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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その86~ターラムでの闘技場にて⑳~

 女は手に持っていた剣をアルフィリースとリリアムの足元に投げつけた。その勢いの良さに、地面に突き立った剣が揺れている。


「全く、エクスぺリオンの調査をせっかく人任せにしたというのに、ここで行き当たるとは。私ともあろう者が、両方の報酬をいただくように交渉しておくのでした」

「あれ――フォスティナ?」

「なんと。なぜここに?」

「久しぶりね、リリアム、アルフィリース」


 フォスティナは軽く目配せすると、リリアムとアルフィリースが目を合わせた。


「知り合い?」

「こっちの台詞ですが」

「積もる話は後にしましょう。魔王! 最初から私は闘技場内にいました。これなら文句ないでしょうね?」

「・・・いいだろう。どうあれ、その方が盛り上がるからな。盛り上がる闘技は好きだ。特に女は楽しめる」


 舌なめずりするハクエンを見て、アルフィリースが完全に侮蔑の視線を投げた。


「とんだエロ猿ね」

「心配するな、女。お前に興味はない」

「なんですってえ!?」

「放っておきなさい。猿にモテてもしょうがない」

「ぐっ、これが大人の女の余裕だっていうの!?」

「阿呆なことを言っている場合ですか。来ますよ」


 リリアムの警告通り、ハクエンの周囲の魔獣が一斉に向かってきた。アルフィリースとリリアムが剣を取る中、先陣はフォスティナ。彼女が剣を振るうたび、魔獣の首が二つ、三つと飛んでいく。勇者の名に恥じぬだけの剣筋に、前より強くなったはずのアルフィリースも思わず内心で賛辞を贈る。


「さすがフォスティナ。負けていられませんね」


 リリアムも負けじと剣を振るうと、確実に目の前の敵は八つ裂きになっていく。明らかに剣速が先ほどよりも上がっていた。あれが殺すつもりで振るう剣なのだろう。

 そしてアルフィリースは木刀を金の魔術で強化したうえ、さらにフォスティナの剣を使って二刀に切り替える。アルフィリースが斬った敵は焼け付き、あるいは破裂し、そして凍り付くものもいた。三者三様の戦い方に、観客からは歓声が上がる。


「確かに統率は取れているようだが、ただの魔獣では相手にならないぞ、ハクエン!」

「心配されるな、闘技場の女王よ。いくらでも代わりはいるのでな」


 ハクエンの周囲から召喚陣が出現すると、次々と魔獣が出現する。同時に、ハクエンの体からも取り込んだはずの魔王や魔獣が次々と分離してきた。


「ちっ、これではキリがない!」

「いや、これはおかしいわよ? ハクエンがさっき魔王になったのなら、召喚するような魔獣と契約を結ぶ暇はないはず。どうなっているの?」

「今はそれより、対応策だ!」


 アルフィリースの疑問は戦いの勢いに呑まれたが、リリアムとフォスティナは既に動いていた。彼女たちが左右に分かれ、魔獣達の首を落としながらハクエンに迫る。


「覚悟!」

「しゃらくさい」


 ハクエンが振るった丸太のような腕の一撃を飛んで躱しながら、リリアムとフォスティナが威力十分の一撃を放つ。だがそれらはどちらもハクエンの皮膚によって受け止められていた。


「固い?」

「こちらは柔らかいが弾性が凄い――なんだこの皮膚は?」

「痒いなぁ、痒いぞ人間!」


 うるさそうにリリアムとフォスティナを振り払ったハクエンに向けて、アルフィリースの『圧搾大気ディーププレス』が飛んできた。どてっぱらに直撃し、ハクエンの巨体が後ろに吹き飛ぶが、それもさしたる打撃になっていないのか、ただ腹をぼりぼりと掻いている。

 だがアルフィリースもそれは予定通りか。早速アルフィリースの周りに出現した炎の獣が群れを成して襲い掛かる。


炎獣フレイム狂想曲カプリッツィオ

【地の底に澱む水、降り積もる憎しみのごとき汚泥よ、われの前に噴き出し防壁となれ】

汚泥ダーティ防壁ウォール


 ハクエンの前に突如噴き出した汚泥に炎の獣は次々と突撃し、そしてかき消されていた。獣達の何体かは他の魔獣たちを焼き尽くしながら回り込むようにしてハクエンを攻撃したが、いかんせん頭数が半分以下では効果が不十分だった。ハクエンにとびついても、彼に埋め込まれた魔獣が応戦して思うような効果は得られない。

 さらにハクエンが追撃を行う。


【重ねて進み、敵を地の底に引き摺り込め】

汚泥ダーティ津波ウェイブ

【我が手に集まりし風の精霊の祝福よ、其の力を用いて眼前の敵を打ち砕け】

巨人マウンテン風拳ナックル


 ハクエンが起こした津波はアルフィリースが作った巨大な風の拳によって粉砕されたが、魔術としては相討ちだった。面白そうにキッキッキと笑いながら手を叩くハクエンに、三人の表情が険しくなった。


「どういうことだ? これでは高位の魔術士ではないか! 魔王とやらは魔術は使えないのではなかったのか?」

「いえ、自然発生する魔王は元来高い知能を持つ者がいるわ。それらは魔術を使う者も多いけど、黒の魔術士が作ったと思われる個体にはその傾向はあまり見られなかった。だけど、これは――エクスぺリオンにはそんな効果があるのか?」

「知恵だけでは説明できないわ。これは、他人の知恵を用いているとしか思えない。仮にこれがエクスぺリオンとやらによって発生したものだとすると、知恵すらも譲渡できるということいかしら?」

「そんな都合の良い物があってたまるか!」


 フォスティナが突撃したが、彼女の渾身の一撃はハクエンの交差した両腕を半ばほどまで斬り裂いて止まる。そしてフォスティナの動きが硬直したところに、突然ハクエンの背中に生えた腕が、彼女を叩き潰さんと振り下ろされた。



続く

次回投稿は、5/3(水)22:00です。

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