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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その93~押し寄せる悪意①~

***


「くそっ、どこに行ったゼムスぅぅぅ――」

「だーっ! 大声を出すな!」


 グンツが慌ててリディルの口を力づくで抑えた。なんとか力だけはグンツの方が上だが、機動力ではとてもではないが及ばない。もう一度駆けだされたら、もう追えるだけの体力はグンツには残っていなかった。どうやってゼムスがこのリディルから逃げ切ったのか不思議でしょうがない。勇者の癖に逃げ足が速いとは滑稽だが、本当に人間の体力と脚力かと、グンツは不思議でならなかった。

 闘技場で自警団に包囲されたあたりからきな臭かったが、自警団を適当に小突いて遊んでいたら突然リディルが駆けだした。その際おそらく切り倒した自警団の何人かが死んだ可能性があるし、自分の顔も見られただろう。殺した以上は向こうも本気になるだろうし、手配書を見れば自分が誰かはわかってしまう。犯罪なんぞやりつくしたし、傭兵でありながらギルドに手配されたことも一度や二度ではないが、ターラムですらやらかしたとなれば、さらに懸賞金が跳ね上がるだろう。そうなればどこに行っても街を歩くことすら難しくなるかもしれない。

 これ以上大ごとになる前にこの街は離れた方がいいと、グンツは考えていた。


「もう見失ったんだよ! 闇雲に探したってしょうがないだろう、ターラムがどれだけ広いと思う!?」

「だが、仇だ!」

「誰のだよ!」

「む・・・そういえば、誰だったかな・・・」


 リディルが本気で悩み始めたので、グンツは思わず眩暈がしそうだった。だがこれが魔王化の代償なのだろう。どうして恨むかすら覚えていられないとはさすがに哀れに思ったが、これ幸いとばかりにグンツはリディルを連れてターラムの外へ向かった。旧市街を通れば検問なしに出ることができるため、本当にターラムは便利である。

 だが、ターラムを出て適当に歩いていると、グンツとリディルは同時に殺気を感じ取った。それも、一つや二つではない。数百はゆうにあるであろう殺気である。


「こりゃあ・・・」

「戦争の匂いだ。どうなっている?」


 いち早く察した二人は頷き合うと、そっと殺気の方に気配を消して向かった。その先に来ると、半ば以上人間でなくなっている二人は夜目をきかせて殺気の元を探っていた。


「あれは・・・」

「オークの軍団だな。どういうことだ? ローマンズランドから来るにしても、これほどの数となると指揮官がいるだろう。誰が指揮していやがる?」

「もう少し近づいてみるか・・・なるほど、あれか」

「なんだ、知り合いでもいたのか?」

「ああ、よく知っている顔だ」

「・・・なるほど。あの間抜け面は忘れねぇな」


 リディルとグンツは足早に近づくと、小休止状態の軍団に近づき、そっと中に入った。オーク共に陣を作るなどという発想はないため、そこかしこに彼らは座っているだけで、それもほとんど無警戒の状態だ。相当強行軍であったのか、ほとんどのオークが熟睡している。今奇襲を受ければ数千程度の軍勢にもあっけなく全滅させられるだろう。

 その中でリディルとグンツは中心に近い場所にあっけなくたどり着いたのである。


「何している、ケルベロス」

「のわぁ!? びっくりしたべ!」


 そこにいたのはアノーマリーの部下だったダグラ、ドグラ、ポチの合成魔王であるケルベロスである。どうやら彼が指揮官であるらしかった。


「リディルにグンツでねぇか? 何してんだ、あんたら」

「そりゃあこっちの台詞だ。お前が指揮官か?」

「んだ! どうだ、俺も出世したっぺ? 将軍様と呼んでもいいだよ」


 偉そうにケルベロスが胸を張ったので、グンツは思わずドグラの頭をひっぱたいていた。嬉しそうにポチが吠える。


「いってえ! 何すんだ!?」

「阿呆か、お前は。陣の作成すらしてなくて、何が指揮だ。こういうのは烏合の衆っていうんだよ」

「仕方なかんべよ、誰にだって初めてはあるべ! おらは用兵の『よ』の字も知らねぇしな! なんもかんも初めから上手くいくと思ったら、大間違いだ!」

「お前が偉そうに言うな、お前が」


 再度グンツはダグラの頭をひっぱたいたが、やはりポチは嬉しそうに吠えていた。これだけ騒いでも誰も止めに来ないあたり、ケルベロスに指揮官としての人望は皆無だろうとグンツは考えられる。


「オークハラスメントだべ!」

「何難しい言葉を使ってやがる。そもそも誰に言われてここまで来たんだ、ああん? 正直に言ってみろ。お前のオーク頭で思いついたんじゃないだろう」

「むぅ・・・ローマンズランドにいるカラミティだべ。あーでも、カラミティも誰かに勧められたって言ってたべな」

「カラミティが人の言うことを聞いた? そんなことがあるのか?」


 グンツの意見も尤もだったが、その時ポチが吠えた。


「わんっ!」

「おお、そうだ。『策士』とかいう奴だべ。本名は誰も知らないそうだども、ローマンズランドのまともな大臣たちも信用しているみたいだべよ?」

「『策士』・・・そりゃあ・・・」


 確かゼムスの仲間じゃねぇかと言いかけてグンツはやめた。せっかく興味がそれたリディルを刺激したくはなかった。

 だがリディルはさらに別のことに興味をひかれたようだった。



続く

次回投稿は、5/15(日)21:00です。

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