表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
1254/2685

快楽の街、その89~ターラムでの闘技場にて㉓~

「俺、言われた通りのことはやったぞ? あれ以上は無理だ、かなり危険な戦いになる。そこまでする義理はない」

「――?」

「そりゃああんたに力をもらって、召喚用に魔獣も借りたさ。だけど、ほとんど使えない連中ばかりじゃないか。あれほどの強さの人間相手には、足止めにもなりゃしない。もっとさっきの薬を魔物に使ってくれりゃあ、まだ何とかなったかもしれないが」

「――」

「なんだと? それじゃあこちらが勝ってしまう? お前、最初から――」

「――です。獣でしょう? 戦って死になさい」


 カサンドラに聞こえたのは、最後の会話だけである。だがその言葉の直後、ハクエンが突撃したが、ハクエンの体を打ち据える無数の攻撃が飛んできた。ハクエンは前進すらまともに適わず、その体の前面は無残にもえぐり取られていた。


「ぎ・・・ひゃ」

「あら、耐久力だけは一級品ね。それだけは褒めてあげるわ」


 その言葉の直後、カサンドラは全身の毛が開き、体が泡立つような感覚を覚えた。カサンドラが久しく味わう感覚――これは、『死の予感』である。

 その直後、ハクエンの体が無数に切り刻まれていた。いや、ハクエンを含むその周囲全てが微塵となっていた。肉塊どころか、ただの血の塊となった。気配はなく、ただ斬撃だけがそこにあった。カサンドラは必至で震える体を抱いて耐えた。見てはいけない、それだけが本能で察せられた。なのに、会話が聞こえてしまったのだ。


「あら、来ていたの? 久しぶりね」

「――」

「ええ、いざという時のために手駒が必要になるかもしれないですからね。私たちの主な手駒はほとんど使えなくなってしまったのだし。それもこれも『あの間抜け』がしくじったせいだわ。

でもおかげで収穫もあった。このエクスぺリオンと私の能力の相性は非常によいから、これなら十分に代用ができるはず。知性のある個体の発生も確認できたことだし、あとは現在流通している分を押さえるだけ。ヤトリが動くように仕向けた甲斐があったというものだわ。まったく、欲のある人間ほど思い通りになるものはないわね」

「――?」

「ああ、アルマス? ウィスパーも小心者ねぇ。統制できないからこそ混乱は面白いのでしょうに。制御できる混乱など、秩序と変わりはしないわ。心配しないで、手は考えてある。それに最悪、あなたがいればアルマスなんてどうとでもなるでしょう? ウィスパーすら恐れる、あなたなら」


 その言葉に不機嫌となったのか、一層強い殺気がざわめくと、その直後また気配が一切消えていた。カサンドラは逃げ出したかったが、必至で耐えた。そして両者の気配が消えた後、ふらふらとその場に出た。それは、何者がいたのか痕跡を確かめるため。その場にあったのは、肉すらなく血だけとなったハクエンだが、その血すらも蒸発しかけていた。

 そして足元をゆっくり見ると、その場には黒い線のような跡が何本も放射状に延びていた。その跡を見ながら、カサンドラは自分の記憶を思い起こしていた。この跡には、見覚えがあると。それも、屈辱の類だ。カサンドラは抵抗する自分の本能と戦いながら、記憶の扉を開けていった。

 と、そこへリリアムやアルフィリースが追いついてきた。リリアムもカサンドラと同じことを考えたのだろう。彼女たちを伴って追撃してきたのである。

 そして蒼白な顔で考え込むカサンドラと、血のたまりを見て何事かがあったのはわかったらしい。


「カサンドラ、ハクエンは死んだのね?」

「ああ、そうだ。八つ裂きどころか、微塵にされて死んだよ」

「微塵・・・? それはまさか――」


 フォスティナが思い当る節があるようだったが、それを言うのが躊躇われたのか、少し考え込んでいた。

 そしてリリアムがカサンドラの足元にある黒い跡に気付く。だがリリアムの表情はそれを見て一瞬で青ざめていた。先ほどのアルフィリースの挑発よりも、より青ざめている。アルフィリースも異常を察したのか、リリアムを気遣っていた。


「リリアム、顔が青いわよ?」

「・・・あなたならわかるんじゃないの、その理由が。それにしても信じられない・・・全員殺したはずなのに・・・いや、でも人違い? でも顔だって確認して・・・」

「リリアム、しっかりしなさい!」


 アルフィリースがリリアムの肩を揺さぶったが、反応が薄い。アルフィリースはカサンドラに目で助けを求めたが、同時にカサンドラも憔悴しているように見えた。

 アルフィリースは思い通りにおよそ今日の戦いを進めていた。なのに、最後になって思わぬ事態で戦いを終えることになり、胸にもやもやとした不安の種を残すことになったのだった。



続く

次回投稿は、5/7(土)22:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ