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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その99~復讐の勇者①~

***


「ではアルフィリースは出撃をしないと?」

「出撃しないとは言っていないわ。相手が違うと言っているのよ」


 アルフィリースは楓の報告を聞くと、アルネリアの助勢はしないと即座に言い放った。その言葉に対し、楓が気色ばみかけた時である。アルフィリースの傍にはコーウェン、エクラ、ライン、クローゼス、ラーナがいる。エクラは一瞬ぎょっとしたが、他の者が冷静であるのを見ると、自制した。

 楓もアルフィリースが平静なのを見ると、ぐっと堪えて冷静に振る舞った。


「理由をお聞かせ願いましょう」

「まず悪霊に対する攻撃手段を、私たちはほとんど持たないわ。そもそも光属性の攻撃手段はアルネリアの専売特許。だからギルドにも悪霊に対する依頼はほとんど流れてこない。それを今更傭兵に頼むのは筋違いよ。私は何か間違ったことを言っているかしら?」

「・・・いえ」

「神殿騎士団や巡礼としてもそのつもりではないのでしょう。私たちがすべきことは、外にある脅威を正しく認識し、それをターラムの自警団に伝え、協力して撃退すること。私たちが神殿騎士団を手伝っても、場が混乱するだけよ。

 だけどそれにしても、何かしらね・・・敵の正体も見えないのでは、不気味というほかないわね。コーウェン、心当たりは?」

「ふむ~。私もずっとターラムについての調べ物をしていただけなので~、完全に寝耳に水ですから~、あくまで想像に過ぎませんが~」


 コーウェンもやや困り顔で間を置いた。万事に策を用意している彼女としては、非常に珍しい表情が見られた。


「ターラムを攻めることを想定したらば~、考えられない方法ではないんですよね~。外に何かいるとしたら~、おそらくはローマンズランドから派遣されてきた軍隊でしょうから~。カザスの地図から想像するに~、竜の巣を突っ切ればターラムにたどり着くことは可能です~」

「竜の巣?」

「死期を感じ取った竜が棲むと言われる危険地帯だ。知性もなく、屍竜となっちまったドラゴンも多い。大草原や嵐の谷なんかよりも、よほど危険だと言われる場所だ。大陸のど真ん中に近いところにありながら、人跡未踏を誇る数少ない場所だな。傭兵なら常識なんだが?」

「常識無くて悪かったわね。だけどそんな場所を突っ切るなんて、正気の沙汰じゃないわ」

「そうなんですよ~、問題はそこです~。どこの世界に人跡未踏の化け物の巣を通過して奇襲しろなんて作戦を聞く部隊がいると思いますか~? それくらいなら時節を見てから南下すればいいわけで~、今ここで何千の将兵を失ってまで進軍する必要が・・・あ~!?」


 コーウェンがぽん、と手を叩いた。そしてぶつぶつとつぶやいて考えをまとめると、顔を上げた。


「何か思いついたの?」

「ええ~、本当に思い付きの状態ですが~。相手の意図はまだ完全には見えませんが~、誰が作戦を立てたかは分かったかもしれません~。皆さんは~『賢人会』というものをご存じですか~?」

「賢人会?」


 聞きなれない言葉に、全員が顔を見合わせた。


「賢人会と言うのは~、大陸でも世に出ない~、あるいは出ることのできない識者が意見交換の場所として設けられる会のことです~。以前はカザスもそうですし~、私も出席していました~」

「先進技術の話し合いなら、大陸平和会議でも意見交換はできるはずですが?」

「あは~、表立って言えない論議もあるじゃないですか~。エクラちゃんはいい子だからわからないかもしれませんがね~」


 コーウェンの言い方にエクラはむっとしたが、事実でもあるので黙っていた。コーウェンもまた倫理観はさておき、話を続けていた。


「私が参加していたのは兵法論の部門でしたが~、実に奇抜な発想をする人が一人いました~。名をエバーハーデン=クラウゼル~、ギルドでは『策士』と呼ばれています~」

「聞いたことがあるぞ・・・確か、勇者ゼムスの参謀じゃなかったか?」

「かつてゼムスが戦場での依頼を受けていた時はそうですね~。ゼムスは戦場での依頼をほとんど受けなくなったので、今ではかかわりがあるかどうか定かではありませんが~、私はいまだにクラウゼルの策に従ってゼムスは動いているのではないかと考えています~。

 まあそれはさておき~、クラウゼルは非常に奇抜な発想をする人でして~。彼が主導で兵法論を戦わせる時は~、演題が『現在の平和を壊すのではあればどこを攻めるべきか』とか~、『殲滅戦ではいかにすれば一人も逃さず殺し尽せるか』なんてものが多かったです~。倫理観の欠如した題目ですが~、まあ他の人も同じようなものですし~、誰も気にしていませんでしたが~」

「回りくどいわね。肝心の部分は何なの?」

「クラウゼルの演題の一つに~、『ターラムを陥落させるにはどうしたらよいのか』というものがありました~。その過程で出た案の一つに~、今回と同じような状況がありまして~」

「つまり、現在の状況はその策士とやらが考えたものだと?」

「どこまで描いた構図そのものなのかはわかりませんが~、少なくとも関与はしているのではないでしょうか~。

 そしてローマンズランドにいる魔王や魔物を使えば~、無茶な作戦も通るかもしれませんね~」

「なるほど」


 アルフィリースはある程度の納得をしたが、やはり具体的な作戦はまだない。情報収集が先決だった。



続く

次回投稿は、5/27(金)21:00です。

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