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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その108~快楽の女王⑦~

「アルネリアの害となるものは全て排除するのが私の仕事ですので。彼らがアルネリアに害なす者であれば、処分しなくてはならない。もちろん、彼らを匿う貴方もだ」

「今この状況で、その言葉を吐くかね? 彼らがいなくて、この霧を食い止められると?」

「それとこれとは別問題だ。彼らが集結しているのなら好都合。この問題が片付き次第になるだろうが、彼らを全員拘束させていただく。あなたも追及は免れませんよ?」


 マルドゥークの言葉に、不機嫌そうに舌打ちするヴォルギウス。


「好きにせい、だが一つだけ断っておく。私がやったのは、彼らに実務上の手ほどきだけ。思想的な手ほどきは一切しておらぬ。それに彼らが今まさに具体的な反対行動を何をしているわけでもない。確かにアルネリアにあるまじき偶像崇拝はあるかもしれんが、彼らがいなくてはこのターラムの治安はさらに乱れていただろう。彼らの功を無視して、あるかどうかもわからない罪だけ責めるのかね?」

「もちろん調べはしますとも。だがもし彼らが最高教主の暗殺に関わっているのなら、容赦はしません」

「最高教主の暗殺騒ぎは今に始まったことではあるまい。昔から一定の頻度ではあることだよ。それに彼らにはそんな計画を練るような力はない。ガーランドにせよ、このターラムをほとんど出ることのない男だ。それがどうして遠く離れた場所で暗殺騒ぎなど起こせるものか」

「他にも仲間がいれば話は別だ」

「ならば統率者が他にいるということだな? ガーランドに直接聞くのもよいだろうが、口を割る前に舌を噛む奴だよ。あれに拷問は無意味だ」

「死体からでも情報は得られる。あなたも知っているでしょう?」

「口無しか。それもどこまで信用できるのか」


 ヴォルギウスの口調が突然冷めたので、マルドゥークは訝しむ。


「どういうことです?」

「口無しにも何種類かの人間がいるということだ。中央で最高教主の世話をする者。そして遠くアルネリアから離れて、いつ終わるともしれない任務に就く者。後者に忠誠心がいつまでもあるかな?」

「それは――」


 マルドゥークは「いない」とは言い切れなかった。確かに神殿騎士、巡礼、口無しはそれぞれ組織が違う。口無しとは様々な場所で協力を得るが、彼らがいったい何を考えているかは知らない。ただのアルネリアの歯車としてしか、接したことがないからだ。

 だが彼らも人だ。人である以上は我欲があり、意志があるはずだ。深緑宮の口無しからは個性が感じられるが、任務などで組むことがあると、確かに私的な要求はおろか命への執着さえ持っているとは思えないこともある。滅私奉公という点では、自分以上だとはわかるのだが。


「用件はまだあるかね? おそよ君の疑問には答えたと思うが」

「む・・・」


 再度マルドゥークが言い返そうとした時、会話に割って入る者がいた。


「はぁい、ヴォルギウスのおじいちゃん。まだ生きてたのね?」

「・・・来ているのは知っていたが、まさか私に会いに来るとはな。私を殺すのか、エネーマ。いや、エネリア=フォン=マグディラーマ」


 ヴォルギウスがエネーマの名前を言い直した途端、エネーマの表情が笑顔から憎しみの表情へと見る間に変化した。


「その名で呼ぶなって言ったでしょ、糞爺! 今殺すぞ!?」

「そんなところまで変わらずで何よりだ。で、何をしに来た? 私を殺すつもりなら、もう始めているだろう?」


 ヴォルギウスの言葉にちっ、と舌打ちをしながらエネーマが吐き捨てた。


「相変わらず察しが良すぎて嫌な男ですわ、あなた。やっぱりやめようかな」

「どうやら事情があるようだな。この悪霊が疎ましいか?」

「その通り。確認しにきた、あの中にいるのは5位の悪霊ね?」

「おそらくはついさきほどそうなっただろう。カラミティがいなくなり、自発的に仕掛けてきたようだ。ただの悪霊にそのような判断ができるはずもなし。まず間違いなく5位の悪霊だろう」

「ふーん、じゃあ放っておくとここの滞在に支障がでるわね。しょうがない、面倒だけど片付けるとするか」


 ため息と共にエネーマがかつんと杖をつくと、見る間に魔力が膨れ上がる。その量にもだが、マルドゥークが驚いたのは、その質。明らかに聖属性の魔術であった。

 今まで薄い線で形成され、霧の侵攻を食い止めていた結界が見る間に補強されていく。多人数の魔力を通して形成された結界を補強するというのは、口で言うほど簡単ではない。手順を踏まねば、逆に結界を乱すことにもなりかねないのだ。その手順を省いたということは、最も簡単な方法で結界を補強したということ。つまり、今結界を維持する全員分の魔力を自身の魔力で『上書きした』、ということになる。あまりに絶大な魔力にマルドゥークは我が目を疑った。現在のアルネリア教会の中に、同様のことができる人間が何人いるだろうか。しかも、まだまだエネーマには余裕がありそうだった。


「ヴォルギウスのおじいちゃん。私にとっても邪魔だから、この悪霊の討伐に一口乗らせてもらうわね」

「師匠と呼ばんか」

「嫌よ。それに私もアルネリアを破門された身だしねぇ? 世話になった分は義理立てるけど、私はあなたのこと、嫌いなのよ」


 エネーマは後ろ手に別れを告げると、無造作に霧の中に入っていった。その後姿を見送り、信じられないものを見たとばかりにマルドゥークが呆然と問いかけた。



続く

次回投稿は、6/12(火)19:00です。

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