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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第四章~揺れる大陸~
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快楽の街、その84~ターラムでの闘技場にて⑱~

「まずはその速度を殺すか――『地津波アースウェイブ』」


 アルフィリースは詠唱を中途半端に終えることで魔術を唱えると、地面が波打ち闘技場が歪に変形した。攻撃魔術とまではいかないが、これで足場は極端に悪くなるはずだった。

 だがリリアムは変形した闘技場を見ると、あっという間にじぐざぐに駆け抜けた上に、宙高く飛んで体を捩じりながら、重い一撃を落としてきた。一見捨て身とも取れる攻撃だが、思わぬ速度とその威力に、アルフィリースの体が地面に軽くめり込んでいた。得物は違うが、カサンドラの一撃にも劣らない威力で、アルフィリースが木刀を魔術で補強していなければ、あっさりと脳天が割られていただろう。


「この・・・馬鹿力!」

「(魔術による身体能力の補強か? おそらくは意図したことではなく、そのように魔力を使うように育ったのだろうな。常に戦場のような環境に身を置いた結果か――だがそれだけでは、これほど私の本能が警鐘を鳴らす理由がない。いかに速くて重い一撃を打てるとしても)」


 影が冷静な分析をする一方、アルフィリースもまた魔術で補強した身体能力と剣で応戦する。だが力の差は数合で歴然。アルフィリースはたまらず距離を取ろうとしたが、自分で変化させた地面の質がそれを阻んだ。

 咄嗟にリリアムが踏むであろう地面の表面を氷で覆っていなければ、リリアムが体勢を崩すこともなかったろう。

 アルフィリースは続けて魔術を使用する。だが、詠唱が必要なものは使用する暇がない。アルフィリースは詠唱無しで使える魔術の一覧を即座に頭に浮かべ、それらの中から有効なものを即座に使用していく。


「束縛しろ、『地柱アースピラー』」


 凹凸に変化した地面から、今度は柱がいくつも出現する。そのうちのいくつかはリリアムに向けて伸びたが、リリアムは無造作に伸びる石柱をいともたやすくかわす。だがさすがに数が多く、かわしながらアルフィリースからは一端離れざるをえなかった。

 すかさずアルフィリースが追撃する。


「穿て、『石矢ストーンアロー』」


 リリアムを取り囲むように伸びた石柱から繰り出される、石のつぶて。完全詠唱なら殺傷力を持った矢となるが、それでは致命傷になりかねない。詠唱も省けば不完全な魔術となるぶん読みにくく、散弾のようになった石礫は無数かつ全方位、かつ時間差を含めて打ち出された。

 さすがに全てを打ち落とすことは不可能だろうし、いかばかりか有効だろうと思われた魔術だったが、リリアムはそのほとんどを叩き落としてみせた。

 さすがに呆然とするアルフィリースだったが、大きい魔術を使うべく距離を取ろうとして、背中に激痛が突如走った。手を当てれば、なぜだか背中が斬られている。リリアムは、確かに前にいるどころか、剣を振った様子もない。変わったことと言えば、目の色が変化していることくらいかとふとアルフィリースが思い――


「待って、目の色が変わる、ですって?」

「(ああ、まずいな――魔眼持ちだぞ、あれは!)」


 影が警告をしたが、それ以上は何も言えなかった。そもそも何の魔眼なのかもわからない。ただでさえ十分な力量を持った相手に、さらに魔眼が加わるとなると、もうこの戦いの決着だどうなるかは予想もできなかった。

 さすがに無理矢理アルフィリースの意識を奪ってでも戦うべきかとポルスカヤが考えた時、アルフィリースがそれを差し止めていた。


「待って、まだ私がやるわ」

「(そんなことを言っている場合か! 死ぬぞ!?)」

「これくらいで死ぬようならそれまでよ。同じ黒髪なら、私は負けるわけにはいかない!」

「(何の意地だそれは)」

「わからないけど、これはもっと私の本能的なものよ! 私はどうしても、彼女に負けるわけにはいかないわ。そう強く感じるのよ!」

「(アルフィリース・・・そこまで言うのならば徹底的にやるがいいが、意外とそれどころじゃないかもしれないぞ?)」

「なんですって?」


 アルフィリースが影の忠告を聞くのと、アルフィリースに向けて歩いていたリリアムが、その動きを止めるのは同時だった。そして闘技場に満ちるその違和感を、感じたのである。


***


「おい、どこに行ってたんだよ?」


 酒を飲みながら闘技を眺めるグンツの元にリディルが戻ってきた。あれほどのめり込むように闘技に集中していたのに、突然席を立ったかと思うとしばらく帰ってこなかった。用を足しに行ったにしては、長い時間いなかった。おかげで静かだったが、グンツは一応リディルのお目付け役ということになっているので、リディルがあまりいないと何か問題が起きるのではないかと考気が気ではない。それはそれで面白いのかもしれないが、余計な面倒を今は抱えたいとは思わなかった。

 グンツは気怠そうに義務的にリディルに問いかけたが、リディルの返事は思わぬものだった。


「ああ、闘技場内に厄介なのがいたからな。少し様子を見に行っていた」

「厄介? なんだそりゃあ」

「魔王が発生した。しかも突然」


 リディルの言葉に、思わず酒瓶を傾ける手が止まるグンツ。だがその気怠そうな表情は変わらない。


「どうせエクスぺリオンの副作用だろ? 問題あるめぇ。どうせこの闘技場内には多数の剣奴やイェーガーがいるんだ。あっという間に処分されらあ」

「さて、それはどうかな?」

「なんだよ。エクスぺリオン単体じゃあ、それほど強力な魔王は発生しねぇ。ある程度調整を施さねぇとな。そういう話じゃなかったのか?」

「そういう話だと聞いている。だが現場で見ていると、どうも一定の割合で強力な個体が生まれることがあるようだ。厄介と言ったのは、言葉通りの意味だ。面倒が嫌ならここを離れることをお勧めするが?」

「厄介――だと? それはつまり――」

「俺の命令に従わなかった。つまりは、それだけ強力な奴だということだ」



続く

次回投稿は、4/29(金)10:00です。

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