快楽の街、その100~復讐の勇者②~
「やるべきことは決まったわね。ライン、ターシャと連携して街の外の状況を確認。同時にヴェンに精鋭をつけて、私たちが入ってきた街区の入り口を確認して。敵の斥候はもう街に侵入しているかもしれない」
「仮に敵が入ってきていたら?」
「どうするかの判断はヴェンに任せていいわ。何かあったら迅速に応対できるように連絡網だけは作っておいて。私はこのままロゼッタやその他を率いて、自警団のところへ行くわ」
「そっちに隊長格を連れていくつもりか?」
「そのつもりよ。守るべきは街の防壁ではなく、このターラムのそれぞれの長のほう。彼らさえ無事なら、この街はなんとでもなるわ。それに、こういった非常時の方が、より彼らの本性が見えると思わない?」
ニヤリと笑うアルフィリースを見て、ラインもへっ、と笑い返す。
「なるほどな。なら俺は攪乱と牽制をやってやるよ。必要なら、市民の誘導もな」
「お願いするわ。コーウェン、何か意見がある?」
「早馬はギルドを通じて四方に飛ばしましょう~。この街は飛竜の航空網からも外れていますし~、ターラム内部には飛竜の発着場はありません~。敵がよほど馬鹿でなければ既に近場の飛竜の発着場も抑えられているでしょうし~、円形に包囲される前に四方に救援を求めておくべきです~」
「この街を包囲する? 奇襲をかけるならまだしも、包囲する意義があるのか?」
ラインの指摘に、コーウェンが難しい顔をした。コーウェンにしてはやはり珍しく、やや自信なさそうに発言するのである。
「これも勘ですが~、仮に策士クラウゼルが相手だとするなら~、常道とは違う奇襲、作戦を行うはずです~。この場合常套手段は奇襲で~、ありえないのは包囲殲滅戦なのは誰でもわかることです~。ですが、ありえないからこそやってくるのではないかと思います~。確信が持てるとしたら~、相手の軍団に強力な個体がほとんどいなかった時ですかね~」
「? よくわからん」
「はあ~、私もよくわかりません~。ですがターラムを陥落させることが目的でないとしたら~、この奇襲自体が嘘っぱちで囮だったり~、捨て駒だったりするのではないかと~」
「捨て駒・・・ならば別の本命があると?」
「それがわからないのです~。さすがの私でも情報が少なすぎます~」
コーウェンが困ったような表情をした。さすがにこれ以上考えてもしょうがないとアルフィリースの号令で行動に移ったのだが、確かにすっきりとしない何かを彼らは全員感じていたのであった。
***
「隊長~夜の飛行は怖いです~」
「馬鹿言っていないで、ちゃんと高度を保ちなさい。相手が弓矢持ちだったら、狙われるわよ!」
「私の天馬は夜目がさほどきかないんですよぉ。怖がっちゃって、操るのにも一苦労ですぅ」
「それでも飛竜よりマシでしょ!」
ぶつぶつと文句を言う団員たちをまとめ、ターシャは夜間の偵察を空から行っていた。確かに体表が白い天馬は夜間に偵察を行うのには向いていないが、夜間飛行をしないわけではないし、飛竜よりはよほど視界がきくと言われている。夜明けと共に奇襲をすることも多く、天馬乗りであれば、誰もが夜間の訓練を行っている。ましてやイェーガーに派遣されるほどであればそれなりの腕前であり、事実団員と共に送られてきた能力表を見ると優秀であるはずなのだが、どうにも軽薄な面々が多い。まるで遠足にでも行くかのように、偵察飛行を行っていた。
かと思えば、副長として送られてきたエンリカは、馬鹿がつくほどの真面目な人物だった。たとえるなら、針の山でもまっすぐ来いと言えば迂回せずに針の上を歩いてくる、ほどの真面目さを見せる。天馬騎士内のことなので誰にも言えないが、ターシャは頭痛止めを服用したくなるほど悩む日々が続いていた。
「隊員の選定はエマージュお姉ちゃんがやってるはずなのになぁ・・・どうしてこんな使えないのばかり」
ターシャは盛大にため息を吐いたが、それもまたターシャへの訓練だと思うエマージュの意図が理解されるのは、まだ先のことだった。
旋回しながら十分な高度を保つと、ターシャまず竜の巣の方向に飛ぶことにした。月は幸い曇りで見えない。視界も遮られる代わりに、発見される可能性も低くなる。だが竜の巣に向かおうとした途端、騎士の一人であるラタミアが声を上げた。
「あれ~? 隊長、敵さん散開してますねぇ」
「なんですって?」
ターシャも相当夜目がきく方だし、視力も非常に優れている。だがラタミアはそのターシャよりも早く敵を発見していた。
「数と方角、距離!」
「北北西、3-4万が方円形に散開中~。距離は天馬で一刻」
「夜明けまでに街に来るじゃない! 敵の編成は?」
「ん~? 人間じゃあないような・・・もうちょい近ければわかりますがぁ?」
「いいでしょう、近づくわよ」
そしてターシャたちが近づくと、ターシャが敵影を認め始めた時に、ラタミアが声を上げた。
「隊長~、あれはオークの群れですねぇ。それ以外の魔物はいなさそうですよ?」
「オークですって? オークがあんな群れをつくるって言うの?」
「なら指揮官がいるのでは? なんの種族でもそうですが、たまに『王』と呼ばれるほど優秀な個体が出現することがあると聞きましたが」
「エンリカ、それはないんじゃないかなぁ? 魔物に王が誕生したら、群れとして知性を持つよねぇ? だけど、あいつら弓矢なんて持ってないもの。むしろほとんど素手だし、まるで山からそのまま出てきたみたいな格好だよ? 大挙して街を襲う体をなしていないよ~
だけど、相手の大将っぽいのはヤバイ匂いがぷんぷんするよ? あ、こっち見た!・・・え?」
ラタミアがきょとんとしたが、その表情が俄かに変わった。
続く
次回投稿は、5/29(日)20:00です。