈っておきますわ」
女僧侶は胸の装飾を握って祈ると、もはや見向きもせずにその場を離れた。女は地面をのたうちまわるが、拘束はきつく、外れる様子は全く無い。
そして女僧侶がその場を離れてしばらくすると、ひときわ大きい悶絶の声が聞こえた気がしたが、すぐに猿達の咆哮によってかき消された。
その後しばらくしてゼムス達に合流する女僧侶。
「遅かったな」
「ええ、楽しんできましたから」
「全く、とんだ女だよお前は」
「たまには僕たちとも楽しみませんか?」
仲間達の言葉に笑顔で答える女僧侶。とてもいままで残酷なことを行っていたとは思えない。
「別に私はいつでもいいですわよ?」
「やめとけ、こいつを襲うのは命がけだ。おれの体力でさえ死にかけた。お前じゃもたんよ」
「ええ~」
「ふふふ。私とまぐわって平気なのはゼムス様だけ。ね、勇者様?」
だがゼムスは、やはりにこりとするだけで何も言わなかった。
その晩のこと。とある集落から悲鳴が上がり始め、その悲鳴は1週間以上途切れることがなかった。そして悲鳴が消えた後、その集落には人間が存在した痕跡すら残らなかったという。
続く
次回投稿は2/5(土)12:00です。