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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その109~快楽の女王⑧~

「今のは・・・確か勇者ゼムスの」

「左様。勇者ゼムス一行の『僧侶』にして、副団長のエネーマ。勇者一行の中では戦う姿が目撃されないことから参謀なのだと考えられているが、実は違う。戦う時には常に一人ゆえに目撃者がいないだけよ」

「なぜゆえに?」

「強すぎて援護を一切必要としないからじゃ。私はあれの師匠だったが、まだ年端もいかん頃に指導をし、たかだか3年で完全に超えられたわ。私も巡礼時代には一桁まで番手を上げたことがあるのだがな。

 何年かに一度、時代の寵児とでもいうべき才能が巡礼には出現する。巡礼としての評価は様々な功績の総合で行われるため必ずしも実力ある者が番手が上とは限らんが、あの女は当時間違いなく単純な戦闘能力では一番だった。だがずっと外部で任務をこなし、正式に授与されていないため、正確な番手として評価されたかどうかは疑問だ。在籍したのもわずかな期間だったしな。お前とも年齢を考慮すれば同じ時期に活動しているはずだが、名前も聞いたことがないのではないか?

 そして最後は破門され、いないことにされた。記録の上でも抹消され、出自であった国からも一族からも除籍された。エネリアという女は社会的に抹消されたのだ。もはや故国に問い合わせても、その痕跡すら残っておらず、誰もが口をつぐむだろう」

「何故そこまで?」

「奴は生来の人格破綻者じゃ。殺しを愉しんでいるとしか思えない方法で敵を殺す。殺人者を始末する時に、その殺人者が発狂するほどの手段で殺す。エネリアの中では因果応報ということらしいが、その手段があまりにむごかった。当時エネリアの仕事の後始末をした人間は、何人も精神を病んだ。しかも奴の殺した中には、殺人の証拠すらない者がたくさんいた。エネリアは自分が間違えるはずがないと主張したが、深緑宮はそう判断しなかった。既に他国に対しても隠し通せないほど、その行為が露見していたのも大きい。そして裁判の最中、最高教主に手傷を負わせて――逃げた」

「は? ミリアザール様に?」


 マルドゥークは信じられなかった。ミリアザールに手傷を負わせられる人間が、巡礼の中に果たして何人いるだろうか。しかも、裁判中の深緑宮から脱走するなどと。詰めている口無しや神殿騎士団もいただろうに。その防衛網を単独で突破したというのか。

 だがヴォルギウスはマルドゥークの心中を察するように首を振った。


「完全警護の深緑宮から実力で脱走したそうだ。幸いにして死者はでておらんが、重傷者が多数出た。深緑宮では恥として、この一件に緘口令を敷いた。ただの巡礼者にそこまでいいようにやられては、アルネリアの威厳も何もあったものではないからな。

 才能は惜しまれた。だが、エネリアを扱える組織があるとは思わん。いったいどういうわけでゼムスと一緒にいるのか。私は、エネリアと一緒にいるだけで十分にゼムスというのは化け物だとわかる。

 ともあれ、これで悪霊の命運も尽きたろうな。エネリアが標的を仕損じたことは一度もないのだから。マルドゥークよ、今後追いかけるべき相手がわかっているか?」

「・・・ヤトリ商会でしょう。私の調べでは、エクスぺリオンをばらまく手伝いをしていたはずだ。彼らに加担するターラムの長がいますね?」


 ヴォルギウスは首を縦に振っていた。


「わかっているなら結構だ。お前は正当な手続きを踏む準備をしておけ、邪道は私に任せよ。そのためにターラムに長く務めたのだ、もうヤトリ商会を潰す準備は出来ている。毒をもって毒を制す。ヤトリもただでは死んでくれまいからな。最後は、バンドラスまで潰せるだけの余力が残るかどうかが、懸念材料だ」

「ヴォルギウス殿。あなたはこのターラムに巣くう化け物どもを一掃するためにここの司祭を務めていたということか?」

「それほど格好の良い理由ではないさ。この街で女に惚れた、もう随分と昔の話だ。女は3年ほどで病で逝ってしまったが、その頃には私に救いを求める者がたくさんいた。私は彼らを見過ごすことができず、ここの司教を申し出た。街に長く住むにつれ、この街には見過ごせない連中が沢山いることを知った。

 危うい均衡はなんとか保たれているが、時代の激流はもはやターラムをも飲み込まんとしている。この街は平和な大陸であるがゆえのこの形を捨てざるをえないだろう。世の中の流れに無関心ではいられないはずだ」

「支配者に心当たりは?」

「誰かまではわからん。だが確実にいる。そしてその者に接触できるのは、わずかなはずだ。この街のあらゆる組織のことを知り尽くし、それとなく指示を飛ばせる。何者かはわからんが、今度ばかりはその姿を現すだろうな。アルネリアには、決して正体を明かさないだろうが。特定の集団に利用されることを、もっともこの街の者なら忌み嫌うはずだ」

「そうか――だからミリアザール様はアルフィリースを」


 マルドゥークは納得した。なぜ傭兵にこのような任務を与えたのか。彼らがある意味ではもっとも自由な人間たちだからだ。

 だがそれでも、アルフィリースが認められるかどうかはまた別問題だと考える。そして、支配者なる者に認められたアルフィリースが、今後どう動くかは見張った方が良いのかもしれないとも考えた。



続く

次回投稿は、6/16(木)19:00です。

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